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銀の針姫と青の剣  作者: 瑞木晶
第二章 青の都ウェンデル
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第四十七話

完結しました。第八十九話までの物語です。主人公レオーナの物語をお楽しみください。

「うわあ・・・・・・」

扉を開けた瞬間に飛び込んで来た風景に、レオ達は歓声を上げた。

白い・・・・・・レオの周りは白い世界が広がっていた。それも、何もかも、柱のような巨大な岩も、そのまわりのごつごつしている岩も足元も。その白の世界は所々銀色の粒が散りばめられチカチカと(またた)く。

「白すぎてどこが道なのだかわからないわね」

とカレエが眩しいからか、薄目を開けながらぼやいた。

「エーメ!エーメは?!」

レオは駆け込むように集まっている姫君達の間へ入って行った。

「エーメ・・・・・・」

姫君達の輪の中にエーメは横たわっていた。

「何てことだ・・・・・」

エーメの本来の顔が認識できない位の酷い痣がいくつもあり、それを見ただけでレオは胸が押し潰されそうになった。つぶらな瞳は腫れあがった瞼でほとんど見えていないようだ。

「エーメ・・・・・・どうしてこんな目に・・・・・・」

するとエーメの瞳が僅かに動いた。

「レオーナ様・・・・・・。ご無事で良かった・・・・・・」

「そんなのどうだっていい!こんな事になって・・・・・・」

「皆とはぐれてしまいました。えへへ、すみません」

エーメはふ・・・・・・ふと笑おうとした。

「無理して笑わなくていい。私の方こそすまない、・・・・・・きっと、私達と共にエーメもついて来ているものだと思っていた。私の責任だ。エーメ大丈夫か?痛くないか?」

レオは痣という痣がある彼女の顔を、両手で優しく包み込んだ。

「そんなに心配して下さって、エーメは幸せ者です」

包み込んだ手に濡れた感触がある、エーメの涙だ。

「エーメ、もうしゃべらなくてもいい」

「エーメはもう・・・・・・駄目のようです・・・・・・ここでお別れになりそうです」

「エーメ、私の後をどこまでもついて行くと言ったではないか!しっかりしろ!ここで、ゆっくり休めば大丈夫だ。共に行こうクエイラ国に」

「そうですね・・・・・・」

エーメは少し笑ったように見えた。

「今どういう状態なのですか?」

レオは看病してくれていた姫君に訊ねた。

「本人は平気を装っていますが、かなり苦しいのかと思います。今は治療が無理ですが、クエイラ国に行けば何とかなると思います」

「クエイラ国ね・・・・・・。そう言えばファルンカは?どこに行ったのです?」

レオは周りを見渡した。が、彼の姿は無かった。

すると、黒い手袋をはめた手だけが姫君の間に現れた。

「きゃー!なにこれー!」

姫君が気味悪がり悲鳴を上げた。

「なんだ?これ?」

とレオが興味津々にその手に触る。普通に人間の手の様だ。

「―」

急にその手がレオをぐいっと引っ張った。

「え?」

レオはその手に引きずられそうになったが、姫君達がレオーナ様が連れていかれちゃうと叫びながら、レオの引っ張られている反対の腕を、数人で押さえてくれたお陰で、その場で(とど)まった。黒手袋はもちろん、姫君達の引っ張る力が意外にも強力で、どこからこの力が?と思う程だった。うう、このままだと体が裂けそうだ、とレオは痛みに耐えた。

―パッと急に黒手袋がレオの手を離したので、姫君達とレオは折り重なり倒れこんだ。

そして、次にその手はくいくいと手招きした。

「ついて来いって事?」

とレオがその手に聞いてみる。

「―」

手は親指を立ててレオの言葉が正解だと言っている様だ。

手はレオ達の様子を窺いつつ、少しずつ道を前進し始めた。

「・・・・・・皆さん、この手について行きましょう」

レオはそう決断して姫君達に言った。

「ええ?こんなに気持ち悪いのに?」「怖いですわ」

次々に否定的な意見が上がる。

「でもこの空間の行き道を知っているのはこの手だと思います。肝心なファルンカがいない事ですし。もうついて行くしかないです」

レオはそう断言した。もしかしたらクエイラ国の使者なのかも知れない。ファルンカがいないのは、ここが安全だという証拠では?とレオは怖がる彼女達を説得した。

「そう言われればそうですわね・・・・・・」

「ファルンカもいない事ですし・・・・・・」

姫君達の視線が黒手袋に集まる。手袋はこちらにおいでと手招きしている。

「・・・・・・そうですわね」「この手袋について行きましょう」そう彼女達も意を決した。

こうしてレオ達は恐る恐る黒手袋について行く事になった。

「―」

手袋はレオ達の行動を読み取ったのか、動きが段々と速くなって行く。

「待って!待って!」

レオ達は必死になって白い道を駆けて行く。壁という壁に扉がある幾つもあるという不思議な大広間にレオ達はたどり着いた。

ドン!という衝撃音と共に急に目の前の壁の扉から人が出てきた。

敵か!とレオは身構えたが、その人達はレオのよく知っている―「ソード様!クレア様!」二人は息を切らして身構えていて、自分達がどこにたどり着いたのかわかっていない様だ。

「ご無事だったのですね!」

レオが駆け寄る。

「レオーナ姫!」「クレア様!よくご無事で!」

レオはクレアの胸に飛び込んだ。再び生きて会えた事に喜んだ。互いの心音に生きている実感が湧いてくる。

「・・・・・・俺は蚊帳の外か?」

とソードが呆れ顔だ。

「騙された前科があります故」とレオが睨むと「そうだろうとも、信用を取り戻すよう努力しろよ、ソード。すみませんね、うちの旦那が」とクレアはレオの頭をよしよしと撫でた。

「私も無事におります」

とレッシーは毅然として立っている。

「レッシー!よく無事で!」レオはレッシーに飛びついた。「よっぽど激戦だったのだな」「私にとっては朝飯前です」灰色の髪は乱れ、顔も所々傷ついていたが、彼女はそれを苦にしない様子だった。

「ここは。なるほどここか・・・・・・」

とソードが辺りを見まわした。

「ご存知なんですか?ここがどこなのか」

レオはびっくりしてソードに詰め寄った。

「知っているも何も・・・・・・」

ソードは口の中で、もごもごと言った。

「ああそうだ!エーメがひどい目に!早く処置をしないと駄目なんです!」

「エーメが?それは一大事」

クレアとレッシーはエーメの元へ行った。ソードとレオはそれに続いた。

「エーメ・・・・・・何という事だ・・・・・・」

エーメの変わり果てた姿に三人とも絶句している。

「骨に異常はない様だ。この顔だな・・・・・・。冷やせばこの腫れもおさまるだろう」

クレアはエーメの痣という痣を一つ一つ確認しながら、今手元にある物で治療し始めた。

「妻は医療にも長けているんだよ」

とソードが教えてくれた。クレアは治療が済むと、顔を上げてレオに、もう大丈夫だ安心しなさいと声をかけた。

「エーメ、よく頑張りました。あなたは私の誇りです・・・・・・」

と泣くはずの無いと思われたレッシーが泣いた。「レッシー」レオはむせび泣く彼女の背中を抱きしめた。

ドン!壁の扉から音と共に人々が飛び込んでくる。

「敵か!」レオが身構えると「味方だ」とソードがレオの肩を押さえた。

「この中に入れるのはウェンデルの選ばれた者だけです」

とクレアがレオに説明した。

「そうなんですか?でも・・・・・・どうして?」

「クエイラ国の事は知っているか?」

とソードが訊ねてきた。

「我々が向かっている国ですよね?」

可笑しなことを言うな、とレオは思いながら答えた。

「質問が悪かった。どういう国か知っているかと聞いているんだ」

「いいえ、どのような国か分かりません」

「ウェンデルが滅びる時に国民がたどり着く、ウェンデルの救済の為に作られた国だ」

そうソードはレオに説明した。そうなのか、クエイラ国はそういった役目があるのだな、とレオは納得した。

「そして、ここがクエイラ国だ」

「そうなのですね、ここがクエイラ国・・・・・・という事は私達は無事に、ここに辿り着いたのですね」

「そうだ、ここに着けば敵に襲われる心配もない」

安心しなさいとクレアも頷いた。

「そういえば、ホクロで繋がっている状態を外しておきたいのですが、お願いできますか?」

と少し顔を赤らめてレオはソードに頼んだ。

「ああ、わかった。早速そうしようか」

そう言うソードにクレアが反応した。「ホクロで繋がっているのか?二人とも」とにじり寄った。

「ああ、そうだ。事は急を要した。仕方なしに繋いだのだ。すまない」

とソードはクレアに謝った。

「私もまさか、いけない事だと思わなかったもので、すみません、浅はかで」

レオも彼女に平謝りした。

「・・・・・・」黙り込むクレアに「わかってくれ、こんな事をしても、お前への愛は変わらぬ」ソードは優しく語りかけた。

「よし、お前を信じよう。早くホクロを解除してやってくれ」

「相変わらず物分かりがよいな。さすが俺の愛する女だ」

とソードはクレアにキスを迫ろうとした。

「甘い言葉には乗らぬ、早くしろ」

顔を真っ赤にしたクレアはソードから離れた。

・・・・・・さすが女好きの過去があるだけあるな、手慣れているとレオがソードの言動に感心していると「我が半身よ、戻れ」とソードの声がした。

すうっと微かな音と共に、何かが抜けてゆく感覚を感じたレオは、ソードの顔を見上げた。

「これで、ホクロは繋がっていない状態になった。安心しろ」

とホクロが赤くなり、その赤さが消えて行き、元の黒いホクロの状態になったのを二人に見せた。

「これに話しかけても頭に響かないはずだ。やって見せよう」そう言うと「レオーナ姫!声が響くか?!」とソードはホクロに叫んだ。

「・・・・・・」

頭に響かない。繋がっていたら、あの大声だ、それこそ頭が割れそうになるだろう。

「繋がってないようです。これで、一安心です。ありがとうございました」

とレオはソードにお礼を言った。

「もう二度と女とホクロで繋がるなよ、五度目だ」

「え?五度目ですか?」

レオはクレアの発言に驚いた。さすが女好きだ。

「昔のことだ。結婚する前の事だろう?今更そんな話持ち出すなよ。第一あれは情報収集の為に仕方なくだ」と焦るソードに「ふむ、まあレオーナ姫には、疚しさは無さそうだから目を瞑ろう」ふん、とクレアは笑って見せた。

「本当にすまない。二度とこの様な事はしない!許してくれ」

とクレアに必死にせがむソードを見てレオは、本当に奥さんの事が好きなんだなと羨ましく思った。

「わかっている。お前のその反応が見たかっただけだ」

クレアは満足そうに微笑んだ。「俺を揶揄うな」ソードは困り顔でクレアを見た。

「・・・・・・この場合惚れたもの勝ちだ。仕方ない」

ソードは笑いが止まらないクレアに嘆息して見せた。

「愛されているだろ?」

クレアはレオに、こそっと耳打ちした。

「そのようですね」

レオは自分の旦那様は、こんな事を言ってくれるだろうかと想像したが、それが出来ない自分自身に落ち込んだ。

ドン!再び扉から人々が現れる。「旦那様!」「シェイルか!」夫婦とみられる二人組は再会を喜び抱きしめ合った。その二人以外にも多くの人が再会を喜び合っていた。様々な扉から人が現れるたびに、その輪は広がって行く。

「カレエ!カレエはどこに?!」

カレエを呼ぶ男の声が聞こえる。

「あなた!」

カレエの旦那様のクロウド・アム・シュリアンのようだ。素顔は思った通り優し気だ。大きく手を伸ばした胸に、カレエが飛び込む。彼女は泣いている様で、彼女の夫は必死に慰めている。その様子を見てイノスが居たら迷わず、その胸に飛び込もうとレオは思った。

―この中に旦那様がいるはず。レオは人の輪の中に入って行った。

「イノス様。誰かイノス様を知りませんか?」

レオは人だかりの中イノスがいないか探し回った。

「―」

しかし人々は再会を喜ぶばかりでレオの声は聞こえていない様だ。

「イノス様!イノス様はいらっしゃいませんか?」

レオは叫び駆け出し、再び呼びかけた。呼びかけに答えてくれる人はいたが、―しかし誰も知らない、見たことがないとの返事ばかりだった。

パタンと大きな扉の閉じた音がする。その音と同時に数ある扉は崩壊してゆく。ガラガラと崩れて白い壁のみとなった。

「―ああ、もうウェンデルへの道は閉ざされた」

とソードがその壁を悲しそうに見つめる。

「もう戻れない」

クレアがじっと顔を伏せた。泣いている様にも見えた。

「―旦那様は?まだウェンデルに、いらっしゃるかも知れないのに!」

「ここにいる者すべてが生き延びて助かった者ばかりだ。―ウェンデルに残っている者は死者のみだ。レオーナ姫、君が敵地に向かい、その後、君がセオドアから来た道と又違う他の穴からも敵が城に入った時、我が主ディ・フォンは決断したのだ。この地を捨てると。ウェンデルは敵をわざと奥まで誘い、国ごと崩壊させた。敵も味方も、もうここにはたどり着けまい」

ソードが冷たい言葉を言い放った。

「―そんな・・・・・・。旦那様・・・・・・」

レオはその場でへたり込んだ。

「レオーナ姫」

そんなレオをクレアが後ろから抱きしめてくれた。優しくされたら余計に泣きそうになる。

「もう旦那様は・・・・・・」

いないのだ。この世のどこにも。

「まだわからないですよ。そのような事思わないで、本当の事になりますよ」

クレアはそう(ささや)いた。

「どうしてあの方から離れてしまったのだろう。お側に居ておけばよかった!」

そう嘆くレオの肩を叩くものがいる。

「え?」よく見るとあの黒手袋だ。「何?今それどころじゃない」と黒手袋を追い払うレオの手を握りしめると、ぐいと引っ張って行く。その力は強引だ。

「ちょっと待て!何がしたいのだ?」

グイグイと引っ張る力に戸惑いながら、レオはその手について行くしかなかった。

「レオーナ姫!どこに行くんだ?」

「わかりません!どこに行くのか、この黒手袋に聞いてくださいー!」

と叫ぶレオに、ソード達も彼女の後を追った。


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