第四十六話
完結しました。第八十九話までの物語です。主人公レオーナの物語をお楽しみください。
早朝再び一行は迷路の中を進み始めた。ファルンカは相変わらず素早く動くので、姫君達は必死で彼に付いて行くのがやっとの事だった。
「もう少し歩くのを遅くしてくださいませんの?疲れました」
とうとう一人の姫が音を上げた。
「うむ、そうもしていられないね!敵がまだ私達を追っている限り無理だね」
とファルンカはにべもない。
「皆様、気をしっかりと!この先には必ずクエイラ国にたどり着きます!頑張って!」
とカレエが皆を元気付けようと声を出した。「はい!」「そうしましょう!」姫君達はそれぞれに気合を入れて前を向いた。
暗い迷路の中を駆けて行く。途中レオはこの道を通ったような既視感に襲われた。
「―・・・・・・」
いや、この道はかつてレオが辿り着いた道、あのシェルシードが存在しているのではと思った部屋の扉の方へと続いている。途中に様々な書物や本が溢れた部屋が見える。間違いない、あの扉へとファルンカは向かっている。その先に何があるんだろう。
「いたぞ!」
レオ達は再び敵兵に見つかった。レオとカレエ達は戦闘状態に入った。剣と剣のぶつかり合いで、レオの右腕が容赦なく痛み始める。
―それでも、それでも戦わなければ死ぬ!この腕ちぎれても戦う!レオは痛みをこらえながら敵兵を倒して行く。カレエ他の姫君も十分役目を果たしている。
―この様子なら、敵兵撃破できるか?とレオが希望を持ち始めたその時。
「この女官!我の手にあり!如何する?!」
センドリーがエーメを抱えて、レオの目の前にやって来た。
「エーメ!」
彼女の顔は痣だらけで、可愛らしかった顔が歪んでいる。姫君の他の女官も傍にいるようだ。
「ああ、ネスルミ!」「レニア!」
姫君達が口々に叫ぶ。
「センドリー!どうしてこんなことを?!」
「返してほしくは、一対一で戦いませんか?レオーナ姫」
「お前とは戦いたくない!」
レオは自分が嫁ぐ前の彼とは違う態度に戸惑うばかりだ。レオがセオドアに帰った時の人形のような彼とは違い、今はしっかりと意識があるように見える。
「では、この女官は殺させていただきますよ」
センドリーはエーメの首に手をかけ絞め始めた。うう、とエーメの力ない呻き声が聞こえる。エーメの顔は見る見るうちに赤く苦しそうに染まった。
「やめろ!」
「戦いますか?」
センドリーは隣の兵にエーメを預け、剣を構えた。
「センドリー・・・・・・どうして?」
レオは彼の攻撃を戸惑いながら受けた。センドリーはレオの間合いに飛び込んだ。
ギンっ!二人の刃が力強くぶつかる。ギリギリと刃が軋む。
「どうしてこんなか弱い娘をいたぶった?どうかしたのかセンドリー?」
センドリーはそれには答えず、ガンガンとレオの剣に叩き続ける。刃がもうボロボロだ。右腕に痛みが走る。受け身ばかりだとこの身が持たない。
「・・・・・・!」
レオは渾身の一撃を放った。
ドタッ!レオの勢い勝ちか、センドリーが倒れた。
「どうしてこのような事をした?お前は好々爺のセンドリーではなかったのか?」
レオはセンドリーに馬乗りになって、そう問いただした。
「どうしてだ?センドリー」
レオがそう言ってセンドリーの首元を持ち上げようとしたその時、倒した彼の弱い息から何やら白い物が吐き出された。
「ここは?どこだ?」
センドリーが呟く。
「レオーナ様?」
先ほどのセンドリーと打って変わって、彼はこの状況に戸惑いを感じているみたいだ。
「センドリー?どういう事だ?」
レオは訝しげに彼に尋ねた。
「―長い夢を見ていたような・・・・・・。私は何を?」
「この女官をいたぶって、私に一騎打ちを申し込んだではないか」
「まさか、そんな事私がするなんて・・・・・・」
「お前がやったのではないのか?」
「体が勝手に動いていたような、何かに操られていたような・・・・・・」
「そんな・・・・・・」
レオは言葉を失った。
「私は姫様とこうして再び会えた。これ程嬉しいことはない。姫様の腕の中で眠れるなら幸せだ・・・・・・」
彼の目が段々と遠く感じる。魂が静かに消えてゆく様だ。
「そんな、センドリー・・・・・・どうして?どうしてこんな事に?」
「姫に見守られながら死にゆくのも悪くない・・・・・・」
センドリーはふうと息を吐くと目を閉じた。
「嫌だ、センドリー・・・・・・死ぬな・・・・・・」
レオの腕の中、センドリーの魂が薄れて行く。
「いざ・・・・・・さ・・・・・・」
彼はさらばと言ったのか分からない。レオにわかったのはセンドリーの最期の別れの挨拶なのだという事だった。
「センドリー・・・・・・」
レオはまだ少し温かいその身体を抱きしめた。
「レオーナ姫!・・・・・・早く加勢して!もう持たないわ!」
カレエが息切れ切れで声を掛けてきた。
「―・・・・・・すみません!戦闘に戻ります!」
レオはキッと立ち上がり、センドリーの遺体に別れを告げた。
「センドリー・・・・・・」
レオは憎んだ。彼をあのように操ったと思われる張本人を。敵が死でしか心を解放されないなんて・・・・・。レオの表情は悲しみで覆われていた。向かってくる敵を心で泣きながら倒していった。もうセンドリーのような者を殺したくないのに。この戦が終わったら私は人を倒すことはしない。このような惨劇があるだろうか。早く敵兵がいなくなればいいのに。レオの願いと裏腹に敵兵の数はますます増えて行く。レオと他の姫君も十分な働きをしているが、何せ人数が違う、圧倒的に敵兵の勝ちだ。
「・・・・・・」
味方の人数が足らない、このままだと全滅だ。レオは疲れと痛みの中、不安を抱えながら剣を振るった。―・・・・・・長い戦闘だ、姫君達は全員満身創痍だ。ここまで来て負けるのか・・・・・・それだけは避けねば。レオはギリと歯を食いしばった。
――その時ソードとクレア達がどこからか現れ、レオ達を囲んで敵を倒して行った。
「ソード様!クレア様!」
―助かった。レオは二人の登場に安堵した。
「待たせたな」「もう大丈夫だ!よくやった」
二人はレオ達をねぎらった。
「ここは任せて!姫達は先へ急いで!」
「―でも・・・・・・」
ソード達も少人数の兵士ばかりだ。この状況でこの場を守る事ができるのだろうか・・・・・・。
「私を誰だとお思いか?一人で千の兵を倒せる手練れですよ!これくらいの敵何でもありませんよ」
クレアが敵を倒しながら叫んだ。
「さあ!急いで!ここに残られたら足手まといだ。行くんだ!」
ソードもクレアの言葉を後押しした。
「私も参戦させていただきます」
と急にどこからともなくレッシーが現れた。
「レッシー?」
驚くレオにレッシーは鎧を完璧に着こなし、自分の背丈くらいの一本槍を持って、はせ参じましたと礼をとった。
「ここはお任せを」
その姿、歴戦の戦士の様だ。
「レッシー!どうしてホクロに話しかけてくれなかったのだ?」
「申し訳ございません。とある空間だけ、意思の疎通が出来ませんでした。もっと早くおそばに行きとうございました」
レッシーは無念そうにレオに謝った。
「早くここから離れて!」
とソードが叫ぶ。
「は、はい!」
レオ達は先に進み始めている姫君達の後を追った。
「腕どうしたの?」
と隣を走るカレエがレオに呼び掛けた。
「ちょっと捻じっただけです。大丈夫ですよ」
レオは右腕を上げて笑って見せた。本当は死ぬほど痛い。けれど我慢だ、いつ敵が現れるかわからない。レオなりの精一杯の強がりだった。
「おお!やっと来たか!こっちじゃ!」
例の扉の前にファルンカがいて、レオ達を手招いている。
「―じゃ?」
レオは彼の口調に少し何か引っかかったが、その何かが分からなかった。
「本当。ディ・フォンの口真似をして、何がしたいのかしら」
とカレエはあきれ果てていた。
「ああ、ディ・フォンか。そう言えばそうかも・・・・・・。ファルンカ、今『じゃ』って言わなかったか?」
というレオの問いかけに、ファルンカがびくっと体を震わせた。
「―ああ、ディ・フォンの口真似をしただけだよん。気にしないでぇ」
とファルンカは微笑んで、レオの手を両手で包み込んだ。
「離せ!気持ち悪い!」
レオは怒り、その手を振り払った。
「いやん、冷たいなあ」
ファルンカは寂しそうに唇をかんだ。
「それよりも、エーメは?どこにいる?」
「先に行って、治療を受けている最中さ」
「大丈夫なの?」
「さあ・・・・・・僕は医者じゃないからわかんない」
とファルンカは感心なさそうに言った。
「すぐにでもエーメの所まで案内して!早く!」
レオはファルンカの襟首をつかみ詰め寄った。
「わかったよん。痛いから離して」
「ああ、悪かった」
とレオが手を離すと、ファルンカは乱暴なんだから・・・と、くすんと泣いた。
「ここは?」
カレエがファルンカに問うた。彼女達の背を軽く超えるほどの、大きな白く装飾されている鉄製の扉が、行く手を阻んでいる。知識の塔の隠し扉の奥、あの青の剣があると思われた扉ではないようだ。
「この先はクエイラ国へ行く最初の扉さ。この先幾つか扉はあるけど、敵はもうたどり着く事は出来ないんだ。だから安心して」
「ソード様達は大丈夫なの?」
とカレエは心配そうに尋ねた。
「彼らは大丈夫!少なくても国一番の精鋭部隊だからね!さ、それよりも君らだ。今までよく頑張ったよ」
とファルンカはレオの肩を軽く叩くと扉を開けた。




