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銀の針姫と青の剣  作者: 瑞木晶
第二章 青の都ウェンデル
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第四十八話

完結しました。第八十九話までの物語です。主人公レオーナの物語をお楽しみください。

 パタン。目の前に行く手を阻むようにそそり立つ扉が開いた。もう黒手袋はレオから離れ見知らぬ男の肩に乗った。

その男は右の眼を前髪で隠し、くすんだ銀の髪の色の後ろ髪は、束ねて背中に長く垂らしている。

「やあ、君がレオーナ姫か。僕はリィ・シーザ・リトリィデ、ここの主だ」

「ここの主?」

レオは疑いの目でリィと名乗る男を見上げた。

「そうとも、クエイラ国にようこそ!」

と言うと左手を上げて見せた。

「あっ」

レオは驚いて声を上げた。彼は袖から先は何もない、左手が無かったのだ。

「左手は僕の肩に♪」

と嬉しそうにリィは答えた。

「その手はあなたの手なのですか?」

「そう♪意外と便利♪」

そう言うリィの肩の黒い手袋の手は、左腕の上をトコトコと歩き、そして、こともあろうか彼の左手首に繋がって見せた。

「ひいっ!」

悲鳴を上げるレオにリィの左手は、指先までひらひらと動いて見せた。

そして再び手は離れリィの頭の上に乗った。

「ひいいい!」

黒手袋は仕掛けの道具だと思っていたレオは人間の手だとは思わなかった。彼は人間じゃないのだろうか。レオは恐れおののいた

彼女は後ずさりして、扉の方へ逃げようとしたが――無い!扉も、確かに自分の後をついて来てくれていたはずのソード達もいなかった。

「クレア様は?エーメは?・・・・・・皆どこに?」

「可哀そうな女官は大丈夫。ソードやクレア、レッシー達は皆無事だ。彼等も同じところで身体を休ませている。安心しなさい」

とリィは左手をレオの肩に乗せた。

「ひっ!」

レオの肩に乗せたその手は、もちろんリィと繋がっていない。

「もう、旦那様。あんまり彼女を驚かせない様にしてあげて下さいまし」

背後から女の人の声がする。

「ソリエラ・・・・・・。うーんでもこれが僕の本来の姿なんだよ」

独立したその手はリィの頭へ向かい、彼の頭をボリボリと掻いた。

ソリエラと呼ばれた女性は、リィの傍らに付きレオを見つめた。

「ソリエラ様?」

レオは驚いて彼女に訊ねた。

「はいそうです」

ソリエラはにっこりと微笑んで返事をくれた。

この方がソリエラ様。旦那様の想い人・・・・・・緩やかに巻く長い髪は淡い金の色で、床まで流れるように美しく輝いている。紫色に似た青の瞳はウェンデルの血を感じさせた。

どこか・・・・・・イノス様にも似ているような・・・・・・。そうか目付きが違うのか、彼女は優しそうに微笑むが、イノスの視線は射るように鋭い。

「・・・・・・初めて会うわね。私はソリエラ・ターラ・ヴェンです。この方、リィ様の妻です。よろしくね」

「わ、私はレオーナ・ランド・イシリス、イノス様のつ、つ、妻です」

レオはソリエラを前に緊張して上手く話せない。

「イノスの奥様ね。可愛らしい方。銀の髪は水が流れるように綺麗ね」

とレオに微笑みかける。

「そ、そんな事・・・・・・ないです」

あなたの方が断然綺麗ですよ、と言いたいが言葉にならない。そんなレオにソリエラは優しく微笑んだ。

―優しそうな美しい方だ。旦那様が好きになるのもわかる。レオはそんな考えを押し出すように目をギュッと閉じた。

「あら、ここまで来るのに大変だったのね。手も傷だらけ」

ソリエラは、先の戦闘で傷ついたレオの手を、優しく手に取った。

「旦那様、この方の手当てをします。手伝って下さる?」

「奥様、喜んで♪」

とリィの頭に乗っかった手が歩き始めた。

「―あ、私なら大丈夫です」

とレオがやんわりと断ろうとすると、ソリエラは首を振り、黙ってレオの装具を外しながら傷の様子を診た。彼女が右腕の上部を軽く押さえるとレオは痛そうに呻いた。

「右腕が傷んでいるわね。この手で剣を持って敵と戦っていたら、そうとう痛いはず。・・・・・・よく頑張ったわね」

ソリエラはそう言うと微笑んだ。

そして、リィの独立した手から受け取った薬品の中から、一つを取り出し、その液体を布に染み込ませ、その布を肩までたくし上げた、レオの右腕に貼り付けた。

「―!」

じん・・・・・・と布からレオの右腕に薬品の効果が染み渡ってゆく。

「少し沁みるけど効果はてきめんよ。旦那様の作る薬は凄いのよ」

にっこり微笑むソリエラに、レオは一種の、のろけだろうかと思った。

―しばらくすると薬の効果か、手の痛みが薄れてきたような気がした。レオはあてがわれた右腕を見つめた。

「もう効いて来たわね」

ソリエラが嬉しそうにレオの顔を覗き込む。

「他の薬を付け変えるわ」とレオの右腕から布を外し、新たな布に薬を染み込ませレオの右腕につけ、包帯を巻いて行く。

「―この薬で二、三日こうしておけば、治るわ。それまで手を動かしたら駄目よ」

「はい、ありがとうございます」

レオは深々と礼をした。この様子だと本当に治りそうだ。

「あら、そんなにかしこまらないで、ゆっくり肩の力を抜いてゆっくりお休み下さいな」

「―はい・・・・・」

レオの語尾は少し落ち込みながら消えてゆく。

「元気がないわね・・・・・・。何かあったの?」

ソリエラは心配そうにレオを見つめた。

「―旦那様がいらっしゃらないんです」

「イノスが?」

「ここに集まった人の中には居ませんでした。どこにも・・・・・・」

レオは不安気にソリエラに訴えた。

「彼に会いたい?」

ソリエラは優しい眼差しでレオに問うた。

「はい!もちろんです!」

レオは即答した。

「―そう・・・・・・。ではこちらへいらして。この事は誰にも言わない事、約束して。世界が変わってしまう程の大事な事だから・・・・・・」

ソリエラは少し硬い表情で、レオに約束よと詰め寄った。

「・・・・・・はい」

レオはその彼女の表情を見て、何かイノスに良くない事が、起こったのではと不安に感じた。


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