第五十八話
完結しました。第八十九話までの物語です。主人公レオーナの物語をお楽しみください。
カレエはベッドに寝かされ、クロウドはその額に冷たい水に浸し、絞った布をのせ彼女を心配そうに見つめた。
「大丈夫よ、少し横になれば・・・・・・」
とカレエは顔が青ざめているのにも関わらず、気丈にも夫に微笑んで見せた。
「これは相当疲れが溜まっているな。クロウド殿、アドウの粉はここにはあるか?後、お湯も必要だ」
クレアがクロウドに問うた。
「はい、あります。一階にあります。持ってきます!」
クロウドはそう言うと一階へと駆けて行った。
「カレエ様・・・・・・」
レオは辛そうなカレエにかける言葉が無い。
「まるで、私が死ぬかのような落ち込みぶりね。私は大丈夫よ、心配しないでくれる?いつでも動けるわ」
カレエはそうレオを睨んだ。
「そんな強がりを言わないでください。こんなに顔色が悪いのに」
レオは無理に起き上がろうとするカレエの身体を抑え込んだ。
「ゆっくり身体を休めなさい。見渡の術を軽く見てはいけない」
クレアはそうカレエを諭した。
「アドウの粉を持ってきました。後はお湯と・・・・・・砂糖も必要ですよね?」
クロウドが部屋に帰って来た。
「ああ、そうだな。指示してなかったのに、よく気が付いたね。これはお湯のみだとかなり飲みにくいのだったな」とクレアが褒めると「私もここで、薬を作っていましたから・・・・・・」と恐縮ですと身を縮めた。
「そうだったな、すまないクロウド。さあ、カレエ、この薬を飲みなさい」
とクレアはカレエに作った薬を差し出した。
「・・・・・・くっ!」
カレエは薬にむせそうだ。苦そうに顔をしかめた。
「砂糖が入っていても飲みにくいか・・・・・・それでも最後まで飲み切りなさい。そうしないと薬の効果が出ない」
クレアはカレエの背を摩りながら頑張れと励ました。
「入っていいか?」
とソードの声が部屋の戸口から聞こえた。ソードがすぐにこちらに向かわなかったのは、カレエが着替えなどする可能性を考えた上の行動だった。
「いいぞ、もう処置はした」
とクレアはそう返事を返した。ソードは神妙な面持ちで戸を開けた。
「そうか、で・・・・・・どうだ?症状は」
とソードは寝入ったカレエを見ながら、そうクレアに質問した。
「このまま何とかいけば、今夜にも回復するだろう」
クレアはカレエの表情を見つめ答えた。
「彼女は旅に出る体力はあるか?戦闘に加わることは出来るか?」
ソードはクレアに訊ねた。
「微妙だな。どれだけ体力が回復するかによるな」
とクレアは溜息交じりにそう返答した。
「・・・・・・ここに一人残すことになるか。クロウドは遺跡の案内をしてもらわなくてはいけないし」
と非情なことをソードは言いのけた。
「そんな!奥様を置いて行くなんて出来ません!」
とクロウドが反論した。すると、カレエが急に目を覚まし口を開いた。
「あなたと離れ離れになるのは嫌」
カレエは目に涙を浮かべ夫を見つめた。
「置いて行きませんよ。私の愛しい人、私が担いででも連れて行きますとも」
クロウドは弱々しい彼女の手を取って握りしめた。
「けれど、お荷物になるのはもっと嫌。ここに居ます」
カレエはそうはっきりと言い切った。
「そ、そんなことできるわけがないでしょう。こんな状態のあなたに。それに、ここに残るのは危険です」
そう言うとクロウドはカレエの頬に流れる涙を拭った。
「私なら大丈夫。ここで、ただの老婆になりすましたほうが、安全だし、やり過ごすことが出来るわ。体調が戻り次第この街から出るつもりよ」
「そうしてもらうしかないか」
ソードは仕方ないと深く息を吐いた。
「そんな、カレエを置いて行くなんて出来ません。うちの奥様は身が軽いので背負っても苦になりません」
とクロウドはソードに訴えた。
「この場を離れるのに少し足手まといなのは否めない」
そうソードは冷酷な事を言ってのけた。
「ソード様の言う通りよ。私を連れて行くのには危険すぎるのよ。皆の足を引っ張るのはごめんだわ」
とカレエは苦しいはずなのに、いつものように平然と言い放った。
「ただでさえ、危険な道のりだ。クロウドが心配なのもわかる。ではこうしてみたらどうだろう。クロウドが遺跡まで案内してくれたら、こちらとしてはそれだけでいい。十分だ。その後にカレエを迎えに、この街に戻るという事にしてみては?」
とクレアが助け舟を出してきた。
「それは・・・・・それでも、このような状態の奥様と離れるなんて」とまだ渋るクロウドに「あなた、私を置いて行かないと離縁するわよ」と自分の夫を睨みつけた。
「え?」突然の言葉に狼狽する夫に、尚も畳みかける言葉を言った。「別れるわよ!あなたが私の事を思ってくれるのは嬉しいわ、でも任務を遂行できないとなると話は別よ。今は奥さんの事より、皆をどうやって遺跡に連れて行く事なんじゃないの?」
「・・・・・・わかりました。私の愛しい人。本当に大丈夫なのですね?」
「そうよ。大丈夫よ」
「いつもの勝気な奥様だ・・・・・。これでこそ自慢の奥様だ」
そうクロウドが泣くと馬鹿ね、とカレエは夫の手を優しく撫でた。
「・・・・・・じゃ、カレエには悪いが、カレエはここに残ることにして、明日の夜ここを発つぞ。皆それまで身体を休めなさい」
ソードはそう皆に指示した。
―あのカレエ様が涙を流すなんて、気弱になられたな。けど、相変わらずのカレエ様ではあったか。
レオは久しぶりのふかふかの寝具の中で、一人身じろいだ。寝具のあまりにも久しぶりな感覚に眠気がこないでいる。むしろ興奮状態に陥っていた。それに、稀に聞こえてくるイノスの声もない。
―なんだろうこの感覚は。まるで何かが襲ってくるような。
「・・・・・」
レオはそっと起き上がり周囲を見渡した。すると、薄明りの中に二人の影が部屋の窓に身を隠しながら外を窺っている様子が見えた。
「・・・・・・静かに、そのままでいなさい」
微かにクレアの声がする。影から察すると隣にいるのはソードのようだ。レオのすぐ傍には、ソシアは静かな寝息を立てている。
「よし、なんとか切り抜けたか」
とホッとソードが息を吐いた。
「どうしたのです?」レオの問いに「我らを追って来たカルームの連中だ。すぐそこまで来ていた」とソードがそう答えた。
「そんな事になっていたのですか?そのような事態に寝ていたとは面目ありません」
とレオは恥ずかしくなり下を向いた。
「いや、あえて起こさなかった。気配を消すには寝ていてくれた方がよいのだよ」
ソードはそんなに気にするなとレオを慰めた。
「後、一日無事に過ごし、ここを出られたらいいが・・・・・」
とクレアが不安気にソードを見た。
「表に出なければ、身を隠せる。ここを出て移動する時が一番危険だろうな」
とソードは険しい顔を浮かべた。
「肝心なのは明日の夜ですね。あのカルームの者は、戦闘能力が今までの者より随分と高いように思います」
レオはそう冷静に分析した。
「そうだな、一番厄介なのは連中に見つかる事だな」
ソードはそう言うと険しい顔を見せた。
「こうして、考えていても仕方ない。身体を回復させることが優先だ」
さあ休もう、とソードはクレアとレオの顔を見てそう言った。




