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銀の針姫と青の剣  作者: 瑞木晶
第二章 不毛の大地レーン大陸
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第五十二話

完結しました。第八十九話までの物語です。主人公レオーナの物語をお楽しみください。

 ほぼ垂直に近い崖の道を斜めに駆け上がると、その先は針葉樹の森が広がっていた。森は鬱蒼としており何が出てくるかわからない怖さがあった。先程の崖の道より歩いている時に目立たないのはありがたいか・・・・・・。何せ初めて通る森だ。道は獣道しかないし、まともな道は無い。こういう森は野盗が待ち構えていることが多い。旅をしているレオ達も何度か襲撃されたことがある。青の剣シェルシードは基本的に魔類には感度がいいが、人には反応しない事が多い。

・・・・・・用心しないと。

レオは暗闇に近い森の暗さに、目を凝らして身構えながら歩いた。

―ガン!レオの肩に何かが当たった。

「何か当たりました!敵の可能性あり!皆伏せて下さい!」

―弓矢だ。肩当てが無かったら貫通していた。レオはゾッとしながら落ちてある弓矢の近くに身を伏せた。

(皆さんは今は、出てこないようにして下さい。お願いします)

レオはシデルートの剣士にそう命令した。

「・・・・・・」

レオ達に弓矢の雨が降る。背負った荷物が彼らを弓矢から守ってくれている。荷物の背には硬い木材が仕込まれていたので、弓矢が荷物を貫通する事はなかった。レオは亀のように身を縮めた。

「くたばったか?」

身動きしないレオ達に男が一人二人と近づいてきた。

「ちょろいもんだな」「だな」

ハハハと他の者も集まってレオ達を見下ろした。

―ザザッ。この時を待っていたレオ達は、荷物を肩から外しながら、起き上がり剣を取った。

「我らも加勢する。今ならいいのだろう?」「はい!お願いします!」

シデルートの剣士達も玉から飛び出しレオ達を助けた。

「まだ生きていたのか!」「他にも仲間がいたのか!くそう油断した!」

野盗は悔し文句を言いながら次々とレオ達に倒されてゆく。

六人、七人・・・・・・レオは倒れた野盗を数え、森の奥の他の者の行方を見た。

「うわあ!助けてくれー」

野盗は慌てて逃げて行く。

「・・・・・・」

逃げ惑う者が多く、こちらに向かう者無しか・・・・・・。それほど野盗の数が少ないとみた。

「もう、後を追わなくていい」

ソードの命にレオは無言で頷いた。クレアは荷物に刺さった矢を抜いてゆく。レオもそれに倣った。

「食料は大丈夫かな?」

食料は板の内側に収納されているので被害はなかった。

「野盗は再び襲ってくるでしょうか?」

レオは呼吸を整えながらソードに訊ねた。

「先ほどの襲撃でまとめ役の長がいれば、襲ってこないだろう。あの数しか野盗はいなかったことになる。他の場所に長がいて、野盗の数が多ければ再びこちらに向かってくるだろうな」

とソードはそう答えると、急いでこの森を抜けなくては、とレオ達を()かした。

「・・・・・・」

駆け足で森の中を疾走する彼らの耳に、ピイと高い笛の音が聞こえた。

「残りの野盗か、身を潜めるぞ。隠れろ」

ソードが指示を出した。

「・・・・・・」

野盗は静かに注意深くレオ達を探している。静寂の中レオは自分の息が漏れないように心掛けた。野盗は臭いを嗅ぎ分ける犬を連れている場合が多い。

―犬の呼吸が聞こえる。例に漏らさず、ここの野盗達も犬を連れているようだ。

・・・・・・かなり傍まで来ているな。息を殺しても臭いで居場所がわかるか。木の影に隠れながら、レオは野盗が自分達を見つけるのは時間の問題だなと覚悟した。

一人ずつ始末しよう。レオは自分側に背を向けた野盗の背後に立ち、眠り薬を含んだ布で彼の口を塞ぎ、倒した。レオに(なら)って同じようにソード達も動いて行く。

自分達が夜目がきくのは助かる。しかし、相手も同じく夜目がきくはず、木の影に隠れての行動だ。慎重にしなければ自身の身が危ない。

「仲間がやられているぞ!この闇は我らに不利だ。松明灯せ!」

と一人の野盗が叫んだ。

・・・・・・それでも我らの方に分がある。

レオは松明を灯した野盗に襲い掛かった。青の剣シェルシードは松明を持った腕を切りつけ血に染まった。

「うわあ!」「助けてくれ!」

野盗は逃げ惑い始めた。

「逃げるな!数で言えばこちらが有利!逃げは許さぬ」

その一声で野盗は一時散り散りになりながらも、次第に統制されていった。

・・・・・・あれが野盗の長が?

粗末な野良着を着ている野盗の中で一際豪華な身なりをしている者がいる。華奢なレオの肩の三倍は大きい肩幅の大男だ。

「この場から離れろ!」

ソードが指示を出すとレオ達は一目散に逃げ始めた。

「逃がすな!追え!」

野盗の長の下知がとんだ。野盗はすかさずレオ達を追った。

「これでもくらえ!」

ソードは煙幕を張る玉を地面に叩きつけた。

「うわ!目に染みるぞ!何だこれは」

野盗達が煙幕に含まれている、唐辛子の臭いに目を(しばた)かせた。

「これで野盗は追ってこないだろう・・・・・・全員揃ったか?」

ソードが皆に声をかけた。

「はい、ソシア様と一緒です」

レオはソシアが自分の横に居ることを確認してそう答えた。シデルートの剣士達も傍にいる。

「私もいるぞ」

クレアも呼びかけに答えた。

「さあ、森の外へ全力疾走するぞ」

ソードがそう皆に呼び掛けたその時、ソシアの姿が急に煙幕の中に消えた。

「ソシア様!」「ソシア殿!」

皆が声を上げソシアの名を呼んだ。

煙幕の向こうから、のしのしと誰かの足音が聞こえる。

「くくく。このような小細工、ワシには通用せんぞ」

野盗の長がソシアと共にレオ達の前に現れた。

「ソシア様!」

ソシアは野盗の長に首を掴まれ身動きが取れない。シデルートの剣士達は野盗の長に何かの術で縛られているようだ。ソシアが苦しめられている事で、青の剣シェルシードのマスターであるレオにも苦痛を感じた。ソシアの苦しみはレオの苦しみになっていた。

「ゲルダムさん!テニムスさん!セノムさん!あなた方がやられるなんて、どうしたんです?!」

レオはこの窮地に彼らが簡単に打ちのめされるなんて考えもしなかった。

「・・・・・・申し訳ありません。何か・・・・・・強い術にかかっています」

セノムが苦しそうにそう答えるのがやっとのようだ。

「大丈夫ですか?!皆さん」

レオは彼らを心配した。私達の事よりソシア様を!と彼らは彼女に訴えた。

「放せ、私にそのような事をすると死が訪れるぞ」

ソシアは首を圧迫されて声が潰れながらも、呪いのようなものを長に吐きつけた。

「荷物を降ろしてワシに渡せ、武器もだ。後、一人ずつワシに瞳を見せよ」

「瞳を?何故だ?」

長の言動にソードは(いぶか)った。

「理由など、どうでもいいだろう。さあ言う通りにしないか。この娘このまま首をへし折ってもいいんだぞ」

長はソシアの首を更に絞めた。

「グッ!」

ソシアの苦しそうな声にレオ達は渋々従うしかなかった。

「・・・・・・」

レオ達は荷物を降ろし、長の前に立った。煙幕は消え、野盗の一味が勢ぞろいしてレオ達の行動を見つめている。

「よし、まずは男の瞳を見るか」

と長はソードの瞳を松明をかざして覗き込んだ。

「ふむ、青いな。なるほど・・・・・・次」

長は今度はクレアの瞳を見た。

「金色か、珍しい・・・・・・次」

レオが瞳を見られる番だ。レオは瞳の色を薬草で茶色に変えている。本来ならレオだとはわからないはず。しかし、ここで見破られる可能性もある。レオに緊張で微かに震えた。

「ほう・・・・・・茶色か。珍しくもないが、その瞳の色は、元は緑色と見た。薬草で緑は茶色に変わる。これを飲め」

と長はレオに小さい瓶を渡した。

「・・・・・・」

戸惑うレオに「この娘の命どうなってもよいのか」と長は脅してきた。

「・・・・・・」

レオは渋々小瓶の中身を飲み干した。苦い・・・・・・レオはその液体の臭いでむせた。

「よし、見せてみろ。・・・・・・やはり、緑か。この緑の瞳、さるお方から探してほしいと頼まれた色が特徴と同じ。連れに金の瞳がいるのも情報として確かだ。お前を捕まえてその方に引き渡したら、かなりの額の金品がもらえるだろう」

・・・・・・ばれたか?!レオーナ自身だとばれたか?

レオはソードやクレアと視線を合わせた。

―どうしてこうも、私に人殺しの行為をさせる!もう誰も殺したくないのに。ウェンデルの戦闘の時に誓ったのだ。人殺しはしないと。あれ程誓ったのに、未だに人殺しをしている。そんな自分自身がレオは嫌いだった。瞳の事を言わなければ・・・・・・荷物だけならくれてやったのに。

「ソシア様、参ります」

レオはそう言うと手を上にかざすと、飛びこんでくる青の剣を手にし、長に切りかかった。長の両腕は青の剣で簡単に切りつけられ、深い傷を負った。

「うおおおおお!」

激しい痛みから叫ぶ長から、ソシアを取り戻したレオは、自分の背後に彼女を導いた。

そして、長の喉元を一突きして絶命させた。喉元一突きはレオの優しさからの殺し方だ。そうすれば早めに死が訪れる。同じ殺すのなら苦しまない方がいい。偽善者かもしれない。自己満足でもいい、どうか死が安らかでありますように。レオは常々そう祈っている。

―割り切る事しかできない。レオは逃げ惑うあらゆる野盗の命を奪った。ここの野盗から万が一にも、カルームに自分の事を知られるわけにはいかないのだ。

「・・・・・・」

そして一時間が過ぎたあたりで、合計三十人くらいの野盗を一人残らずレオ達は殺めた。

「無事でよかった・・・・・・」

レオはシデルートの剣士達の様子を見て安堵した。

「申し訳ありません。何も役に立てず」「あの長はただの野盗の長ではありませんでした」「術を持つ能力者だったかと」

彼らは口々にレオに訴えかけた。

「もういいですよ。こうして無事にいられたのですから」

とレオは彼らを労った。―野盗に能力者がいたとは・・・・・・瞳の事を知っていた事といい、カルームの手のものだった可能性は高いな。一時も油断できない。彼女は緊張感でカラカラの喉に顔をしかめた。

「無駄に命を奪う事になったな。瞳の色をかえなくてはな」

ソードは血の滴った剣を振りながら、嘆息した。

「瞳の色を変える薬剤が他にあればいいのだが」

クレアはどうしたものかと思案した。

「・・・・・・ウリマスという植物の葉を煎じ飲めば、瞳が紺色になる」

ソシアが確かそうだと呟いた。

―さすが、生き字引だ。レオは何でも知っている彼女に感心した。彼女の頭の中にはウェンデルの英知が詰まっている。

「その植物は何処にありますか?」レオがそう訊ねると「―川の上流の水の綺麗なところに自生すると書物に書いてあった」とソシアは答えた。

「―川はここから近い。水の音がする」

あっちの方だとソシアは指差した。

「ありがとうございます、ソシア様。よし、では川に向かおう」

ソードはそう言うとソシアの指し示した方に足を進めた。


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