第六十七話
完結しました。第八十九話までの物語です。主人公レオーナの物語をお楽しみください。
「遺跡の情報は私達には、まだ入ってきておりません。わかっているのは鉱山の奥に魔物が居るという噂ぐらいでしょうか。私どもは一度も鉱山の中には入らせてもらえていませんので定かではありませんが」
レッシーは何もお役に立てず、申し訳ありません、と頭を下げ謝った。
「いや、遺跡の情報が何処もほぼ無い事は、覚悟の上だ。謝る事はない」
とクレアが慰めた。
「・・・・・・この近くに遺跡があるはずなのだが。どこかで見た景色なのだ、この街は、それが何なのかわからない」
ソシアが下を向き苦しそうに目を閉じた。
その時、ざあっと雨音が聞こえた。雨は、かなり激しく降って窓を叩きつける。
「ああ、凄い雨が降ってきましたね。洗濯物を取り入れないと」
レッシーとアーシェは慌てて一階へと駆け下りて行った。
「・・・・・・?」
ソシアは二階の窓から外を眺めた。
「どうかされました?」
レオが彼女の動きに、いち早く気が付いた。
「ああ、やはり、ここはハスハなのか」
ソシアが涙を流している。
「・・・・・・ハスハ?遺跡ですか?」
レオはソシアの目線を追った。すると埃と土に塗れた街は、玉虫色で光り輝いていた。
しばらくすると雨は止み、雲の隙間から日の光が差すと、輝きはなお一層増した。本来の街の姿を取り戻したのだ。
「―これはフェマリーンだ。私が前に身に着けていたものだ。なんて美しいのだろう」
過去の遺物がレオの目の前で、雨露を纏って燦然と照り輝く姿は、彼女の心に深く響いた。
「あれは、何だろう?」
青空に金の文字が浮かび、この街を見下ろしている。
「王の帰還、約束は果たされた。そう書いてあるのだよ」
ソシアが教えてくれた。その様はいつもより優し気だ。
「王とは、あなたの事ですか?」レオは率直に聞いた。「わたしか、お前だ」
私もですか?とレオが聞くと、ソシアは、お前はマスターだからなと微笑んだ。
「レオーナ様!」
レッシーとアーシェが階段を駆け上がって来た。
「もしかして、ここが、例の遺跡だったのですか?」
銅の採掘場のただの土埃の汚い街としか思っておりませんでした、信じられないとレッシーは頭を振った。
「無理もない、王がここに来ないと、本来の姿を見せないように、仕組んでいたからな。私自身も断片しか記憶にない。前の時代で忘れるよう己で記憶を幾つか消したのでな」
とソシアが答えた。
「どうして、記憶を消したのです?」
レオが不思議に思ってソシアに訊ねた。
「過去の記憶は持っていても危険なものなのだよ。それに私自身を私が一番疑っている。記憶が戻るのを怖い自分がいるのだ。思い出す自分を必死でこらえている。それでも、やはり同じ過ちをするのだろうな」
ソシアは煩悶の表情で言葉を吐いた。
「ここの鉱山の一番奥に行けるよう手配してくれ。後、今から言う材料を揃えて欲しい」
ソシアはレッシーにそう指示し、材料を書いた紙を渡した。
「一番奥ですか?」
「そう、そこに過去の遺物がある。そう思い出した」
ソシアはいつもより、真面目な表情で答えた。その姿は気位の高い女性そのもの。たまに女装を楽しむ彼女と随分と差がある。ファルンカや、ディ・フォンの時とも違う、どれが本来の姿なのだろうか。レオはソシアの横顔を見た。
「かしこまりました。少し時間をいただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「構わぬ。しかし、カルームの者に知れるのも時間の問題だ。早いに越したことはない」
「はい、承知致しました。では鉱山の者と交渉してまいります。あと材料ですね。これで何をなされるのです?」
「まあ、まじないのようなものだ。主とどう交渉するか伝えるからよく聞きなさい」
ソシアはレッシーに耳打ちして教えた。
「では、行ってまいります」
本来の姿に戻った街の姿に興奮する人々の中を、レッシーは駆け抜けて行った。
「本当に美しい。先程まで土埃に塗れた街だとは思えないほどだな」
ソードが二階の窓を開け、雨に濡れたフェマリーンの輝きを眩しそうに見つめた。
一部の街の人は、露になったフェマリーンを取り出そうと躍起になったが、なかなか思うようにフェマリーンを手に入れることが出来ず、道具を放り出し暴れた。
―何かで保護されているのだろうか?レオが身に着けていた鎧のように合金化されてなさそうだから、それよりは簡単に取り出せると思うのだが。
レオは不思議な現象に首を傾げた。でも、その方がいい。この街は荒らされることも無く、美しいままだ。
「あれ?」
何か異変を感じたレオが開いた窓から覗くと、砂埃が舞い込んできた。
「早く窓を閉じないと!」
クレアが叫んだ。
「クッ」
ソードが目を固く閉じながら窓を力づくで閉めた。
「何が起こっているのです?」
レオは窓から見える、砂が舞い踊る光景を見て、ソシアに問うた。
「砂嵐だな。まあ、じきに収まる。その時まで待ちなさい」
砂嵐は激しく窓を叩きつけたが、それもソシアが言った通り収まりつつあった。
「・・・・・・?!」
砂嵐が去ったあと、街は再び土埃の汚い街に戻っていた。
「これは?どういうことですか?」
レオ達はソシアに驚きの言葉を投げかけた。
「フェマリーンが見えたのは、私の記憶を呼び戻すためのもの。役目を果たしたので、元に戻ったというわけだ」
ソシアは凄い事を淡々と言ってのけた。
―やはり、凄い方だな。レオは改めてソシアを見直した。彼女、いや彼はどんな過去を生きてきたのだろう。レオはソシアの過去に思いを馳せた。
そうして、しばらくすると「皆さま、一階へとおいで下さいませ」レッシーの声が聞こえた。レオ達は顔を見合わせると頷き合い、階段を降りて行った。




