第四十話
完結しました。第八十九話までの物語です。主人公レオーナの物語をお楽しみください。
城の高塔の門の城壁に近づくと、多くの兵が集まりカルームの兵を見下ろしている。
「・・・・・・」
レオは下の様子を窺がおうと、門に集結された兵の合間をぬって、門の外が見える縁に着いた。
「――!」
よく見ると・・・・・・セオドアだ!セオドアの旗がある。真紅に黄金のティーチェの花の旗印。・・・・・・間違いない。カルームの軍の中にセオドアの兵を見つけた。やはりセオドアが裏切ったのだろうか。レオがそう思い巡らしている間にも、敵軍は益々増えるばかりだ。
その軍の先に立つ者がいる。黒馬に乗りこの場所から見ても、その人が誰なのかレオにはすぐに分かった。全身赤の甲冑に黒髪の巻き毛、間違いない、ジーン姉さまだ。
「どうして・・・・・・」
レオはその訳を知りたかった。なぜジーンが兵を挙げこの城にやって来たのかを。
「―なぜここにいる?」
その声にレオは振り返った。
「旦那様」
イノスは少し怒ったような顔でレオを見つめた。
「―少しでも手助けになればと」
「お前に、セオドアの兵と戦えるのか?自分の祖国だぞ?」
「―もう私はセオドアの者ではありません。ウェンデルの者です。確かにセオドアの兵に剣を向ける事に少し躊躇いますが・・・・・・。それに、セオドア兵の中にセオドア在住のウェンデルの兵も混じっています。あなたも同じ立場ですよ、旦那様」
「―・・・・・・」
イノスが口を開こうとした時「レオーナ姫はいるか?」と声が上がった。その声の主はソードだ。こちらを見つけると駆け寄って来た。
「レオーナ姫、先ほどセオドアからの使者が来た」
「何を言ってきましたか?」
「君をセオドアに返してくれれば兵を引くと」
「セオドアに?」
レオは意外な条件に目をむいた。
「ああ・・・・・・それが兵を退く条件だ。どうする?イノス、レオーナ姫」
「わかりました。私が行きましょう」
レオはそう申し出た。
「えっ?祖国に戻るのか?」
彼女の言葉に、ソードが驚きの表情を見せた。
「はい、それが戦乱を起こさない唯一の行動かと」
レオは当然の様に言い放った。
「イノス、止めないのか?」
「止めて聞く奴じゃない。彼女の好きにさせろ」
「大事な妻だぞ?向こうに行っても安全とは限らない。行くなって伝えろ!夫として止めてやれ」
とソードはイノスに、にじり寄った。
「それは言えない。俺にそんな資格は無い」
イノスはレオの眼差しから、避けるように顔を背けた。
「では、セオドアに戻ります。私の身一つでこの騒ぎが収まるのなら。喜んで行きます」
と笑顔でソード、そしてイノスを見つめた。
「さようなら、短い間ですが夫婦でいられた事、感謝しております」
とレオはイノスに深々と頭を下げた。
「では行きましょう」
何事もなかったように、レオはソードに向かって歩き出した。
「おい、イノス!それでいいのか?」
ソードはイノスに問いかけた。
「それが彼女の望みなら」
イノスは背を向け、その場を去って行く。
「イノス!」
そう叫ぶソードの手を、レオはぐいっと引き寄せた。
「もういいのですよ、私の決めた事ですから」
レオは右手の甲を見ながらそう静かに囁いた。
「――」
レオはイノスに止めて欲しい気持ちが、無かったと言えば嘘になるが、彼にはその気が無いようだった。仕方がない。右手の赤い紋様が薄れて行く。ああ、やはり私は愛されていなかったのだ。
「行きましょう」
レオは前を向いて進んで行く、その瞳にもう迷いは無かった。




