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銀の針姫と青の剣  作者: 瑞木晶
第二章 青の都ウェンデル
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第四十六話

完結しました。第八十九話までの物語です。主人公レオーナの物語をお楽しみください。

 早朝再び一行は迷路の中を進み始めた。ファルンカは相変わらず素早く動くので、姫君達は必死で彼に付いて行くのがやっとの事だった。

「もう少し歩くのを遅くしてくださいませんの?疲れました」

とうとう一人の姫が音を上げた。

「うむ、そうもしていられないね!敵がまだ私達を追っている限り無理だね」

とファルンカはにべもない。

「皆様、気をしっかりと!この先には必ずクエイラ国にたどり着きます!頑張って!」

とカレエが皆を元気付けようと声を出した。「はい!」「そうしましょう!」姫君達はそれぞれに気合を入れて前を向いた。

暗い迷路の中を駆けて行く。途中レオはこの道を通ったような既視感に襲われた。

「―・・・・・・」

いや、この道はかつてレオが辿り着いた道、あのシェルシードが存在しているのではと思った部屋の扉の方へと続いている。途中に様々な書物や本が溢れた部屋が見える。間違いない、あの扉へとファルンカは向かっている。その先に何があるんだろう。

「いたぞ!」

レオ達は再び敵兵に見つかった。レオとカレエ達は戦闘状態に入った。剣と剣のぶつかり合いで、レオの右腕が容赦なく痛み始める。

―それでも、それでも戦わなければ死ぬ!この腕ちぎれても戦う!レオは痛みをこらえながら敵兵を倒して行く。カレエ他の姫君も十分役目を果たしている。

―この様子なら、敵兵撃破できるか?とレオが希望を持ち始めたその時。

「この女官!我の手にあり!如何する?!」

センドリーがエーメを抱えて、レオの目の前にやって来た。

「エーメ!」

彼女の顔は痣だらけで、可愛らしかった顔が歪んでいる。姫君の他の女官も傍にいるようだ。

「ああ、ネスルミ!」「レニア!」

姫君達が口々に叫ぶ。

「センドリー!どうしてこんなことを?!」

「返してほしくは、一対一で戦いませんか?レオーナ姫」

「お前とは戦いたくない!」

レオは自分が嫁ぐ前の彼とは違う態度に戸惑うばかりだ。レオがセオドアに帰った時の人形のような彼とは違い、今はしっかりと意識があるように見える。

「では、この女官は殺させていただきますよ」

センドリーはエーメの首に手をかけ絞め始めた。うう、とエーメの力ない呻き声が聞こえる。エーメの顔は見る見るうちに赤く苦しそうに染まった。

「やめろ!」

「戦いますか?」

センドリーは隣の兵にエーメを預け、剣を構えた。

「センドリー・・・・・・どうして?」

レオは彼の攻撃を戸惑いながら受けた。センドリーはレオの間合いに飛び込んだ。

ギンっ!二人の刃が力強くぶつかる。ギリギリと刃が軋む。

「どうしてこんなか弱い娘をいたぶった?どうかしたのかセンドリー?」

センドリーはそれには答えず、ガンガンとレオの剣に叩き続ける。刃がもうボロボロだ。右腕に痛みが走る。受け身ばかりだとこの身が持たない。

「・・・・・・!」

レオは渾身の一撃を放った。

ドタッ!レオの勢い勝ちか、センドリーが倒れた。

「どうしてこのような事をした?お前は好々爺のセンドリーではなかったのか?」

レオはセンドリーに馬乗りになって、そう問いただした。

「どうしてだ?センドリー」

レオがそう言ってセンドリーの首元を持ち上げようとしたその時、倒した彼の弱い息から何やら白い物が吐き出された。

「ここは?どこだ?」

センドリーが呟く。

「レオーナ様?」

先ほどのセンドリーと打って変わって、彼はこの状況に戸惑いを感じているみたいだ。

「センドリー?どういう事だ?」

レオは(いぶか)しげに彼に尋ねた。

「―長い夢を見ていたような・・・・・・。私は何を?」

「この女官をいたぶって、私に一騎打ちを申し込んだではないか」

「まさか、そんな事私がするなんて・・・・・・」

「お前がやったのではないのか?」

「体が勝手に動いていたような、何かに操られていたような・・・・・・」

「そんな・・・・・・」

レオは言葉を失った。

「私は姫様とこうして再び会えた。これ程嬉しいことはない。姫様の腕の中で眠れるなら幸せだ・・・・・・」

彼の目が段々と遠く感じる。魂が静かに消えてゆく様だ。

「そんな、センドリー・・・・・・どうして?どうしてこんな事に?」

「姫に見守られながら死にゆくのも悪くない・・・・・・」

センドリーはふうと息を吐くと目を閉じた。

「嫌だ、センドリー・・・・・・死ぬな・・・・・・」

レオの腕の中、センドリーの魂が薄れて行く。

「いざ・・・・・・さ・・・・・・」

彼はさらばと言ったのか分からない。レオにわかったのはセンドリーの最期の別れの挨拶なのだという事だった。

「センドリー・・・・・・」

レオはまだ少し温かいその身体を抱きしめた。

「レオーナ姫!・・・・・・早く加勢して!もう持たないわ!」

カレエが息切れ切れで声を掛けてきた。

「―・・・・・・すみません!戦闘に戻ります!」

レオはキッと立ち上がり、センドリーの遺体に別れを告げた。

「センドリー・・・・・・」

レオは憎んだ。彼をあのように操ったと思われる張本人(ジーン)を。敵が死でしか心を解放されないなんて・・・・・。レオの表情は悲しみで覆われていた。向かってくる敵を心で泣きながら倒していった。もうセンドリーのような者を殺したくないのに。この戦が終わったら私は人を倒すことはしない。このような惨劇があるだろうか。早く敵兵がいなくなればいいのに。レオの願いと裏腹に敵兵の数はますます増えて行く。レオと他の姫君も十分な働きをしているが、何せ人数が違う、圧倒的に敵兵の勝ちだ。

「・・・・・・」

味方の人数が足らない、このままだと全滅だ。レオは疲れと痛みの中、不安を抱えながら剣を振るった。―・・・・・・長い戦闘だ、姫君達は全員満身創痍だ。ここまで来て負けるのか・・・・・・それだけは避けねば。レオはギリと歯を食いしばった。

――その時ソードとクレア達がどこからか現れ、レオ達を囲んで敵を倒して行った。

「ソード様!クレア様!」

―助かった。レオは二人の登場に安堵した。

「待たせたな」「もう大丈夫だ!よくやった」

二人はレオ達をねぎらった。

「ここは任せて!姫達は先へ急いで!」

「―でも・・・・・・」

ソード達も少人数の兵士ばかりだ。この状況でこの場を守る事ができるのだろうか・・・・・・。

「私を誰だとお思いか?一人で千の兵を倒せる手練れですよ!これくらいの敵何でもありませんよ」

クレアが敵を倒しながら叫んだ。

「さあ!急いで!ここに残られたら足手まといだ。行くんだ!」

ソードもクレアの言葉を後押しした。

「私も参戦させていただきます」

と急にどこからともなくレッシーが現れた。

「レッシー?」

驚くレオにレッシーは鎧を完璧に着こなし、自分の背丈くらいの一本槍を持って、はせ参じましたと礼をとった。

「ここはお任せを」

その姿、歴戦の戦士の様だ。

「レッシー!どうしてホクロに話しかけてくれなかったのだ?」

「申し訳ございません。とある空間だけ、意思の疎通が出来ませんでした。もっと早くおそばに行きとうございました」

レッシーは無念そうにレオに謝った。

「早くここから離れて!」

とソードが叫ぶ。

「は、はい!」

レオ達は先に進み始めている姫君達の後を追った。

「腕どうしたの?」

と隣を走るカレエがレオに呼び掛けた。

「ちょっと捻じっただけです。大丈夫ですよ」

レオは右腕を上げて笑って見せた。本当は死ぬほど痛い。けれど我慢だ、いつ敵が現れるかわからない。レオなりの精一杯の強がりだった。

「おお!やっと来たか!こっちじゃ!」

例の扉の前にファルンカがいて、レオ達を手招いている。

「―じゃ?」

レオは彼の口調に少し何か引っかかったが、その何かが分からなかった。

「本当。ディ・フォンの口真似をして、何がしたいのかしら」

とカレエはあきれ果てていた。

「ああ、ディ・フォンか。そう言えばそうかも・・・・・・。ファルンカ、今『じゃ』って言わなかったか?」

というレオの問いかけに、ファルンカがびくっと体を震わせた。

「―ああ、ディ・フォンの口真似をしただけだよん。気にしないでぇ」

とファルンカは微笑んで、レオの手を両手で包み込んだ。

「離せ!気持ち悪い!」

レオは怒り、その手を振り払った。

「いやん、冷たいなあ」

ファルンカは寂しそうに唇をかんだ。

「それよりも、エーメは?どこにいる?」

「先に行って、治療を受けている最中さ」

「大丈夫なの?」

「さあ・・・・・・僕は医者じゃないからわかんない」

とファルンカは感心なさそうに言った。

「すぐにでもエーメの所まで案内して!早く!」

レオはファルンカの襟首をつかみ詰め寄った。

「わかったよん。痛いから離して」

「ああ、悪かった」

とレオが手を離すと、ファルンカは乱暴なんだから・・・と、くすんと泣いた。

「ここは?」

カレエがファルンカに問うた。彼女達の背を軽く超えるほどの、大きな白く装飾されている鉄製の扉が、行く手を阻んでいる。知識の塔の隠し扉の奥、あの青の剣があると思われた扉ではないようだ。

「この先はクエイラ国へ行く最初の扉さ。この先幾つか扉はあるけど、敵はもうたどり着く事は出来ないんだ。だから安心して」

「ソード様達は大丈夫なの?」

とカレエは心配そうに尋ねた。

「彼らは大丈夫!少なくても国一番の精鋭部隊だからね!さ、それよりも君らだ。今までよく頑張ったよ」

とファルンカはレオの肩を軽く叩くと扉を開けた。


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