第六十三話
完結しました。第八十九話までの物語です。主人公レオーナの物語をお楽しみください。
「東南方向に行く事になる」
クルヌーの遺跡から帰って来たソシアは皆にそう告げた。
「ラスティンの街がある方向ですか?」
ソードがソシアに訊ねた。ソードは彼自身、初めての世界なのに、よく地名がわかるものだと、レオはクレアにそう訊ねた事がある。彼はウェンデルにいた時からディ・フォンに世界地図を頭に叩き込まれているから、あのように的確に答えられるのだよ、と教えてくれた。
「ふむ、そうなるな。あの方向に、又このような遺跡があるはずだ」
とソシアは簡潔に答えた。遺跡についてどれだけの事を周知しているか、彼女自身わからない事もあるとレオに零したことがある。ソシアでも知らないことがあるのだとレオは意外に感じたものだった。
「わかりました。では、今日はもう遅いので、ここで泊まる手配はしました。なので、一泊して明日出発しましょう」
「わかった」「わかりました」
とソードの提案にソシアとレオはそう返事を返した。
「今宵は特別なおもてなしをご用意させていただきます」
既に眠りから目覚めたワナクワは背中の管をつけ、元の若々しい顔になった彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「ラクヌー!ラクヌー!ラクヌー!」
とクルヌーの遺跡の広場で、ユリカシが松明の明かりのもと、舞い踊る。その傍らには彼の子供たちも踊っている。体をくるくる回す踊りは楽しそうで、レオの気持ちも高揚し、手を叩いて音頭をとった。タモンの人々ほぼ全員がそろっているようだ。彼らにとっての最高のおもてなしだった。このようなことは滅多にしない、とユリカシが教えてくれた。
食事もウリカイという鶏の肉は肉厚でとても美味しく、他の料理も美味であった。レオは今ようやく旅の楽しみというものを感じ、幸せな気分を味わっていた。
「今まで、旅をしてここまでのごちそうは食べられなかったな。もちろんお前の手料理も美味しかったぞ。それにしても、嬉しそうだな、リオ」
クレアが声をかけてきた。
「ええ、こんなに美味しいものは初めてです。セオドア料理と同じか、それ以上です」
レオは満面の笑みで答えた。
「・・・・・・ところで、あの男前達二人、できてないか?」
クレアはそう言うと隅に座って、お互いに身体を触れ合う若者に視線を送った。
「そう思います?実は私も怪しいと思ってました」
レオはお酒が入っているせいか上機嫌で笑った。
「怪しいな」「怪しいです」
二人はふふふと笑い合った。
「どっちが攻めるんだろうな」
「やはり、少し背の高い黒髪の方では?」
「いや、意外と茶髪の男の方かもしれないぞ」
クレアが見てみろと顎で彼らを示した。
「そうかもしれませんね」
レオは茶髪の男が、黒髪の男に触れるのが、多い事を確認して頷いた。
「いい絵ですね」
「眼福ものだよ」
久しくこのような光景味わってこなかったな。と二人しみじみと彼らの行動に想像の翼を大いに広げた。
「このような所で・・・・・・駄目だよ」
「皆こちらを見てないよ、気にするなよ」
レオとクレアは勝手に彼らの台詞をあてて楽しんでいると、「お前達は相変わらずだな」との声がしたので後ろを振り向くと、はぁ・・・・・・と息を吐くソードが立っていた。
「別にあくまで、想像の範囲内だ。楽しみを私から奪うな」
とクレアが口を尖らせた。
「悪いとは言っていない。だが、もう少し声を押さえなさい。タモンの人々にも聞こえていたぞ、お前達の声が」とソードに咎められると「声が聞こえてましたか!」「そんなに声が出ていたとは!」二人して慌てた。気を付けていたはずだが、酒が入っていたせいか声が大きくなっていたようだ。
「場所を考えて振舞えよ」
ソードの言葉に二人は頭を下げ謝った。
「だだの注意だ。そんなことされたら困る」
じゃ、と行き場のなくなったソードが離れていく。
「ソード!」
クレアが彼の後に続いた。クレアに気が付いたソードの腕に彼女の腕が絡まる。
「私が見ていた先ほどの子は好みか?」
クレアは楽しそうに、生き生きとソードに話しかけた。
「そうだな、綺麗な髪の毛をして肌も艶やかなのも良いな」
「そうだと思った」
クレアは嬉し気に笑った。そのように、しばらく二人は会話をしていたようだが、やがて肩を並べ暗がりへと消えて行った。
「―・・・・・・」
レオは二人を自分とイノスに置き換えてその様子を見つめていた。いいなあ、好みの男の話ができるなんて。旦那様は絶対に同意しないだろう、当然だな。レオは彼らを羨ましく思った。それに肝心のイノスは夢の中でしか逢えない。夢の中のイノスは本当のイノスなのだろうか。自分が作った幻想にすぎないのではないだろうか。レオは半信半疑に陥っていた。あれは夢なのだ、と言い聞かせる自分と、本物のイノスに会えているのではと心浮き立つ自分がいる。今度イノスと夢で逢えたら自分の夢なのか、彼が逢いに来てくれているのか確かめようか・・・・・・と考えを巡らせているとタモンの少女が踊りませんか?とレオを誘ってきてくれた。
少女はユリカシの娘カノンと名乗った。目元などがユリカシに似て優し気だ。
「踊りは簡単です。太鼓の音に合わせて三回その場で回るだけです。基本はそれだけで大丈夫です」
じゃ、やってみましょうかとカノンはレオを踊りの場へと導いた。
「ダン・ダン・ダンで、回る・回る・回る、です」
レオは言われたままに三回を回って見せた。
「そうその調子です」
カノンは嬉しそうに笑った。
「ダン・ダン・ダンだね?」
「そうです!上手ですね」
「そう?」
レオは楽しくなって踊りの輪へと入って行った。カノンもそれに続いた。
くるくると回ると酒のせいで、頭が少しふらつくが、踊りの楽しさの方が勝ち、レオは終始笑っていた。ソシアもお気に入りのドレスを着て舞い踊っている。彼女は本当に嬉しそうだった。
・・・・・・これがソシア様の本来の姿かもな。レオも、そんな彼女を咎めることも無く一緒に踊った。
―こうしてタモンの宴は盛り上がり、人々はそれを大いに楽しみ、夜が更けていった。




