第三十話
完結しました。第八十九話までの物語です。主人公レオーナの物語をお楽しみください。
「それでは、ウェンデルの今年の詩が決まる歌会に行きましょう!」
エーメが朝から張り切ってレオを起こす。
「ああ、今日か歌会の日は」
レオは憂鬱そうに起き上がった。イノスとはあれから随分と経つが会っていない。どういう風に振舞えばいいのだろう。気が重い。
「早く朝食をとって下さいまし。身支度の時間もあるのですから早く!」
いつもよりノロノロ動くレオに、レッシーが背中を押して急いた。
「これは?」
食事を終えたレオの部屋には、今日着る予定の服が広がっている。主に青の色が印象的だ。
「旦那様の見立てですよ。レオーナ様の印象はやはり青なのですね」
とエーメは嬉しそうに、一つ一つを丁寧に手に取って見せた。
襟に青の花の刺繍が入った下衣に、薄い水色の衣に銀糸を散りばめた表着を羽織る。
「これだけ?薄くないか?ほとんど下着と変わらない気がするが」
「暑いですからこれくらいがちょうど良いのです。これからが大変なのですよ、レオーナ様」
レッシーはキッとエーメと共に気合を入れた。
「何?なんか悪い予感が」
レオは二人の様子に、ただならぬ危険を感じたが、その時にはすでに遅し、彼女達にがっちりと体を押さえられた。
「はぁ、いつも以上に重い」
レオの髪はエーメとレッシー二人がかりで、あれこれと髪飾りなどで飾られ、重さが肩にかかって、彼女は既に疲れていた。それに、顔には仮面が着けられ視界が狭い。仮面は他の男性に顔を見られなくするためらしい。
「男の方に見られないように、仮面を着けるのだよね?だったら、知識の塔に行くまでにソード様に出会ったけど、あれは別にいいのか?他の姫もお忍びで、あの場所に来てないのか?」
レオはふと疑問に思った事を彼女達に訊ねた。
「基本的には、御法度ですが、暗黙の了解といいましょうか、あの場所はそういう事が許されております。中には旦那様に隠れて他の男性に会ったりしている方もいらっしゃいますね」
「不義密通とか?」
「古い言葉をよく知っていらっしゃいますね。まあ、平たく言えばそうですね」
レッシーは眼鏡を外し、ハンカチで軽く拭きだした。
「本当は姫君がこのような場所に出かけるのも、珍しいものです。本来部屋から一歩も出ず、が基本ですからね。昔は旦那様達だけが参加されておりました。奥方は一行詩を夫に託し、部屋で待っていたものです。姫君も参加され始めたのはここ数年前からです。最近は姫君の服装をいかに美しく見せるかを競い合い、躍起になっている傾向にございます」
本当に困った慣習となりましたよとレッシーは零した。
「飾りが凄いことになっているな」
急に後ろから声が掛かった。
「?」
レオが振り向くとイノスが、こちらに近づいてきた。彼も仮面を着けている。仮面から覗く口元は口角が上がっていた。笑っているようだ。
「あぁ、旦那様」
イノスの姿はソードが普段着として着ている、いわゆる正装をしているが、肩から膝までの長い絹の衣を掛けているので、裸姿がほとんど気にならない様に着用されていた。
「正装は腰巻だけの姿なのでは?」
「これが本当の正装だ。いつものソードが着ているのは簡略化している。あれはただの露出狂だ」
とはいえ、彼の鍛えられた腕とかお腹とかが、衣からは隠れず、レオの目は定まらない。
「こうしたらいい」
とイノスは急にレオの髪飾りを何本か抜いていく。
「よし、これでいい」
イノスはそう言うと満足そうにレオの姿を見た。
「エーメ、鏡を彼女に渡してくれ。じゃ、後で又会おう」
手を上げ何事も無かったように、イノスは去って行った。
「やはり、趣味がよろしいようで」
悔しそうにレッシーとエーメが、レオの髪型を見て、落ち込みながらレオに鏡を渡す。
「――!」
レオは鏡に映った自分の姿に驚いた。先ほどあんなに様々と盛ってあった髪飾りは真ん中より右側に、見事なバランスで纏められていた。それに頭がかなり軽い。
「軽くなった!やった!」と喜ぶレオに「喜ぶのはそっちですか?」とレッシーが突っ込んだ。




