第六十四話
完結しました。第八十九話までの物語です。主人公レオーナの物語をお楽しみください。
―我がものよ、古き時代を終わらせるもの。我の手先になって動け。
レオは夢の中でそのような事を聞いた気がした。
「どうした?!何故そんなところに居る?」
とクレアの声が聞こえる。しかし、レオの視界は光に溢れクレアの姿は見えない。
・・・・・・夢の中だよな。
レオはどんどんと前に歩く感覚があるのが、不思議でならない。
『目を覚ませ!ジ・タ・ハークに飲み込まれるな!』
イノスの声が緊張感をもって聞こえた。
「何?これは夢ではないのか?」
レオの前に青い光が揺らぎ始めた。その光の中からイノスの姿が現れた。
「!旦那様!これはどういうことです?」
『お前はジ・タ・ハークに身体を奪われかけている。目を開けるんだ』
「はい!」
レオは思い切って目を開けるように気合を入れた。
「!」
すると、レオの視界には自分がクルヌーの遺跡の巨石群の前に浮かんで、皆を見下ろしている光景が飛び込んできた。そして、レオの腕に管をつけたままのワナクワが掴まっていた。
「これは?」戸惑うレオに『お前はハイリシュンの第二の太陽を動かそうとしているのだ。私の青い光の腕をとって、お前の身体を貫け』とイノスが命令した。
「ワナクワ、離れて」レオがそう言うと「いいえ、青の剣はカルウのものになるのだ!青の剣を手に入れる絶好の機会を逃すものか!」と青い光のイノスに飛びかかった。
「旦那様!」
レオが悲鳴を上げた。イノスとワナクワは青い光の中で争っているように見える。
「あー!」
絶叫と共にワナクワが青い光から地面へと叩きつけられた。
「ワナクワ!」レオが心配気に彼女を見た。『さあ、早く貫け!』イノスが再び姿を見せた。
「はい!」
レオはイノスの手を取ると、実体のある感触に驚きながら、自分の胸へと引き寄せた。レオは衝撃を受けるものだと思ったが、イノスの姿はレオに近付く時に、ただの光となって、彼女の身体を貫いた。
「うわ!」
レオの身体を青い光が貫くと同時に、彼女の身体も地面へと落ちて行った。
―!落ちる!とレオは身構えて目を閉じると落ちる速度が遅くなった。
「え?」
何か体全体に浮遊感を感じたレオは恐る恐る目を開けた。
「・・・・・・浮いてる」
レオは驚いた。床にゆっくりと自分の身体が降りてゆくのだ。青い光に包まれて。
『これで、大丈夫だ』
レオの足が地面に着くとイノスの声が聞こえた。
「旦那様?」
レオがイノスを呼ぶと青い光が消えた。背中にある青の剣シェルシードを手に取ると淡い青の光が揺らめいていたが、それも数分で消えて行った。
「旦那様?・・・・・・どういうことです?」
レオは青の剣シェルシードに訊ねたが、何も反応が無い。沈黙を守っているようだ。
「お前は自身の中に在るジ・タ・ハークに身体を奪われかけたのだ。そして、イノスがそれを防いだ。今は全て収まった。安心しなさい」
ソシアがレオに説明した。
「ジ・タ・ハークは私の中に在るのですか?」
レオは驚きの真実に衝撃を受けた。
「あれは、お前の深層部で息づいている。隙あれば、お前を乗っ取る」
そんな・・・・・・レオは言葉を失った。ジ・タ・ハークが自身の中に存在していたなんて。そのような危険が常にあったなどと、思いもしなかった。
「神様だ!」
打ち拉がれるレオにタモンの一人が叫んだ。
「神様だ・・・・・・」
ざわざわとタモンの人々の中で、その言葉は広がっていく。そして皆レオに向かって平伏し始めた。
「え?」
レオが顔を上げると、更に平伏した頭が低くなった。
「どういうことですか?やめて下さい、こんな事」レオが戸惑うと「あなた様は青の光に包まれて降りてこられた。タモンの予言書に書いてある、いつか来ると信じられている神と同じなのです」とユリカシが答えた。
「そんな・・・・・・何かの間違いでは?」
レオは困惑した。
「事実だろうな。昔そう言い残したのは私だからな」
さも当然のようにソシアが言い放った。
「何言い残しているのですか」
レオは何て事をとソシアを咎めた。
「凄いな、あなたが神様だなんて」「神様か」
といつの間にか傍に来たクレア達が揶揄った。
「やめてください」
レオは困り顔だ。
「それにしても、青の剣シェルシードのマスターは凄い力があるのだな。この目で見るまでこの様な力があるとは思わなかった。まさしく神だな」
とソードはレオの持つ力を驚異に思っているようだ。
「そういえばワナクワは?大丈夫でしょうか。地面に叩きつけられたみたいですけど」
レオは急に神だと崇められたせいで、頭が混乱したが、ようやく彼女の事を気にかけた。
「あれなら、そこに」
とソシアが巨石の隅で、小さくなったワナクワを指差した。
「ワナクワ!大丈夫ですか?」
レオは彼女に駆け寄った。
「青の剣シェルシードを奪おうとした奴に情けは無用じゃ。ほおっておけ」
ソシアはレオの背に非情な言葉を言ってのけた。
「・・・・・・私は何を?」
顔を上げたワナクワは、幼い小さな子供の顔をしていた。それはまるで生まれ変わったかのようだ。
「青い光の事を覚えていますか?」
レオは優しくそう訊ねた。
「青の光?」
ワナクワは透徹した眼差しでレオを見た。
「覚えてなければいいのです」
レオはワナクワに言うとソシアに向き直った。
「これも、青の剣シェルシードの力ですか?」
「そうじゃな。・・・・・・ワナクワよ、命拾いしたな」
誰が聞いても、ゾッとする声色でソシアが答えた。
「こんな小さな者に怖い事言わないでください」
レオがそう窘めるとソシアは小さいと言っても長く生きた婆には変わりはない、とそっぽを向いた。
「ワナクワは悪だ!青の光に弾かれたぞ。神から何かを奪おうとした!悪い奴!」
ざわざわとタモンの人々が騒ぎ始めた。
「この事態どうする?」
クレアが騒ぐタモンの人々を見て、レオ達に訊ねた。
「お前がタモンの神になり、ここを旅立つと伝えろ。そしてワナクワはお前の代わりだと言え」
ソシアの提案にレオがそんな事できませんよ、と困り顔だ。
「そうするしかない。俺もそう思う」
とソードも賛同した。
「そうだな、ここにはもう用事が無い。タモンの人々にわかってもらうためにも、そうしなさい」
とクレア達も口々にソシアの意見に賛同した。
「やってみる事だ」
ソードがレオを促す。
「―うう」
レオは言い返せない自分を呪い、覚悟を決めた。
「タモンの人々よ!私は訳があって、この地を離れる」
レオがそう宣言すると彼らは騒めいた。
「しかし、いつの日か戻りお前達の元に止まる。その日まで待っていてほしい。それまで、ワナクワがこの私の代わりだ。神の化身として扱いなさい。私の言葉を信じてはくれまいか」
レオは何とか言葉を紡いで、そう彼らに呼び掛けた。ウェンデルにいた頃、カレエに演技指導してもらったおかげで、何とか芝居が出来たとレオは彼女に感謝した。
「我が神がそう言うのなら・・・・・・」
タモンの人々はレオの言葉に、中には泣く人もいたが、承知してくれたようだ。
「では、さらばだ」
レオの声に彼らは平伏して答えた。
「・・・・・・」
レオはそんな彼らを見て、居心地が悪くなった。何か落ち着かない。早くこの場を立ち去りたかった。
「行こうか」
レオはソードの声に息をつくと彼の背を追った。




