第二十八話
完結しました。第八十九話までの物語です。主人公レオーナの物語をお楽しみください。
朝食を食べ終わると、レオは早速塔へと向かった。しかし、イノスが居ると思われる場所に彼はいなかった。
「―自分の部屋にでも寝てるのかな・・・・・・」
レオは少しホッとしたような、寂しいような複雑な気持ちで、辺りを見渡した。
「―・・・・・・」
今日は私に会いたくないのかも知れない・・・・・・。彼女はそうイノスの行動を読み取った。
「じゃ、調べ物でもしようかな・・・・・・」
レオはそう独り言を言うと塔の中を何かないかとウロウロ探し始めた。
「そうだ、ウェンデル古文書は?」
レオは歴史書のある区域をしらみつぶしに本を漁った。すると、とある本に目が留まった。
「―何だ?この馬鹿でかい本は」
彼女は自分の上半身位ある本を、本棚から必死になりながら、やっとの思いで取り出した。
「よいしょ」
レオはその本を肩に担ぐと机の上に降ろした。
「ウェ・・・・・・コブ・・・・・・ショ?」
彼女は声を出して読めるところを、声に出して読んでみたが、難し過ぎて歯が立たない。
―これがもしかして・・・・・・ウェンデル古文書?レオは唾を飲み込むと表紙をめくった。
「えっ?!」
表紙を開いた瞬間、レオは眩い光に包まれた。
「―!」
レオはその光から逃げるように、目を瞑ると光が消え、代わりにドクン、ドクンと心臓の音のような響きが聞こえてきた。それは次第に大きくなってゆくようだ。
「・・・・・・」
レオは恐る恐る目を開けた。
「――」
真っ暗だ。ここ塔の中じゃないな・・・・・・。何か異次元の空間にいる様だ。
暗闇のなかに青く光る物が宙に浮いている。それは剣のようだとレオは思った。彼女はそっと光に近づいた。
「青い剣・・・・・・?!」
レオは目の前の物が、シェルシード、青の剣だとなぜかそう思った。
―おのれこのような所に。レオの心の奥からジ・タ・ハークの声がする。その声と共にレオの手が青の剣に伸びて行く。あれが欲しい・・・・・・何としても我が手に。レオはその衝動を止めた。駄目だ、あれに手を伸ばしては駄目だ。何故かその危険性を感じて、レオは必死で自分の手を胸元にギュッと抱き寄せ、身体をくの字にして抑えた。
「――!」
次の瞬間、レオの脳裏に様々な映像が流れてくる。大勢の人々が何かを崇めている。
――光を、光を第二の太陽よ、再び。人々が祈る。光が生まれ全てを消し去る。その光は焼けるように熱い。光に巻き込まれる―。
「――!」
レオはその禍々しい眩しさから目を閉じた、その瞬間世界が変わった。
「ここは?」
暗闇だ。再び目を開けたレオの目に、飛び込んだのは微かな光。
「・・・・・・あの扉?」
光をよく見ると扉だ。レオが前にたどり着いた、青の剣があるかも知れないと思った扉だ。前は何も無いただの扉だったが、今は扉の上の方で青い文字が浮かんでいる。
「・・・・・・」
古代文字の様だ。レオはその青い文字を読むことが出来ない。今ならこの中に入れるのだろうか・・・・・・。扉に手を伸ばす。その先の風景を知りたい―。
「レオーナ・ランド・イシリス!」
その時その声は響いた。
「えっ?」
レオが気付くと隣にはファルンカがいる。
「―ここは?塔の中?」
レオは今の状況を確かめた。普通に古文書を開いて座っている、塔の中にいる。隣にはファルンカがニヤニヤと彼女を見つめていた。
「古文書の上に覆いかぶさって寝ていたけど、どうしたのかな?」
ファルンカが尋ねて来る。
「――私は、光に・・・・・・」
どうなっているのだ?あの光と青の剣は?夢なのか?
「光?うん、これから昼になるから、塔の中は明るくなるねぇ」
と、のん気にファルンカが答えた。
「シェルシード・・・・・・」
「え?何?」
レオは顔を覗き込むファルンカから顔を背けた。
「んー?」
ファルンカがさらに顔を近づけてきた。
「何ですか?だいたい何故あなたがここに?近づかないで下さい!」
キスを迫るように近づいて来るファルンカに、レオは心底嫌がってみせた。
「んふふ。やだよ~♪」
尚も近づくファルンカに「この手の甲の紋様見えてないんですか!?近づけないはずです」レオは手の甲を見せてつけた。
「その程度だと効かないんだよね~」
とファルンカはその手首を持って彼女ににじり寄った。
「そんな!放して下さい!放せ!」
レオは掴まれたその手を振りほどこうとする。
「ん、今日はそんな気分でもないから襲わない。安心して」
ファルンカはレオの手を放し、にこりと笑って見せた。
「安心って、安心できるわけないじゃないですか!早くどこかへ行って下さい!私は調べ物をしているんです。出て行って下さい!」
あっちへ行ってとレオはファルンカにシッシッと手で追いやった。
「調べ物?何を調べているの?教えてあげようか?」
「え?」
先程とは打って変わった態度のファルンカに、レオは拍子抜けした。
「―古文書だよね、これ。読めるの?何が書いてあるか教えてあげようか?」
「は?いりません、早くどこかへ行って下さい!」
「コオルフル書体だけど、これは君には、ほとんど読むことが出来ない。これは『ウェンデル古文書―はじまりの書』と書かれている」
「へ?」
「わかるよ、僕天才だもん」
ふふんと鼻を鳴らしてファルンカは自慢げだ。
「本当に?」
「うん、教えてあげるよ。いい?幾つか抜粋して読むよ」
ファルンカの言葉にレオは頷いてみせた。
「―この地は平たき台地だった。第二の太陽が出現しその形を崩した。その光は全てを失くし深き穴だけが残り、我らの時代は終わりを迎えた。光を知りこの地を訪れた者あり、偉大なるリィンドゥン。この国を作った最初の王。深き穴にウェンデルを建国し人々を救いたもうた、っていう内容が書かれているのさ」
「第二の太陽って何ですか?」
「―さあ?禍々しい光だとも、言われたりもするね。我らを救う光として信仰している人もいるし」
「じゃあ、・・・・・・シェルシード青の剣の事は?」
レオはこの言葉を聞くことに少し抵抗があったが、好奇心の方が勝ち彼女は、恐る恐る訊ねた。ディ・フォンに知られなければいいのだけど・・・・・・。彼女はドキドキと鼓動が早くなるのを感じた。
「聖なる剣、この国に危機が訪れた時、あらゆる物から守る剣とも言われている。ウェンデルが滅ぶ時、出現するのが青の剣。災いの剣とも呼ばれているよ」
「災いの剣・・・・・・」
レオは怖くなって少し青ざめた。
「でも、青の剣シェルシードって人の名ですよね?どうしてシェルシードっていう人がいるのです?」
「それはね・・・・・・」
ファルンカがずいっと顔を寄せてきた。
「何?」
とレオも顔を近づけて行こうとしたその時。「何をしている?」突然声が背後からかけられた。
「え?」
驚いて振り向くとイノスが立っている。
「離れろ」
イノスはファルンカの肩を押し睨んだ。
「あはは!見つかっちゃった!んじゃ、僕はこれで」
とファルンカが足早に塔の外へと駆けてゆく。
「何を考えている?あれの子でも欲しいのか?」
「ちょ・・違います!」
昨日の今日でレオは、まだ少しイノスを直視出来ないまま答えた。
「いつも、私をジ・タ・ハークから守ってくださってありがとうございます。旦那様の事知らな過ぎて情けないです」
レオは顔が赤くなるのを感じながら感謝の言葉を伝えた。
「いや、あれは義務だからな、気にするな」
義務・・・・・・そうなのか、あれは義務なんだ。レオは少し落ち込む自分を意識した。どうしてこんな感情になるのだろう?彼女は自分の心が分からなくなった。
「そういえば・・・・・・ちょっと手を見せてみろ」
と言うとイノスはレオの手首を握った。紋様は薄っすらとしており、以前キスをされてから色がかなり劣化していた。
「・・・・・・これか原因は。ああ・・・・・・いちいち面倒くさいな」
とイノスはそう言うとレオの唇を一気に奪った。
「ん!んー!」
レオは反発したが受け入れてくれない。この前より激しくすごく濃厚だ。
「――!」
バシッ!レオはイノスの頬を、はたいてキスから逃れた。
「・・・・・・な?」
驚くイノスにレオは涙目だ。
「こんなの、こんなのイヤだ!」
レオはそうイノスに言い放つと、塔の外へと駆け出した。
好きなのだ、好きなのだ。レオは顔を真っ赤にして走った。
あの蕩けるキスをされてレオの心の中で何かが動いた。火がついたように駆け巡る感情。この感情をどう説明すればいい?これこそ人を好きになる感情なのか?イノスの顔が頭から離れない。ああ、エーメ、君が言ったように私は旦那様の事を好きなのだ。私はいつから好きになったのだろう?きっと、きっと・・・・・・初めてキスを奪われた時かも知れない。それとも、あの青の瞳を見た時からだろうか。夜に見守ってくれていた事を知った時だろうか。
レオの足が止まる。息も絶え絶えでその場にへたり込んでしまった。
―これが恋というものか・・・・・・ここまで心揺さぶられる事は無い。ズキンと痛む胸を押さえ、レオはその苦しさに打ち震えた。




