第六十一話
完結しました。第八十九話までの物語です。主人公レオーナの物語をお楽しみください。
シュゼンバーの街から離れて、二日間で幾つかの峠を越え、大きな樹海の前に来たところで、一同は足を止めた。
「ここからが難所です。まずはタモンの人々に会いに行きましょう」
とクロウドがそう皆に伝えると、彼らは森に居ます、森に入りましょうと歩き始めた。
「・・・・・・鬱蒼としているな」
クレアは暗い森の道の空を見上げて僅かな光に目を細めた。
「ラライラライイヤー」
突然、森の奥から雄叫びが聞こえた。
「ラナラナフ」
とクロウドがそれに答えた。
「イヤフウー」
と又聞こえた。
「タモンの人々です。こうして敵か、味方か判断しているのですよ。暗号のようなものですね」
とクロウドが説明してくれた。
「こっちに来なさいと許しを得ました。行きましょうか」
クロウドは足を進めた。
「わあ・・・・・」
暗い森の中からレオ達は一気に光あふれる場所にたどり着いた。木の枝にあちこちとランタンが掛けられ辺り一帯を明るく照らしている。その中心に三件のテントが張ってある。
「これはタモンの人々の暮らす家です。この森で採れるファモンという植物や木材を加工した彫り物などを各地で売り歩いているのです。ちなみに、ここはひと家族で住んでいますが、他の所では二、三家族が普通のようです。このような場所が、この森の中で幾つかあるのですよ」
クロウドがそう言うと、テントの中から人が出てきた。長身な男だ。髪も長ければ髭も伸ばし放題だ。しかし、毛並みは整えられ毛の先には木の留め金が幾つか付いている。この人なりのおしゃれなのだろうか、とレオはそう感想を持った。
「おお、クロウド!我が友」
「ユリカシ!久しぶり」
と言うと二人は抱きしめ合った。
「・・・・・・この人々が、あなたの仲間か?」
「ああ、そうだ。ソシアにソード、クレア、リオだ」
クロウドはわざと敬称をつけずに皆を紹介した。身分が分からないように気を付けての事だ。クロウドより年下に見えるソシアやレオは敬称で呼ぶと違和感が否めない。
「彼はユリカシ。タモンの商人。クルヌーを案内してくれる人です」
「ようこそ、私はユリカシ。クロウドの仲間は、いい人に違わない。私は信じる」
とユリカシはレオの前で手を差し出し握手を求めた。
「よろしくお願いします」
レオは彼の指輪がたくさん着けられた手を握りしめて礼を取った。
「よろしくお願いします」
他の者も同様に挨拶を済ました。
「では、私はカレエの元に帰ります。後はユリカシ、クルヌーの案内よろしく頼みます」
とクロウドが別れを告げた。
「うむ、わかった。任せとけ」
ユリカシはそう言うとクロウドと握手を交わした。
「カレエ様によろしく言っておいて下さい。必ず会いましょうねって」
レオはクロウドに懸命に伝えるように頼んだ。
「わかりました、伝えますよ、必ず」
クロウドは人の好い笑顔で答えた。
「皆さま又お会いしましょう」
右手を上げるとクロウドは森の中へと消えて行った。
「・・・・・・」
その後ろ姿を見送った後、ユリカシがこちらを向いた。
「クルヌーに行くには、まずは、番人である長老の許しを得なければいけない」
後に続けと、ユリカシは森の中へとレオ達を案内した。
「クルヌーの番人、ワナクワ!客人を連れて来ました。姿を現してください」
ユリカシは森の中にある巨石群の前でそう声を上げた。レオ達は巨石の大きさに圧倒された。何処から運ばれたのだろう?周りには森しかないのに。レオは森の中の巨石群の存在を不思議に思った。
「クルクルクイッキー」
と岩の中から声が聞こえた。
「イクウルパナ」
とユリカシが答える。
「ウルククー」
そう声が返って来た。と同時に大きな仮面をした人物が岩の奥から現れた。
「ワナクワ!彼らにクルヌーに案内したいのです。彼らに許しをお願いします」
ユリカシはそう言うと頭を下げた。
「・・・・・・レキニー、レキニー様だ!またお会いするとは!」
とワナクワはソシアの前で跪いた。その背にはたくさんの管が繋がっていた。レオ達はその姿に驚いたが、沈黙を守った。そして、ワナクワは仮面を外した。下を向いているので、よくわからないが、長老と言われている割には意外と肌が若いように見えた。
「カルウだな?その声は」
ソシアの質問にワナクワは顔を上げた。
「―!」
ワナクワは若い女性の顔をしていた。瞳は大きく紫の美しい色をしていた。ユリカシのように髪を伸ばし毛の先に木の飾りを着けている。
「懐かしや、レキニー様」
「久しいな、カルウ」
ソシアは嬉しそうに彼女を見つめた。
「お二人はお知り合いなのですか?」
ユリカシが驚きの声を上げた。
「うむ、古い時代の生き残りじゃ」
ソシアはそう答えた。
「・・・・・」
ソシアは、つまりディ・フォンは、ウェンデルを建国したリィンドゥンだという事はレオの知る事だ。青の剣シェルシードのマスターである彼女の秘密の内の一つだ。ちなみにオウリエンとリィンドゥンは同じ人物だという。あれこれ伝承を作り人々を惑わしたのは、自身が始祖であることを隠す為だったという。古い時代の方なら本当は見た目よりかなり年を取っているはずなのに、この二人の若さは何だろうとレオは不思議に思った。でもディ・フォンの時は違うな。それに、レキニー様って、ディ・フォンには幾つ通り名があるのやら、他にも名が沢山ありそうだ。そもそも、どうやってソシアの姿になっているんだろう?レオは考え込んだ。しばらく考えたが、答えは見つからない。後でソシアに訊ねてみよう。今は考えるな・・・・・・そう自分に言い聞かせ、レオは彼女らの会話に集中した。
「ハイリシュンの奥地に行きたいのだが、案内を頼む」ソシアがそう頼むと、「ハイリシュンとは懐かしき名だこと!もうその名を聞くことは無いと思っていましたが」とワナクワは興奮気味に話した。
「では、管を抜いてくれ、ユリカシ。これでは移動がままならぬ」
ワナクワはユリカシにそう言うと背を向けた。
「わかりました。では抜きますよ」
ユリカシはワナクワの背にある管をどんどんと抜いていった。管を抜くとその管で開いていた穴が塞がっていく。ユリカシはワナクワの背にある全ての管を抜いた。
「さて、行きましょうか、レキニー様と青の剣シェルシードのマスターだけ、ついてきて下さい」
と振り返った彼女の顔は年老いた老婆の顔だった。




