第五十七話
完結しました。第八十九話までの物語です。主人公レオーナの物語をお楽しみください。
「ようこそ、アシェントの店に」
くしゃくしゃな笑顔で店の主であろう老婆が出迎えてくれた。ソードの肩から彼女の肩にこれまで案内してくれた鳥が飛び乗った。香料や薬草の香りが店に充満している。この店は香料や薬などを扱う店のようだ。所狭しと香料や薬草の袋が積んである。
「さ、早く中へお入りください」
そう言うと老婆はレオ達を奥の戸の中へと追い立てた。
「戸を閉めて・・・・・・と」
老婆は閉じた戸に鍵をかけると、しばらく耳を傍立てた。
「これで大丈夫ね」
そう老婆の口からカレエの声が聞こえたと思ったら、老婆は下を向き顔を手で覆い、そして顔を上げるとカレエの顔が現れた。
「カレエ様!」
レオは驚いて彼女を見た。服から覗く肌は顔以外皺が寄って、どう見ても老婆なのだが、顔の肌だけが陶磁器のような美しいカレエのものだ。
「これは偽装よ。普段はたまにしか、店を開けない老婆のふりをしているのよ」
ふふと驚くレオを見てカレエは笑った。
「こうでもしないと、この街では生きていけないの」
美貌を持つって大変だわとカレエは、笑ってみせた。
ピイと鳥が鳴いた。
「緑ちゃん、ご苦労様」
そうカレエが言うと鳥は再びピイと鳥鳴いた。
「緑ちゃん、と言うのですか?」レオがそう訊ねると「そうよ。可愛い私のお利口さんなの」と緑ちゃんの頭を優しく撫でて見せた。
「そういえば、鳥からあなたの声が聞こえたな。・・・・・・見渡の術か?」
クレアがそう聞くと、そうですわ、とカレエは頷いた。
「見渡って何ですか?」とレオがクレアに質問すると「魂を鳥に繋げて飛ぶ術の事だ。この術は大変な気力が必要な術だ」と答えてくれた。
「それは誰でもできるのでしょうか?」
レオは凄いなと感心し、興味を持った。
「ダーラの者なら使える術だよ。私も使える」
鳥さえあればの話だが、・・・・・・私の鳥は死んだからな、とクレアは緑ちゃんの頭を撫でた。
「それにしても、疲れたでしょう。私たちの事は構わず休みなさいね」
とクレアはカレエを気遣った。
「私は大丈夫です。それより皆さんにお伝えしたいことがあります。さあ、もっと奥の部屋に行きましょうか。旦那様もいらっしゃいます」
さ、どうぞとカレエはレオ達をさらに奥の部屋へと案内した。
「いやあ、皆さまお久しぶりです」
案内された奥の部屋には、カレエの夫クロウドが明るく出迎えてくれた。相変わらず彼は優しそうに感じた。奥の部屋にも様々な香料や薬草が壁一面に積まれている。クロウドはここで、大きなすり鉢で薬を作っているのですと説明した。
「表に出るのは奥様だけです。私は身体が大きいので悪目立ちしますから・・・・・・」とクロウドは申し訳ない事ですと沈んだ顔を浮かべた。あなたはそんなこと気にしないのとカレエは夫の肩を軽く叩くと、レオ達に向き直った。
「さ、話をしましょう。良い話と悪い話があります」
カレエはそう言うと、ううんと咳払いした。
「まずは良い話からしましょうか。・・・・ここを拠点に色々探ったのですが、ここから二日ほど歩いた所にクルヌーという土地に古い遺跡があって、そこが青の剣にまつわる遺跡のようです」
「クルヌーか・・・・・・私の記憶には無い名だな」
とソシアが自信なさげに、そう呟いた。
「そうですか、おそらくそれで合っていると思われます。最近までその情報は得られませんでした。ほんの一握りの人しか知らない遺跡だったのです。タモンという商人の一族だけが知る遺跡で、クルヌーは彼らの聖地なのだそうです。クルヌーは彼らだけの呼び名で、元はハイリシュンと呼ばれた都だったとのことです」
とカレエはそう言うと、ここまでの情報を掴むのに、かなり骨を折りましたよ、と首をすくめて見せた。
「ハイリシュンか!懐かしき都!そうかこの地に、まだその跡が残っているのか」
ソシアは嬉しそうに目を輝かせている。
「今は・・・・・・呼び名は、ディ・フォン様でなく、ソシア様でよろしいでしょうか?」
「うむ、それでいい」
「ソシア様がそうおっしゃるのなら、この情報は確実ですね」
ホッとした様子でカレエは目を伏せた。
「では悪い話です。この店にもカルームの者の手が迫っています。ここを畳んでクルヌーに向かおうと思います」
とクロウドが神妙な面持ちで皆にそう伝えた。
「では、ここでの活動はもう無理か」とソードが言うと「そうですね。それでも、ここは仮の拠点です。他にもダーラの活動拠点はまだありますから」とクロウドは笑って見せた。
「とりあえず、明日の夜に街を出発しようかと思います。夜陰に紛れた方が人目に付きにくいですからね。それまで、身体を休めて下さい。二階へと案内します」
クロウドは奥の階段を指し示し、レオ達を案内した。そして、カレエに店を閉めるよう伝えた。
「ええ、わかったわ。又美しい私から老婆に戻らないと」
とカレエは老婆の面を顔に被せた。
「行ってくるわね」と老婆になったカレエは店先へと移動した。その様は本当に老いたように見える。さすが、私に演劇を教えただけはあるな・・・・・・とレオは改めて感心した。
「皆さまこちらです」
とクロウドが案内した部屋は、ベッドが四台ギリギリ入るくらいの大きさだった。ベッドの寝具は清潔に保たれおり、布団も綿の多く入った上質なものだ。レオは久しぶりに寝心地の良いところで身体を休めると喜んだ。
「この部屋でお休みください。食事もこちらへ持ってきます」
いそいそとクロウドは、エプロンを着けながら会釈した。
食事の準備なら手伝いますとレオが申し出ると「いえ、食事は簡単な物ですし、長旅で疲れているでしょう。大丈夫ですよ、手伝わなくても。少しお待ちくださいね」
とクロウドはそう言うと部屋から出て行った。クロウドが出て行ったドアを私も料理手伝いたかったのに、とレオは残念そうに見つめた。
「ここだとゆっくり身体が休めそうだ。久しぶりだな、こんな寝床は」
とクレアが嬉しそうに微笑んだ。そうですね、とレオもつられて微笑んだ。
「私達もここまで綺麗な寝床は久しぶりだ。藁の上で寝てばかりだった。お前たちの方がしんどいか。ほとんど土の上だったな」とソードが言い終えるのと同時に「カレエ!どうした?!」と一階からクロウドの声が聞こえた。
―何事かとその場が一瞬で凍り付いた。敵か?街中で、つけられていたカルームの者か?皆で部屋の入り口で武器を手に持ち身構えた。
「すみません」
としばらくすると、カレエを抱きかかえたクロウドが部屋の扉から現れた。
「どうした?何かあったのか?」ソードが問いただすと、「うちの奥様は、見渡の術で少し疲れたようです。休ませますのでしばしお待ちを」と心配気な面持ちでカレエを彼女の部屋へと運んでいった。
「大丈夫か?」
とクレアがその後に続く。
「・・・・・・」
レオも心配で堪らなくなり、クレアの後を追った。




