第六十六話
完結しました。第八十九話までの物語です。主人公レオーナの物語をお楽しみください。
「ええ、何?この落差は」
二階は一階の汚さは一切なく、埃すら見当たらないくらい綺麗に整然としていた。
「上は私たちの居住区ですから、綺麗にしておかないと私の神経が持ちません」
やはり、レッシーは、あの汚さが嫌なのだな、とレオは彼女のきっちりとした変わらない性格を嬉しく思った。
「皆さま、お食事はお済ですか?」
とのレッシーの問いに、ああ、まだだとソードが短く答えた。
「そうですか、では食事の準備を致しますね。そうとは言ってもこの店のお品しかお出しできませんが」
すまなそうに言うレッシーに、構わないとクレアが言った。
私も手伝おうか?レオの申し出に、店に出るのはよしておけ、とソードが戒めた。
そうか、そうですね。と寂しそうに俯くレオに、芋の皮むきなら、二階でも出来ますよ、とレッシーが仕事を与えてくれた。
「ありがとう」
レオはレッシーに感謝を述べた。「どうも、料理と聞くと落ち着かないんだ」レオがそう言うと「そうですね、そういうお方だと存じております」と彼女は微笑んだ。
「・・・・・・まだ、あの時の事、根に持っている?」
レオはその笑顔の内面を感じ取って恐る恐るレッシーに訊ねた。
「いいえ、あの後旦那様にもっと良いお酒をいただいたので」
彼女はそう言って手を振り笑った。
「あの時は本当にすまなかった」
「もう、昔の事、忘れて下さい。私は気にしておりませんから」
では、芋を持ってきましょうかとレッシーは階段を降りて行った。
「ここの料理は大量の汗をかく鉱山に働く人々向きですから塩辛いかもしれません」
とお口には合わないと思います。と断言してレッシーはどんぶりに何かしらの穀物の上に肉がのったものを皆に配った。レオが皮むきに手伝った芋も添えられている。
「―!確かに塩辛いな」
ソードはそう言いつつ、むせながら食事を進めた。
「アーシェはもっと美味しい料理が作れるのに・・・・・・。だからあまり店が流行らないのだね」
クレアも脂っこい肉を噛みぼやいた。
「おいしいよ、レッシー」
レオは故郷の味より濃いめのご飯に満足そうだ。
「ええ、セオドアの方なら何とかいけるでしょうが、ウェンデルの方には不向きかと思われます。他のものは保存食しかございませんし、我慢なさってくださいまし」
「だろうな」
ソードはそう呻いた。しかし、食べられないわけではないと肉を頬張った。
「店の看板料理でございます」
レッシーは毅然と正座してそう胸を張った。
相変わらずだ。ぼろを着ているが彼女の態度はウェンデルの頃から変わらない。レオの心に懐かしさが、こみ上げてきた
「レッシー。エーメは何処にいるのか知らないか?」
レオはためていた一番の気掛かりをとうとう彼女に質問した。
「エーメですか。・・・・・・私の口からは何も言えません」
レッシーは辛そうに目を閉じた。
「エーメの事を知っているのだね?」
「私の口からは何も」
レッシーは顔を背けた。
「レッシー?」なおも問いかけるレオに「これ以上彼女に聞くな。口にしたくても封印が掛けられているのだ。彼女は一生口がきけなくなるぞ」とソシアが忠告してきた。
「そんな・・・・・・」
レオはその言葉に愕然とした。
「レッシー、すまない。苦しませてしまったね」
そう言うレオに彼女は申し訳ございません、と首を振るばかりだ。
「すまない。ただ、エーメの様子がずっと気にかかっていたものだから」
「ええ、エーメもそう気にかけて下さるだけで、喜んでいることでしょう」
レッシーは涙を流した。レオは彼女の涙を指で拭ってあげた。
「案外とすぐ傍に居るのかもしれぬが」
ソシアがレオに聞こえない声でそう呟いた。そんな事も知らず、レオはレッシーを気遣って彼女の背中を摩り続けた。




