第四十四話
完結しました。第八十九話までの物語です。主人公レオーナの物語をお楽しみください。
――守らなきゃせめて姫君達だけでも!そういえば武器はどこにあるんだろう・・・・・・。レオの手には剣が無い。セオドアに向かう時にウェンデルに置いて行った。彼女は武器になりそうな物を探しながら走った。しかしなかなか見つからない。姫君の間に行けばエーメ達がいるかも、そこで何とかなるか・・・・・・。自分に出来る限りの事をしよう。レオはギュッと握りしめた手の甲に金の紋様を見つめた。
「―旦那様はどこに行ったのだろう・・・・・・」
レオはふとイノスの事を思った。レオはイノスに自分の気持ちを伝えてなかったことを後悔した。
「会ってちゃんと好きだと言おう。そして旦那様の気持ちも同じかどうか聞いてみよう」この紋様の色が答えだったとしても、本人に会って確かめたい。レオの足取りが速くなる。
「―・・・・・・この道はどこに繋がっているんだろう」
通路は入り組んでおり、レオは迷子になりそうだと思った。しかし、その不安はすぐに消えた。レオが進むと自然と道が開いていくのだ。道の途中で次々と扉が現れては開いて行く。この調子だと自分の行きたい道へと進んでいるようだな、とレオはこの道の流れに身を任せた。この進む道の先にもしかしてイノスがいるのかもしれない・・・・・・不確実だが、そんな予感さえあった。
「――大きな扉だ」
レオは目の前に立ち塞がる扉を、力一杯こじ開けた。その先は二階の広間に繋がっていた。人々が戦の後方支援に忙しそうに動いている。
「エーメ!エーメはどこに?!」
レオは大声を上げた。
「ここにおります!レオーナ様!」「ご無事で何よりです」とエーメとレッシーもレオの元に駆け寄って来た。
「剣をどうぞ」
エーメはレオに剣を掲げた。レオが置いて行った剣と同じように見える。
「この剣は私が置いて行った物か?」
レオは剣をしげしげと見つめた。
「そうです。ソード様より預かったものです」
「そうか、ありがとう。ソード様は何も言わなかったから、武器を探したぞ」
レオは天を仰ぎ、ソードに向かって文句を吐いた。
「で、姫君達は?・・・・・・ああ、あそこか」
姫君達が、不安気な表情で集まっているのを見つけたレオは、彼女達に近づいた。
「レオーナ様!」「レオーナ様!」
と口々にレオを見つけると彼女達は駆け寄って来た。
「敵が攻めてきたと聞きました。城の中に入ったとか。一体どうなっているのです?」
と姫君の一人が訊ねてきた。
「敵は地下から攻めてきました。これから城に敵が大量に攻めています。申し訳ありません。私の責任でもあります」
ソード様による陽動とはいえ・・・・・・とレオは心にその言葉をしまい込んだ。
「レオーナ様が城から出て行くと聞いて私達は怒ったのですよ。なぜレオーナ様をセオドアに行かせたのと。無事に帰って来て本当に良かった」
周りの姫君もうんうんと頷いてくれた。
「姫様達・・・・・・ありがとうございます」
レオは姫君の優しさに心から感謝した。
「早くここから逃げないと。・・・・・・そう言えば、マドリー様は?マドリー様がいらっしゃいませんね」
レオは彼女がいない事を不思議に思った。
「マドリー様は部屋に・・・・・・、先の戦闘で旦那様を亡くされ、ここに残ると言って動こうとしません。今カレエ様が説得中です」
とエーメが答えた。
「そうですか、そんな事があったのですね。さぞ悲しまれている事でしょう。マドリー様を連れてきます。部屋ですね?」
とレオが急いで駆け出そうとした時、「マドリー様をお連れしました」カレエがマドリーを抱えた彼女お付きの女性の兵士と共にやって来た。
「マドリー様!」
姫君達がほっとしたようにマドリーに声をかけた。
「放して下さい!私はここに!この子と共に死にます!もうどうかそっとしておいて!」マドリーは興奮気味に泣き叫んだ。
「マドリー様、そんな事言わないで下さいまし」
カレエはマドリーに落ち着くように言った。
「私は足も不自由でこの身重・・・・・・。皆様に迷惑をかけるだけ・・・・・・。ここに残ります」
マドリーはそう言うとワッと兵士の肩に顔をうずめて泣いた。
「そんな事・・・・・・皆でマドリー様を守ります。大丈夫ですよ」
レオはマドリーの頭を優しく撫でながら説得した。
「皆の負担になりたくないの。旦那様のいない世界なんて生きたくないの・・・・・・」
「そんなの・・・・・・お腹の赤ちゃんはどうなるの?あなたの勝手で殺すというの?」カレエが詰め寄る。「赤ちゃん・・・・・・」その言葉にマドリーが顔を上げる。「殺せるの?」カレエの言葉は怒気を含んでいる。「出来ない・・・・・けれど・・・・・・」マドリーはポロポロと泣き続けた。―その時。
「来たれ!マドリー・テル・ローズ!我が手を取るのだ!」
とレオが叫んだ。かつて演じたエオリーその者の様に。姫君達からきゃあと歓声が上がった。いつ戦場になるかも知れないこの時に、あの頃が戻ったかのようだった。マドリーの目から涙が溢れて止まらない。
「レオーナ様・・・・・・」
マドリーの手がレオに向かって伸ばされる。レオが彼女の手を握りしめる。
「マドリー様は私が守ります。命に代えても」とレオが誓うと「―・・・・・・」マドリーがレオの胸に飛び込んだ。
「レオーナ様・・・・・・私・・・・・・私」
むせび泣くマドリーの頭を、抱えるようにレオは撫でた。
「あなたにしてはよく考えたわね」
負けたわとカレエがレオの肩を叩いた。
「そうですか?皮肉にしか聞こえませんけど・・・・・・」
「そう聞こえるのはあなたの心が汚いからよ」
カレエは挑むようにレオにそう言い返した。
「言いますなあ」
とレオはカレエにニヤリと笑って見せた。
「本当の事を言っただけですわ」
とカレエも負けずに微笑み返した。
レオとカレエは睨み合った後、ほほほほ!と同時に高らかに笑った。
「マドリー様をお預かりします」
彼女付きの兵士がレオからマドリーを引き取った。
「大丈夫ですか?」
レオはマドリーに声をかけた。
「・・・・・・」
マドリーは声に出さず頷いて見せた。その顔は穏やかに見えた。
「さあ、皆さん集まりましたね?!急いでこの場から離れましょう!」
レオは姫が全員揃った事をエーメに知らせてもらい、そう呼び掛けた。
「でも、どこへ逃げれば・・・・・・」
と姫君達が騒めき始めた時。
「わたくしめがご案内いたしますうー♪」
とファルンカがどこからともなく現れた。
「えっ・・・・・・ファルンカ!」「ファルンカですって」
姫君達は不安そうに彼を見つめる。
「私が逃げ道を知っております。私に付いて来て下さい」
この時のファルンカはいつものタレ目でもなく、気持ち悪さもなく、心なしかキリリと見えた。
「どうか、このファルンカにお任せくださいませ」
「そんなこと言って変な所に私達をつれていくのね?」
姫君達はそんな彼の言動を怪しんだ。
「いいえ、とんでもない!どうか信用してください」
と、あのファルンカが頭を下げてみせた。
「・・・・・・」
この時なぜかレオは、ファルンカの様子を見て、信頼できるように感じた。
「・・・・・・彼について行きましょう」
「えっ!」「それは・・・・・・」
とレオの決断に口々に不安を漏らした。
レオはファルンカについて行くのは、不安を感じるだろうが、自分が逃げ道を知っているわけでもないし、ファルンカに頼るしかないと彼女達に説明した。
「そうですわね・・・・・・」「そうしましょう」
姫君達はそう口を揃えるとファルンカを見つめた。
「んふふ。城の姫君独り占め♪」
と笑うファルンカに若干の不安を抱いたのは、レオだけではなかったようだが。
「皆さーん!付いて来てねー!」
ファルンカが叫ぶ。
ここから姫君達の逃走劇が始まった。ファルンカは急な曲がり角や、二人が並んでようやく通れる、くねくねした細い道など、様々な道を凄い速さで駆け抜けて行く。姫君達は付いて行くのに必死だ。
「ファルンカ!もう少し遅く走って!皆がついて行けなくなる。マドリー様のお付きの兵士が大変だ」
レオはファルンカにようやく追いつき、彼の首根っこを捕まえて言った。
「わかった、でも急がないと大変な事になる。敵に捕まったらおしまいだ!」
「少しでいい。少し速さを落として走って!」
「うむ、そうしよう」
ファルンカは真面目に頷いた。その顔はいつもの気持ち悪さは感じなかった。普段の彼ではない。
「――」
そんな彼の表情になぜ普段から、こんな真面目な顔じゃないんだろうと不思議に思った。今の彼に不快感は無い。どちらかと言うとイノスやソードの様に美しく思えた。
「・・・・・・冗談じゃない。あのファルンカだぞ」
レオは以前の彼を思い出し身震いした。
「何?」
とファルンカが聞いてくるので、何でもないとレオは慌てて答えた。
「さあ行こう!」
皆が再び一つに合流し走り出そうとしたその時――ドカンと爆発音が響いた。「きゃああああ!」「何?何ですの?」と姫君達が口々に叫ぶ。
「落ち着いて!さあ急ぎましょう、皆さま!」
とレオが声を掛け皆を励ました。
「急ぎましょう」
カレエが皆を促す。その間にも爆音が響き、床、壁、天井などが揺れる。
姫君達は半分泣きそうになりながら、ファルンカの後を必死に付いて行く。レオ達は自分達の幅の大きさに沿って縮む道や、突然笑うおかしな扉など、変わった見た事も無い様々な扉や道を駆け抜けた。その驚きの連続に姫君の叫び声が、幾度も響き渡った。彼女達は今どこに自分達が向かっているのかも、わからなくなっていた。
「ファルンカ!今どこ?」
レオが声を掛ける。
「もう少し先まで行くと安全な場所だと思える所にたどり着く。後少しだから頑張れ!」ファルンカが姫君達に叫ぶと「はい!」彼女達も疲労困憊ながらそれに答えた。
「・・・・・・」
レオは振り返りマドリーを見た。彼女はこの逃走劇に疲れた表情をしていたが、レオの視線に気付くと、大丈夫だと伝えようと口角を上げて見せた。女性兵士も、レオに一礼して、心配ありませんと口を動かした。
「・・・・・・うん」
レオは彼女達の頑張りに頷いた。彼女達の為にも早く安全な所に行かないと。レオは前を向いた。
「ここだ!」
ファルンカはとある扉を開けた。
「・・・・・・」
その扉の中は暗くてジメジメしているようだ。「早く入って!」ファルンカの呼びかけに姫君達が恐る恐る扉を潜って行く。
ファルンカがパチンと指を鳴らすと、所々に灯りが灯った。
「わあ・・・・・・綺麗・・・・・・」
自分達のいる場所は円形の天井の高い大きな広間で、その場所を中心に東西南北に分かれて道が続いているようだ。そして壁一面にカラフルな壁画が描かれていた。
「すごいな。何の絵だろう」
「神話の一場面ね」
とカレエがそう教えくれた。
「神話?」
「リィンドゥンの神話。この地に降り立った神様のお話」
とカレエはある絵をレオに指し示す。
黄金の髪に長い大きな剣を持つ男が、大地に片足だけついて立っている。
「この人がリィンドゥン?・・・・・・誰かに似ているような・・・・・・」
レオが不思議そうに眺める。イノスかソードに似ている気がするな。・・・・・・祖先にあたる人だからか。
「――北へ向かいますよ!一同、ついてきてね!」
ファルンカが叫ぶ。
「は、はい!」
レオ達は慌ててファルンカに続いた。




