第四十五話
完結しました。第八十九話までの物語です。主人公レオーナの物語をお楽しみください。
北への道は大広間と同じように様々な壁画が壁一面に描かれていた。
「すごい」
レオはその絵を走りながら横目で眺めた。
その壁画にはリィンドゥンの前の歴史も描かれていた。これによると、この地は元々台地であり、その上に栄えた都だったと。第二の太陽が出現して台地に巨大な穴を作った。その為都は崩壊し、人々の過半数の命が失われた。残された人々は台地の穴に新しい居を構えた。そして、そこにウェンデルの王族の始祖リィンドゥンが、この地に降り立ち今の城を作った。彼は文明の記憶を失った人々に様々な技術を伝え崇められた。これがウェンデルの始まりとされる。
―そのような話が走馬灯のように続いている。以前エーメが話してくれた物語とさほど変わらない。オウリエンの事は一切書かれてない。きっとこれが本当の話なのだろう。
「もっと時間をかけて見たかった・・・・・・」
とレオは壁画を眺めながら溜息をついた。その時「―レオーナ様!後ろに敵が!」とマドリーが声を掛けて来た。
「聞こえるのです。かなりの人数の足音がします。私達を追っています」
「わかりました。姫君に訊ねます!この中で腕の覚えのある方は?少しでも戦力になっていただきたいのです!」
とレオは声をかけた。
「では、私もここに残りましょう」
カレエが細い剣を持ち身構えた。
「ありがとうございます!カレエ様!」
「私意外と強いのよ」
とニヤリとカレエは微笑んだ。
「私も残ります」「私も」
と十五、六人が声を上げ武器を手に取った。これで姫君の内、半数が残った。戦闘に参加する姫君達は、エオリー様好きの方々がほとんどだった。
「ありがとう、皆様」
とレオは残ってくれた方々に礼を言った。
「いえ、少しでもお役に立てれば」
と一人の姫がそう言うと、周りの姫は同じ思いだと頷いて見せた。
「では、後の皆様は先に進んでいってください」
レオは剣を抜き、ふーっと息を吐くと身構えた。
「さあ、早く行って下さい!」
レオは戦闘に参加しない姫君達に、逃げるよう声を掛けた。
「はい!」
姫君達はレオ達を置いて先を急いだ。彼女達の足音が聞こえなくなった頃、敵の足音が聞こえ始めた。
「来ました」
一人の姫がレオに声をかけてきた。「―ふむ、まずは、ここの道が細いので入っても二人ずつしか入れません。皆で二人ずつ倒しましょう」レオがそう提案した。
「わかったわ!」「そうしましょう!」
カレエ達がそう賛同したその時、大広間の方で敵の叫び声とガラガラという金属音が聞こえた。
「何?何が起こった?」
レオは何事かと身構えた。
「おそらく、大広間に侵入者に対して何かの仕掛けがあったのかも。ファルンカが仕掛けたのかも知れないわ」
とカレエが自信なさげに教えてくれた。
「じゃ、敵は全滅した?」
とレオが喜ぶ、と再び敵の足音が近づいて来る。
「じゃないみたいね」
とカレエは正面を見て、剣を握りしめた。
「いたぞ!」
敵兵がレオ達に襲い掛かる。その数ざっと見ても三十人位。奥にはもっといるかも知れない。皆が逃げ切るまでもつか・・・・・・レオはそんな不安を抱えながら一人二人と敵を倒してゆく。カレエは本当に本人が言う通りレオに並ぶ・・・・・・いやレオ以上に強く敵を次々にやっつけて行く。他の姫君もレオ程までは、いかないが意外な戦力となった。
・・・・・・見える、敵の動きがよく見える。レオは初めての実戦に手ごたえを感じた。だてに、センドリーやケンフォレン達と剣の技を磨いていたわけではない。レオが凄いのでは無く、レオの相手をしてくれた彼らが凄かったのだ。
「構え!行け!」
次々と敵兵は倒れた兵士までも、踏みつけて攻めて来る。レオ達は疲労の色が隠せない。敵はまだ増える一方で一向に減る気配がない。
――皆善戦してくれているが、このままだと全員が危ない。レオがそう覚悟した時、目の前に青い光が生まれた―そしてその光は大きくなり、シェルシードが現れた。
「―!あなたは!」
シェルシードはレオの呼びかけには答えず、敵を次々に倒してゆく。そして、レオ達にファルンカや姫君達が向かった方向へと指を示した。
「―彼は私達に逃げろとおっしゃっているのでは?」
カレエはレオにそう声をかけた。
「―・・・・・・」
シェルシードはその声が聞こえた様に頷いて見せた。
「でも・・・・・・」
と彼一人に任せてよいものか・・・・・・レオが躊躇していると、早く行けと言わんばかりにしっしっと手で合図した。
「・・・・・・よし、ここは彼に任せて先を急ぎましょう!」
レオが皆に呼び掛けた。シェルシードはこくこくと再び頷いた。
「ありがとう!」「助かりました!」
姫君とレオはシェルシードに、口々にお礼を言って、その場から駆け出して行く。
――助かった、とレオは右腕を掴んだ。先ほどの戦闘で少し痛めたようだ・・・・・・次の戦闘があるなら不利だな。それでも戦うしかない。生きるためだ。レオは真っすぐに顔を上げた。
「ファルンカ!」
通路の先でファルンカをレオ達は見つけた。
「皆様、無事で良かった。さ、この先は安全です」
とファルンカが壁の一部を押すと、壁に人一人ようやく入る位の穴が現れた。
「皆様、どうぞこの中に」
「まだこの先にシェルシードが一人で戦っているんです、彼に任せたとはいえ、心配です」
レオがファルンカにそう訴えた。
「彼なら大丈夫、無敵ですから。心配は無用ですよ、レオーナ姫」
とファルンカはレオに安心させる為か、にっこりと微笑んで見せた。
「でも」
「早くしないと敵に見つかってしまいます。急いで!」
ファルンカの言葉に姫君達は慌てて穴の中に入って行く。
「・・・・・・でも」
やはり、あれはどう考えても多勢に無勢だ。レオは彼の事を心配した。彼一人任せてはいけなかったかもと後悔し始めた。
「皆を危険な目に合わせたいのですか?!早く中へ!」
ファルンカは語気を強めた。
「―わかりました」
レオは渋々中へと入った。ファルンカとレオが壁の中に入った途端に、壁が塞がれた。中が一瞬暗くなる。「きゃあ!」姫君達の不安気な声が響く。
「大丈夫」
ファルンカが手に持ったランタンに灯りを灯す。彼が持っているランタンは焔の揺らぎが無かった。他の方法で明かりがついているようだった。
「これでおそらく追っ手をまいたはず、僕に続いて」
ファルンカは手に灯りを持ち歩き始めた。
「どこまで進めば安心なのでしょう」「私はもう走り疲れました」
姫君達は堰を切った様に、口々に不満や愚痴を言い始めた。
「歩き続ければ、北のクエイラ国にまでたどり着く。そこに無事たどり着いたら、僕らの勝ちだよ」
とファルンカが不安気な姫君達に呼び掛けた。
「クエイラ国に行くのですか?」
とジオドーラ様が嬉しそうに訊ねた。
「北のクエイラ国と言えば、ウェンデルより頑強な守りがあると聞きますわ」
エルミーナ様がホッとした様に周りの姫に話しかけた。
「そこに行けば安心ですわね」
シャイロン様がそれに答えた。
「あぁ、希望が持てます」
姫君達は少し元気が出たのか、明るい表情を見せた。
「そう言えば・・・・・・」
レオはふと一行の中にいるはずの人物を探し始めた。
胸の奥がざわめく。何かが違う。この違和感は何だ。エーメ!エーメが居ないのだ。レッシーも居ない。
「何?どうしたのよ?」
とカレエが聞いて来た。
「はい・・・・・・エーメ、それにレッシーが居ないのです・・・・・・。本来私の側にいなくてはならないはずなのですが・・・・・・」
「そうね・・・・・・私の女官もいないわよ」
どこにいったのかしら?と彼女も不思議がった。
「どこに行ったのでしょう?こんな迷路の中、迷ってしまったら大変ですよ」
「そう言えば私のレニアもいないわ!」二人の会話を聞いていたのか、一人の姫君が騒ぎ出した。「私のネスルミもよ!」「私もいないわ」「でも私のティアリはいるわよ」「私の女官も無事よ」どうやら姫君の女官の一部は行方が分からないようだ。
「ホクロに話しかけてみましょうか?」
レオは思い出した様にそう提案してみた。
「ホクロね、やってみる価値はあるわね」
そうカレエが返事すると、姫君達が皆真似をし始めた。
キンッ金属音だけが頭に響く。
「ここではホクロは使えないよ。女官には繋がらない」
ファルンカがそう断言した。
「そんな・・・・・・どうりでレッシーの声も聞こえないはずだ」
とレオは愕然とした。
「自分のことばかりで、気付いてもやれなかったわ・・・・・・」
一人の姫の呟きに皆激しい後悔を覚えた。
意気消沈した姫君達に「もう少し歩けば安全だよ、女官の事なら大丈夫だと思うよ。彼女達も戦闘能力はあるんだ」とファルンカが慰めの言葉をかけた。
ファルンカの言う通り、少し歩くと扉があり、そこを開けると大広間が広がっていた。
「ここで一晩過ごします。皆さん明日も、きつい道のりです。ゆっくりと体を休めて下さいね」
と言うファルンカの言葉に、姫君達は安堵の声を上げた。
「まあ、ここならゆっくりと休めそうね」
とカレエが空間をしげしげと眺めながら言った。
「そうですね。毛布とか寝具もあるし、瓶詰だけど食料も何とかあるみたいだし、誰かが用意したとか」
レオは数十個あるクッションの一つを手にして答えた。なぜかこの空間は誰かが用意していたかのように、きちんとレオ達に必要な物が並べてあった。
「そうね・・・・・・もしかしたら、こういう時の為に準備されていたのかも・・・・・・この瓶詰最近の物のようね、ラベルの保存した日付が今月の物よ」
「そうですか、非常時の時の為に常に準備をしていたのかもしれませんね」
レオはカレエの意見に賛同した。そう思えば納得が出来る。レオはホッと息を吐いた。そしてその場に座り込んだ。
「ちょっと!あなた大丈夫?!」
カレエが心配そうにレオの顔を覗き込んだ。
「あぁ、大丈夫ですよ。少し気が抜けました」
ハハとレオは苦笑いした。
「そう?何か飲み物があるらしいから、持って来るわね」
とカレエは姫君達の方へと向かった。「すみません」レオはそう答えてもう一度はぁーと息を吐いた。
――情けないこれくらいの事で。・・・・・・一晩休めば右手もましになるだろうか・・・・・・何とかしないと・・・・・・エーメ達は無事だろうか。彼女達は戦闘能力があると聞いたが、大丈夫なのだろうか。そうぼんやり思っていると又青い光が現れた。――まさか・・・・・・・。
「シェルシード?」
レオがそう思った通りシェルシードが現れた。
「無事だったのか!大丈夫だった?」
レオは思わず駆け寄った。シェルシードはレオの問いかけに、大丈夫と言いたげそうに、こくこくと頷いた。
「良かった、一人で大丈夫だったか?すまない、一人で戦わせて・・・・・・」
こくこくと再び頷き、自慢げに甲冑の太い腕を見せた。
「おお、凄い腕だね。さぞかし筋骨隆々なんだろうな。強いのだな、シェルシードは」
レオがそう褒めるとシェルシードは、エッヘンと胸を張って見せた。
「ふふふ」
レオはその様子が可笑しくて笑った。そんなレオにうんうんと頷いて、彼女の頭を軽くポンポンと叩いた。
「何?」
と問うレオにシェルシードは、レオの口の端を持って上げて見せる。
「えっ?あっ笑えって事か?」
レオがそう言うと、彼はこくこくと頷きながら拍手した。
「ふふふ、可笑しいな。シェルシードは」
そう笑うレオに、シェルシードは親指を立てた。
「笑った方がいいのだな?ふふふ、わかった」
レオはシェルシードの仕草に、感じていた不安などが消えてゆく気がした。
「ほら、飲み物を持って来たわよ。ここって竈もあるのね。温かいものが作れたわ」
とカレエが飲み物を持ってやって来た。
「熱いから気を付けなさい」
カレエから受け取った飲み物は、温かく蜂蜜の匂いがした。
「今ですね、彼がね」
面白いんですよとカレエに伝えようと、シェルシードの方を振り向いた。
「あれ?」
シェルシードはそこには居なかった。忽然と姿を消したようである。
「何?誰もいないわよ。彼って誰なのよ。イノス様と言う夫がいる身のくせに」
カレエはレオを睨んだ。
「違いますよ!先の戦闘の時に助けてくれた人が今いたんです!」
と焦りながらレオはカレエの誤解を解いた。
「あら?無事だったのね。どうしていなくなったのかしら・・・・・・」
「そうですね・・・・・・」
と二人で考え込んだが結論に辿り着かず、とりあえず飲み物でも、飲んで落ち着こうという事となった。
「温かいですね、この飲み物は?」
カップに伝わる優しい温かさに、レオは癒されるなと思った。
「ウェンデルでは、よく飲まれている蜂蜜の入ったエペラという飲み物よ。疲労回復にいいの、熱いから気を付けて」
「へぇ・・・・・・そうなのですか。美味しそうです」
レオはエペラを一口含んだ。
「熱っ!」
あまりの熱さに舌がヒリヒリする。
「気を付けなさいって言ったでしょ!」
とカレエに怒られた。
「すみません・・・・・・」
とレオは謝り、今度は慎重に飲んでみた。
蜂蜜の濃い甘みが口いっぱいに広がる。身体も段々と温かくなって行く。
「美味しい」とレオが感想を述べると「でしょ?冬には欠かせないのよ」とカレエは自慢気に言ってのけた。
「――いつまで逃げ続けなくてはならないのでしょう・・・・・・クエイラ国にはいつ着くのでしょう」
レオは急に不安になったのか、カレエにそう訊ねた。
「ファルンカだけが知っているみたいね」
「――ファルンカって何者なのでしょう・・・・・・意外と頼りになるんですね。普段はなよなよしているのに」
「――疑っても仕方がないわ。彼を信じる事しか道は無いわ」
―そうかも知れない。この先の道を知っているのは彼しかいないのだ。レオはカレエの返事に頷いた。
「ふむ、たとえ変態でも、すがるしかないですね」
「変態ってあなた!ふふふ!確かに変態だったわね」とカレエが笑う。つられてレオも笑った。「そうですよね!最初にこの国に来ていきなりキスを手の甲にされましたよ!あの時の気持ち悪さったら!」とレオが当時を振り返って、身震いすると、「私は顎をそっと撫でられて唇にキスされそうになったわ」とカレエがそう告白した。
「えー!キスされたのですか?」
「される前に顔面パンチで倒してやったわよ」
ふんっとカレエは当然のことの様に言い放った。
「痛そうですねその顔面パンチ」
「そうよ、彼、泣きながら部屋を出て行ったわ」
「あぁ!私も顔面パンチすればよかった」
レオは急にファルンカに対して怒りと後悔を覚え始めた。
「今度もし、ファルンカが悪さをしようとしたら、股に一撃、蹴り飛ばしたらいいのよ」
「はい、そうします。・・・・・・参考になりました」
レオはペコリと頭を下げた。
「この国の常識ですわよ」
カレエは不敵に笑って見せた。
「そうですか・・・・・・。あの・・・・・・」とレオが口をつぐむと「何?何か言いたいことがあるんなら、言いなさいよ」とカレエは詰め寄った。
「―・・・・・・私のせいでこんな事になってしまったのです」
とレオはしょんぼりと話し始めた。
「私がセオドアからウェンデルに戻らなかったら、こんな事にならなかったはずです。それが例えソード様に仕組まれた事だったとしても」
「何?話はそれだけ?あなたがセオドアに帰った時点で、もう既に城には敵が入り込んだのよ。あなたのせいと思っていたら、誰かがあなたを責めていたはず。どなたかいらした?」
カレエは落ち込むレオにそう問い詰めた。
「いえ、いまだに誰も」
「ほら見なさい。誰もあなたのせいじゃないと思っているのよ」
「そうですか・・・・・・」
「そうよ!」
カレエは元気の無いレオに喝を入れるように、レオの背中をバシッと叩いた。
「いたた・・・・・・。これじゃファルンカも泣きますね」
そのすごい衝撃にレオはどこにこんな力が、あるんだろうとカレエを涙目で見た。
「あら、言うじゃない。もう一発お見舞してあげてもよろしくてよ?」
「ああ、もういいです!すみませんでした!」
レオは激しく首を振った。レオはカレエなりに励ましてくれているのだな、と思うと彼女の優しさを嬉しく思った。
「何にやにやしているの?忙しい人ね」
「いえ、カレエ様の優しさに感動しているのです」
「気持ち悪い人ね。私はあなたが嫌いなのよ?その私が何故優しいのよ?」
「自覚がないのですね。カレエ様は十分に優しいですよ」
「マドリーがあなたは女たらしだと言っていたけど、本当にそう。今思い出したわ」
「女たらしとは心外です」レオが不平をいうと、「いいえ、あなたは女たらしだわ」と断言された。
「どこがです?」
「無自覚なのが一番たちが悪いわね」
カレエは首を振りレオに冷たい視線を送った。
「えっ?」
「もういいわ。さあもう寝ましょう。皆横になっているわよ」
「そうですね。あの、このホクロは使えないのですかね。ソード様に戦況を伺いたいのですが」
「この空間は他の場所へ声を伝える時、何か妨害するものが、あるのかもしれないわね。それに夫婦ではホクロで通じ合えないのよね・・・・・・」
「そうなんですか?」
「この紋様がお互い生きている証拠なのよ」
レオは慌てて右手の紋様を見た。しかし、今は何も現れてくれなかった。
「そんな・・・・・・」
セオドアに捕まった時は金の紋様が確かにあったのに。レオはカレエを見つめた。
「ところで、あなたソード様とホクロで繋がっているの?早く解除してもらいなさい。丸見えよ何もかもが、あなた用をたしたりしてないわよね?着替えたりとか」
カレエは半分呆れ気味にレオを見つめた。
「特にはしていませんけど」
「試しにどれだけ恥ずかしいか教えてあげるわ。私と交信しなさい」と彼女はレオのホクロと自分のホクロを合わせて「我の目となれ耳となれ、続けて」とレオを促した。
「我の目となれ耳となれ」とレオは唱えた。カレエは自分のホクロが光るのを見届けると頷き「ここの空間の中では使用可能のようね。じゃ、目を閉じて私の名を唱えなさい」と命令した。レオはカレエの言う通りにした。すると、ブンという音と共に自分の姿が見える。カレエから見える自分だ。
「え?これって・・・・・・」
「これがホクロで繋がった人が見れる相手側の光景よ」
「えええ!」
レオは恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になった。変な事をしてないだろうか。胸とか覗いたりしてないはずだ、おそらく。甲冑を着ているし大丈夫だろう。しかし、あんなことやこんなことが筒抜けだったとは。
「だから、男女の交信はタブーなのよ。レッシーとかに言われなかった?」
「そう言えばそう言われたかもしれません・・・・・・」
「人の話はよく覚えておくことね」
「はい、そうします」
レオは自分の迂闊さにうな垂れた。
「で?私達に繋がっているホクロはどうするの?繋げたままでいいの?」
「あ、ああ。そうですね。そのままにしておきましょうか。何が起こるかわかりませんし」
「そうね、じゃこのままにしておきましょう」
カレエは自分の右手首のホクロを見ると、腕を下ろした。
「さてと・・・・・・もう寝ましょうかレオーナ姫。明日に響くわ」
「―そうですね・・・・・・。わかりました。おやすみなさい」
そうレオが言うとカレエは安心したように毛布を広げ横になった。
「―・・・・・・」
レオはカレエが寝付くのを待ってその場を離れた。そして、人が居そうにない場所を探した。独り泣く場所を探したのだ。幸いにも姫君達は大広間の中心に固まって眠りについている。
「―・・・・・・」
少し影になった薄暗い場所に行き、黙って座り込む。レオの脳裏に今日一日の事が足早に様々な出来事が浮かんでは消える。ウェンデルの迷路の様だ。
最後に浮かんだのはイノスの様々な表情だった。いつもムスッとして愛想なんて一つもない。けど――愛していた。好きだった。・・・・・好き。もう会えないのだろうか・・・・・・そう思った瞬間、レオの瞳から大粒の涙が溢れる。それは今まで我慢し過ぎたせいか、堰を切った様に流れて行く。レオは涙を隠すように、おでこを膝に寄せた。
「――」
レオは声を押し殺して泣いた。独りで泣くのは何年振りだろう。もう泣く感情なんて捨ててしまっていたはずなのに。どうしてここまで心揺さぶられるのだろう、一人の男に。
「・・・・・・」
その肩に誰かが手を置いた。
「――誰?そっとしておいて下さい、このままでいさせて」
「・・・・・・」
今度は頭をなでなでされた。
「もう!ほっといて下さい!」
レオが顔を上げると、目の前に心配そうなシェルシードがいた。
「シェルシード・・・・・・。一人にして、泣きたいのだ」
「・・・・・・」
シェルシードはぶんぶんと横に首を振る。そして、レオを優しく包むように抱きしめた。
「シェルシード?」
シェルシードはレオの頭を優しくポンポンと叩いた。
「慰めてくれるのか?ありがとう、シェルシード」
レオは彼の優しさに心から癒され感謝をした。
「・・・・・・シェルシード、旦那様は大丈夫だな?生きて無事でいてくれているよな?」
レオは震える声で彼に聞いた。
「大丈夫、きっと大丈夫」
レオは自分にそう言い聞かせる。しかし涙は止まらない。
「シェルシード・・・・・・」
レオは仮面から覗く瞳を見つめた。その瞳は光が入ると淡く揺らぐ。イノスの瞳に似ているが、あの心がシンと響く彼の瞳ではない。
「違う旦那様じゃない」
レオは頭を振った。
「シェルシードの事、旦那様かもって思っていたけど、違うんだ・・・・・・。身体の大きさも瞳の色も違う。旦那様と違う!あなたとは違う―」
そう言うとレオは崩れ落ちるように、再びその腕の中で泣いた。涙が枯れ果て、レオは疲れたのかそのまま眠りについた。
シェルシードは抱きしめる腕を少し強めた。レオの騎士姿は凛々しいが、自分と比べると凄く華奢だ。守らねば、彼女を・・・・・・。シェルシードは泣き疲れ眠る顔を見つめ誓った。




