第三十六話
完結しました。第八十九話までの物語です。主人公レオーナの物語をお楽しみください。
それからラディンディラの元へレオは、カレエとの演技指導の合間などに、時間があれば通うようになった。当分知識の塔に行けなくなるのが痛かったが、レオは彼女に会いたがった。レオは自分を残して死んだ母親の影を、ラディンディラに見ていたのかも知れない。
日に日に弱々しくなる彼女。レオはより一層彼女に会いに行く機会を作った。
ラディンディラとは故郷のセオドアの話が多かった。父王の事や、レオの母親の話までしてくれた。レオの母は銀の髪と緑色の瞳がレオとよく似ていて、性格はレオと違い大人しい静かな方だったと教えてくれた。後、ローレン様の話を乙女の様に、恥じらいながら話したりした。ローレン様とはまだ彼女が若い時に亡くなった事、レオの髪が金髪ならより一層似ているのだけど、と少し残念そうに話した。レオは彼女の死が段々と、近づいてきている事を気付いていたが、変わらずラディンディラに接し続けた。
――そして、とうとうその時が来た。
「ラディンディラ様!又来ました!レオーナです!おかげんいかがですか?」
レオはいつものように、ラディンディラの元に駆け寄った。
「ラディンディラ様?」
ラディンディラは静かに眠っているようだ。
「――?」
なかなか微動だにしないラディンディラに、レオは彼女の異変を感じた。
「ラディンディラ様?」
レオは彼女を起き上がらせようと彼女の腕に触れた・・・・・・腕は燃えるように熱かった。ぐらり、レオにラディンディラの身体が圧し掛かる。
「何てことだ!レッシー!ラディンディラ様の様子がおかしい!早く手当てを!」
そうレオが大声を上げると、ガシャン!と扉が開く音と共に、レッシーが駆けつける。
「レッシー!ラディンディラ様は?」
「――」
レオの声が届いてないのか、レッシーは、やたらとラディンディラの身体に触れて、厳しい顔をした。
「ああ、ローレン様いらしたのね。私に愛の印を」
とラディンディラはレオに右の手の甲を見せた。目を閉じているが、その表情は恍惚とし幸せそうだ。レッシーがレオに囁く、手の甲にキスをと。
「え?」
戸惑うレオにレッシーは早くと促す。
「――」
レオは急いでラディンディラの手の甲にキスをした。すると、手の甲に黄金の紋様が浮かび上がった。そして、その光は部屋中に広がり、目を開けるのも難しい程の光の量が溢れた。
「これは愛の印?最上級の?」
レオは光輝くその光の中、ありがとう、とラディンディラの声が聞こえた気がした。
「―?ラディンディラ様?」
そうレオが声をかけると、その光は突然消えてしまった。同時に彼女の姿は跡形も無かった。
「―ラディンディラ様?」
レオは彼女の姿を探す為、部屋を一巡した。しかし、彼女の痕跡は広い部屋の隅のベッドと赤い布のみ、レオはレッシーに問いかけるような目で彼女を見た。
「どこに行かれたのだ?ラディンディラ様は」
「天に召されました」
とレッシーは一言でそう答えた。そんな、とレオは突然の物事に頭が付いて行かないようだ。レオにとって身近な死を目の前にすることが無く、初めて彼女は死の時を知ったのだ。
「天に召されると姿が無くなるのか?」
「そうです、身体ごと消えます。常世の国に旅立たれたのです。ここウェンデルでは、それが当たり前の事です」
「そうなのか・・・・・・ラディンディラ様は常世の国という所に行かれたのか。どのような所だ?」
「死者が過ごす幸せの国とも言われる、素晴らしいところとか。そのようにウェンデルでは信じられております」
「そうか・・・・・・もうラディンディラ様はそこに行かれたのだな。それにしても、この前まではお元気だったじゃないか。私のお芝居も楽しみにしていらした。まだ全然できてないのに・・・・・・」
「もう、ラディンディラ様の病状は限界だったのです。最期に旦那様によく似たレオーナ様がいらして幸せだったのではないでしょうか?」
そう話すレッシーにレオは、まだ心が伴わない。
「これから色んな事を教わりたかった。もっとセオドアの話もしたかった。そんなにも早く私の元からお亡くなりになるなんて・・・・・・」
「レオーナ様、これが王家に嫁いだ方の定めにございます」
「―そうか・・・・・・私もあのようにして亡くなるのだな?レッシー」
「はい・・・・・・無情ではありますが」
レッシーは目を閉じてそう答えた。彼女の表情は読めない。
「ラディンディラ様は幸せだったのだろうか?」
「はい、そのように思います」
「そう、ならいい」
レオはそう言うとラディンディラが居た空間に、彼女の姿を思い浮かべた。
ティーチェの花が見てみたい・・・・・・そう言ったラディンディラは幸せだったのだろうか?レオは判然としないままその場に立ちつくした。




