第五十九話
完結しました。第八十九話までの物語です。主人公レオーナの物語をお楽しみください。
「―」
朝が来たようだ。レオは目覚め身体を起こした。クレアの姿が見える。
「朝ですか?」
ここは地下なので朝日が入る事が無い、いつ日が昇ったかわからないのだ。レオがそう声をかけると「まだ少し早いがな」とクレアは答え、おはようと挨拶してくれた。
「おはようございます」
レオもそう返すと使った寝具を片付け始めた。
「・・・・・・」
そういえば、最近は旦那様が夢に出てこないな。レオは少し疑問に思ったが、まあ、そういう時もある、常に旦那様が夢に現れる事はなかったのだから、心配しないでおこうと自分を落ち着かせた。
「皆さんは何処にいらっしゃるのですか?」
レオは自分以外に人がいない事を確認してそう質問した。
「下で朝ごはんを作っているみたいだ。私達も行こうか」
「はい、そうですね。クレア様は私を起こしに来て下さったのですか?」
「いや、私も先程起きたばかりだ。下では何やら大騒ぎのようだ。それで目覚めたのだが、朝ごはんごときに何をやっているのやら」
とクレアは苦笑した。
「朝ごはんは私に作らせていただけたら嬉しいのですが」
レオは久しぶりに料理の腕が振舞えると嬉しく思った。
「リオは料理を作るのが好きなのだったな。しかし、もう作り終えているかもな」
それは困るとレオは慌てて階段を目指した。
下に降りると、クロウドとソードは頭から粉を被って、料理をするソシアを止めようとしていた。
「危ないので、ここは私どもに任せて、椅子にでも座っていて下さい!」
とソードがソシアを椅子に座らせた。
「ソシア様、一体何をされたのですか?」
レオはむくれているソシアに声をかけた。
「むう、久しぶりに料理と言うものをしておきたかったのだが」
と言うとソシアは口を膨らませた。
「大変だったのですよ、ソシア様は自分の手を包丁を使って、もう少しで切断しようとされたのですから」
とクロウドがレオに泣きついた。
それは大変なことを・・・・・とレオはソシアを見たが彼女はご機嫌斜めだ。
「もう、台所に立たないと約束して下さい」レオがそうソシアに言うと「あやつらが大げさなだけだ。私の腕は確かだ」とツンとそっぽを向いた。
「じゃ、この椅子に紐で括りつけておきましょうか」
とレオは紐を探す為、辺りを見渡した。
「主にそんな扱いしていいのか!」ソシアが怒ると「じゃ言う通りにして下さいますか?私も主をぐるぐる巻きしたくありませんしね」とソシアにとどめを刺した。
「―恐ろしい奴だ。お前は本当に言った事を実行するからな」
ソシアはじろりとレオを見た。
「よくご存じで。では大人しく、ここで朝ごはんの用意が済むまでお待ちくださいね」
レオはそう言うと、にっこりと微笑み返した。
「お前は本当に恐ろしい」
とレオに聞こえないように口の中でぼそぼそと呟いた。
「さあ、皆さま。これで一安心ですよ。私が朝食を作りますね」
レオはそう言うと腕まくりし、調理台へと向かった。
「さすが、王にそこまで言えるのは君くらいだな」
とソードがレオに敬意を払った。
「あれくらいどうという事はありませんよ。それよりここは私に任せて下さい。これでも料理の腕は自信があるんですよ」
とレオは嬉しそうに、そうソードに言うと調理にかかった。
―こんなにも料理が楽しいものだったかな。レオは久しぶりの調理に喜びを感じていた。
葉物のザクザク切れる音、油のじゅうと爆ぜる音、煮物のぐつぐつと煮込まれた匂い。レオは五感で調理を楽しんだ。
「さあ、朝ごはんが出来上がりました!召し上がれ!」
レオはテーブルに、ありったけの料理を並べた。どれもクインシーに教わった自慢の料理だ。ああ、でもセオドアの料理はウェンデルの人には、味が濃いかもと不安に思いながら自分の作った料理を口にする彼らを見つめた。
「旨い!」「美味しいです!」
とレオの不安を払拭する様に皆口々にレオの料理を喜んでくれた。
「美味しいな、リオは料理を作るのが上手い。本来火は扱う事は禁忌だが、この際そうもいっていられないからな、クロウド達も毎日火を扱っていたみたいだし。しかし本当に上手だ」
とクレアが顔をほころばせながらレオを褒めた。
「材料が豊富でしたし、火を使った料理は久しぶりでした。楽しかったです、いろんな物が作れて」
レオは少し照れたように、はにかんだ。
「それと、クロウド様。カレエ様に粥を作ったので後で差し上げて下さい。滋養のつくものをたくさん入れてみました。今はちょっと粥が熱々なので、少し冷めてからがよいでしょう」とレオが伝えると「そうですか!それは有難いです。奥様も喜ぶでしょう」クロウドはレオに深々とお辞儀をして感謝した。
「いえいえ、そんな頭を下げてもらうような事はしておりませんから。どうか顔を上げて下さい。それよりカレエ様の身体の調子はどうですか?」
「まだ、疲れが残っているようです。本人は元気だと言っておりますが、まだまだです。でも、この粥を食べれば元気が出ると思います。本当にありがとうございます。では奥様のところに持って行きますね」
「まだ、粥が熱いですよ」
とレオはクロウドが粥に手を出そうとするのを止めた。
「こうやって、布で包めば、大丈夫です」
と彼は粥の入った小鍋を布で包むと、いそいそとカレエの元へと急いだ。
「―余程、カレエが心配のようだ。せっかくリオが作った料理も、ほとんど手を付けてない。そうしてまでも、傍に居たいのだろうな」
とソードがクロウドが去った後を見つめ、やれやれと首を振った。
「彼はカレエの事が一番だからな」
クレアは羨ましいくらいだとソードに向かって言った。
「私だって、お前が一番だ」とソード真顔で言われると「そんな真面目に答えるな。冗談だろうが」と思ってもない夫の言葉にクレアは少し狼狽したように顔が赤い。
―いいな、夫婦って、とレオは二人の掛け合いに微笑んだ。こうして、いつでも傍に居られるなんて羨ましいな。本当に二人は仲が良い。ソネリアンとアネキンの世界は想像にすぎない事がよくわかる。今ではレアードの行方が事実でなくて良かったとさえ思える。あれはクレア様の想像の産物。美しい虚像だ。美しい世界は美しいままでいい。ああ、早く夢だけじゃなく旦那様本人に会いたい。レオはその気持ちを強く願った。




