第五十三話
完結しました。第八十九話までの物語です。主人公レオーナの物語をお楽しみください。
沢の近くに行くと、薄暗かった森が明るく開けて眩しいくらいだ。レオは自分の目が慣れるまで目を細めた。
「・・・・・・ここには自生していないようだ」
沢の傍でソシアは首を振った。
「本当ですか?どのような植物なのです?教えて下されば探します」
レオはそう言うとソシアに詰め寄った。
「茶色の細い草で、葉先がくるんと丸まっているのだ。それに、ここの環境では育たないだろう。ウリマスは薄暗いところに育つ、それに対して、ここは明るすぎる」
「・・・・・・そうですか。では他を探そう。ウリマスを見つけなければ、街にも行けない」
ソードは行こうと皆に言うと歩きだした。
「どこへ行くのです?この辺りで他に清流がありましょうか?」
レオが慌ててソードの背に訊ねた。
「この沢の源流に行く。もしかしたらそこにあるかもしれないからな」
とソードはそう答えた。
「なるほど、そうだな。そうしよう」
とクレアが納得したぞと頷いた。
「わかりました」
レオも同意して、ソードの後について行き、ソシアは無言で彼らの後を追った。
レオ達は水の音を頼りに沢を駆け上がって来た。沢を遡ると倒木の多い苔むした森が広がっていた。所々光の射す緑の濃い森だが、場所によっては薄暗く、ソシアの植物が自生する条件を満たしているように見える。
「ここにウリマスが生えているのでしょうか?」
レオはソシアにそう訊ねた。
「るんたった、るんたった」
ソシアはレオの事などお構いなしに、歌を歌って嬉しそうだ。
「ソシア様!何、乙女モードになっているんですか!」レオがそう吠えると「この沢のため池、鏡みたい。美しい私の姿がよく見える」とソシアは水面に映る自身の姿にうっとりしている。
「ソシア様!ウリマスは何処にあるんです?ふざけていると殺しますよ」
レオがそう殺気立つと「怖いなあ、探した薬草はそこら中にあるでしょ」としれっと言いのけた。
「本当だ。これがウリマスですね」
ソードが薬草をソシアに掲げて見せた。
「全く怖いったらありはしない」
ソシアは頬を膨らませた。
「失礼しました、ソシア様」
レオはソシアに詫びた。あるなら早く言ってくれてもいいのに、と池を覗く彼女をレオは横目で睨んだ。
「お前、その顔は主にする目じゃないよ」
ソシアはヒィと怯えた。
「吞気に池なんて覗いているからですよ」
ふんっとレオは横を向いた。
「悪かったよう。ごめんねぇ」と詫びるソシアに、「もういいです」と答え、レオはウリマスを採取し始めた。
「この葉を手で搾り上げて、その搾り汁を抜いた粕を口に含め飲み込むのだ。クレアも飲みなさい。瞳の金色が目に付くといけない」
とソシアが指示を出した。
「わかりました」
レオ達はその通りに従って薬草を口に含み飲み込んだ。
「・・・・・・苦い」「苦いな」
彼女達は口々にそう呻いた。しかも、青臭い臭いも、口に広がって不味い。レオは苦さに顔を少し歪めたが薬草を飲み込んでから、しばらくすると、微かに爽やかな香りが立ったので、これなら大丈夫かもと安堵した。
「本来なら、乾燥させた物を飲むのだが、今は仕方ない。乾燥させた物はそんなに苦くないから安心しなさい。後、一分くらいで目の色が変わる」
とソシアが説明した。
「―これでどうだ?」
ソード達はレオとクレアの顔を覗き込んだ。
「綺麗な紺色だな」
とソードの感想にうんうんと頷いたソシアは「この薬草を一か月ごとに飲む事だ。そうすれば、この色が保てる」とウリマスの葉を摘まんで、そう言った。
「―じゃ、この一帯にあるウリマスを採取しようか」
とソードはそう言うと一仕事だな、やれやれと腕を回した。
「これで、しばらくの間、当分の量は足りるな」
とソシアは皆で集めたウリマスを見てそう言った。
「これを乾燥させる。乾けば量はこれの半分以下になる。そうすれば、荷物にならなくてすむ」
「そうですか、ありがとうございます。では、日の当たる場所まで移動しよう」
とソードはソシアの言葉を受けて皆にそう促した。
―森を抜けると一気に光が彼らを包んだ。その先は不毛の大地が広がっている。
「―」
レオは眩しさに目を細めた。
「早くても二、三時間は乾燥にかかる、なるべく広げて乾燥を速めよう。日が落ちては間に合わない。早くしよう」
ソシアの指示でレオ達はウリマスを布の上に広げた。風で飛ばないように、その四隅に石を置いて重しにした。
「ここで、魔類が来たら大変ですね」
と一仕事終えたレオがそう言い笑うと「そうだな」とソードも笑った。
「まあ、魔類がきても大丈夫のように森から離れた場所に、ウリマスを広げたから安心だがな」
とソードはそう心配するな、とレオの肩を軽く叩いた。
「―しかし、そういうのを狙ってきそうだが」
とクレアがそう言うと、青の剣シェルシードが警戒音を鳴らした。
「魔類です。本当に来ましたよ」
黒い物体がレオ達に荒野の向こうから近づいて来る。彼女達はすぐに戦闘態勢に入った。
なるべく広げたウリマスに魔類を近づけないように配慮しながらの戦闘は骨が折れたが、なんとかレオの一撃で魔類にとどめを刺すことが出来た。
「ふう、魔類の話なんてしなければよかった」
レオは額の流れる汗を手で拭いながら吐露した。
「そうだが、一日一度はやって来るのだから仕方ない」
お疲れ様、とクレアは疲れた様子のレオを労った。
「ここから何処へ行くのですか?」
レオは目の前に広がる大地を見てソードに訊ねた。
「ウリマスが乾いたら、ここを移動する。この先にある崖は洞窟が沢山あると聞いた。その中で休むことにしよう」
ソードは自分の剣に魔類の一部が付いているのを払いつつ、そう答えた。
「なるほど、そうですか、わかりました」
レオはそう頷くと先を行くソードに続いた。




