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銀の針姫と青の剣  作者: 瑞木晶
第二章 青の都ウェンデル
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第二十七話

完結しました。第八十九話までの物語です。主人公レオーナの物語をお楽しみください。

「はー」

レオは部屋に帰るとぐったりと横たえた。

「お疲れ様です、レオーナ様。よく頑張りましたね」

エーメが駆け寄り背中を、ポンと優しく一つ叩いた。

「疲れた。明日もするのか?こんなの・・・・・・」

「そうですね。大変ですけど、早く上達することです。早く終わって塔に行きたいのでしょう?」

「うん、今すぐ行きたい・・・・・・」

ああ、あの塔にある本達が私を待っている。早く行きたいものだ。本を読んでいた日々が遠い昔の様だ。

「だったら、頑張らないと!」

エーメは両手を握りしめてレオに見せた。

「―うむ、そうだな」

レオはそのエーメの熱意とは裏腹に、げんなりと首を垂れた。

「今日はセオドア料理ですよ。レッシー様にお願いして作ってもらいました!」

エーメは嬉しそうにレオに声を掛けた。

「あっそう・・・・・・・」

レオの反応は素っ気ない。

「レオーナ様どうかされましたか?」

エーメが心配そうに覗き込む。

「―疲れただけだ、食事も少しでいい。もう寝たい・・・・・・」

「大丈夫ですか?」

「うむ、なんとか・・・・・・」

レオはヘロヘロになりながら答えると、その場で倒れて寝てしまった。

「レオーナ様?!」

エーメの声がするが、レオは意識が朦朧として返事が出来ない。

「――」

レオは完全に意識を失った。




『―お前がどこに行こうとも、お前は私のものだ』

「―っ!」

ジ・タ・ハークの声が暗闇の向こうから聞こえてくる。ジ・タ・ハークの姿が現れ始めた。

「去れ!ここはお前の来るところではない!」

―どうしてこんな所まで?レオは暗闇に浮かぶジ・タ・ハークを睨んだ。気を緩めたらおしまいだ。どうすれば?

―ああ、あの時に父王に教わればよかった。あのジ・タ・ハークを抑える声を修得しておけば・・・・・・。まさかウェンデルまで現れるとは。

「――」

ジ・タ・ハークは静かにこちらを見ている。

『もうここには、そなたを守る父王は居ない。さあ、我がものに、マスターとなるものよ』

じわりとジ・タ・ハークが近づいてくる。

「――」

レオはその恐怖に負けて、目を固く(つむ)り顔を()らした。

「去れ、お前の来る所ではない!エミルション・ファレイ・イーサ!」と誰かが叫んだ。その声と同時に光が溢れ、レオはその光に触れようと手を伸ばした。

「大丈夫か?」

その手に誰かの手が重なり、握りしめられる。その力は温かく優しい。

誰か・・・・・・どこかで聞いたような声だ。

「これは夢だ!悪夢だ、早く目を覚ませ!」

誰かが叫んでいる。

「―え?」レオは驚いて起き上がった。「大丈夫か?」再び尋ねるその声の主は、自分の夫イノスだった。

「―えええ?!」

そう叫ぶレオにイノスが心配そうに覗き込む。

気が付けばレオは、自分の部屋に寝かされ、右手をイノスに握ってもらい、顔を覗き込まれている。

「うおー!」

驚いたレオは思いっ切り、イノスの頬に拳骨を食らわせた。

「レオーナ様!」

エーメは慌ててレオの肩に、手を掛け落ち着かせた。イノスはよほど痛いのか、しばらくうずくまったままだ。

「――何を考えている!拳で殴るやつがあるか!」

イノスは左頬を押さえながらようやく起き上がった。

「レオーナ様、落ち着いて下さい。イノス様は毎晩ジ・タ・ハークから、レオーナ様をお守りしていらしたのですよ」

とエーメがレオの背中をさすりながら説明した。

「へっ?毎晩?」

とレオは訊ねた。

「そうですよ、レオーナ様は眠っていらしたから、ご存じないだけです」

「毎晩この部屋にいたのか?」

レオは想像しただけで、顔から火が出る思いだった。

「寝顔をずっと見られてたのか?」

「―当たり前だ」

怒っているのかイノスの態度が、いつもより更に冷たい。

「――人に寝顔見るなとか、おっしゃっていませんでしたか?」

「あのな」

イノスは呆れた顔をしてレオを見た。

「寝顔は見ないで欲しかった」

とレオは、ああと顔を覆った。

「もしかして、これがよく聞く夜這いというものですか?」

とレオが指の間から目を覗かせ聞いてきた。

「涎を垂らして寝ている奴に、そんな気も起こらん!付き合いきれん」

イノスはつまらなそうに、そう言うと立ち上がった。そして部屋から出ようと歩き始めた。

「イノス様?!どちらへ?レオーナ様はどうなさるのです?」

エーメが慌ててイノスに声を掛けた。

「―あの様子だと大丈夫だ。何せ人を殴るぐらい元気だ。変化があればすぐに呼べ」

そう吐き捨てると、怒ったように部屋を出て行った。

残されたレオは手を顔に当て、首をふりふりと動かし続けた。

「あー、エーメ本当に?本当に毎晩この部屋に旦那様はいらしたのか?」

そう言うと顔を覆いながらエーメに訊ねた。

「本当です。毎晩心配そうでした」

「―そう・・・・・・」

せっかく守ってくれていたのに酷い態度だったな・・・・・・とレオは深く反省した。でも、びっくりしたぞ・・・・・・。それに何で黙っているのだ?一言くらい断りを入れてもおかしくないのに。

「―だから・・・・・・だ」

レオは思い出したように顔を上げた。

彼はいつも昼間に塔で寝ていたんだ。一晩中起きて私をジ・タ・ハークから守るために・・・・・・。レオは彼が優しいのか冷たいのか分からなくなった。

「毎晩ってことは、今日も、明日も?」

「ええ、おそらくはレオーナ様が眠られてから、いらっしゃるかと」

「―そう・・・・・・」

謝らなきゃ・・・・・・あんな失礼な事をしたんだ。そしてお礼も言おう。

「明日、塔に行ってもいいか?」

「え?でもカレエ様の特訓がありますが・・・・・・」

「悪いけど明日、彼・・・・・・旦那様に話がしたいのだよ。塔に居ると思うから」

「レオーナ様・・・・・・」

「ちゃんと守っていてくれた事にお礼言わなきゃ」

「そうですわね。けれど夜にはいらっしゃいますのに」

「うん、でも私が寝てから旦那様はいらっしゃるのだろう?それではお礼が言えない」

「それもそうですね。カレエ様には明日の稽古お断りしておきます。では明日、朝食をとられてから直ぐに塔に行かれては?」

「ありがとうエーメ」

レオはエーメの手を取ってお礼を言った。

「とんでも無い事でございます」

「―・・・・・・エーメ、イノス様ってどんな方だ?」

「―そうですわね。一見冷たそうに見えますが、夜眠っておられるレオーナ様を見つめる瞳はとても優しく思えましたが。・・・・・・きっとレオーナ様の事大事に思って下さっていると思いますよ」

「エーメ!そ、そう言う事を聞いているんじゃなくて!」

レオは顔が火照るのを感じながら、エーメの服の袖を引っ張った。

「あら?本当にそう思いますよ。私は二人の夫婦愛が深まっているのだなぁ・・・・・・。愛されているのだなぁと思っておりましたが」

「エーメ!」

レオは顔を真っ赤にして叫んだ。

「イノス様は、ほぼ毎日いらしておりましたので、レオーナ様は幸せ者だなぁと嬉しく思ってましたが、この事はレオーナ様には言わない様に、釘を刺されておりましたから、エーメは残念でなりませんでした」

「残念?」

「こんなに愛されているのに、レオーナ様は知らないなんて・・・・・・。毎日申し上げたくて、うずうずしてたまりませんでしたよ、エーメは」

エーメは悔しそうに拳をガッと握りしめレオを見た。

「けど、こうして夫婦愛が深まって下されば、エーメは何も言う事はありません」

「え?あの・・・・・・そんなに深まってないと思うが」

レオはエーメの言葉を否定した。

「エーメは大変嬉しゅうございます」

エーメはレオを無視して一人の世界に浸っていた。

「―夫婦愛が深まるかどうかはわからないぞ?」

レオはしどろもどろに返事した。

「そんな事ありません。イノス様にお礼を言う、そういう事から愛が深まるのです」

「―そういうものなの?」

「そういうものですよ、案外」

「結婚生活を知っているかのように言うな。エーメもしかして・・・・・・けっ・・・・・・」

「・・・・・・こんはしておりませんが、婚約はしております。来年結婚する予定です」

「へえ、そうなのか?おめでとう!相手は?どんな方?」

意外な展開だな。エーメは婚約者がいるのか。レオはエーメが男装の麗人好きだから、男の人は苦手なのかと勝手に思っていた。

「私が女官であるように、男性の塔で男官として殿方のお世話をしております。結婚すれば共に街に出て暮らします」

「え?女官やめるのか?」

レオはエーメがいなくなるのかと不安に駆られた。

「いえ、街から通います。この城は使用人の為の場所が狭いから、家族で住むには場所が無いのです」

「そうなのか、大変だな」

「でも、幸せです。彼と共に暮らせるなら」

エーメは幸せそうに目を閉じた。

「幸せそうだな、エーメは」

「レオーナ様も幸せですよ。二人は愛し合っていると思います」

「そんな事・・・・・・」

ないよと言おうとしたレオに対し、エーメは被せるように「あります!レオーナ様が一押しすれば山は動きます!」と力強く叫んだ。

「―いやいや!そんな事ないぞ!第一旦那様はソード様の事が好きかもしれないのだぞ」

「そんな事あります!ソード様の事は単なる噂にしかすぎません。レオーナ様こそイノス様の本命です」

「そうなのか?・・・・・・本当に、旦那様の片恋ではないのか?私の方がよいのか?」

レオは自分の好きな本の世界が崩される事と何故だか分からない喜びとがない交ぜになり、自分の心の変化についていけなくなってきた。

「レオーナ様は自分の心に気づいていらっしゃらないようですね。・・・・・・困った事」

「どういう事だ?」

「レオーナ様はイノス様の事がお好きだという事ですよ」

「そ、そんな事ないぞ!」

「男女の恋愛より、あの小説の世界観の方がよろしいのですか?せっかくお互い思いあっているというのに、自ら手放してしまうのですか?」

「私はあの小説のように二人がうまくいけばいい。それだけで十分だ」

「まだ、本当の恋を自覚してらっしゃらないのですね。レオーナ様は」

「本当の恋とはどういった事だ?エーメ?」

「相手の事を想うだけで胸のあたりが燃え上がるようになります。その人の事から頭が離れなくなりますよ」

「それなら、小説の主人公達の事を思うだけで胸いっぱいだぞ」

「それとは違う感情です。レオーナ様は自分自身の恋には関心が無いのですね」

どうしたものかとエーメは顎に手を置き考えた。

「そうですねぇ・・・・・・夫婦生活はまだ半年も経っておりません。これから少しずつお互いを知ってゆくのもいいかも知れませんね」

「―普段から会えないのに?」

「そうです。でも、会えない時に旦那様を想うのも愛が深まりますよ。私も彼に会えない時は、彼を想う事で幸せになります。これからですよ、レオーナ様、イノス様と過ごす日々はうんとあるのですから」

「そういうものなのか?」

「そうですとも」

そう言うエーメの表情は幸せそうだった。

「エーメは幸せなのだな」

「ええ、彼に出会えて本当によかったと思います」

「そうか、今度彼に会わせてくれるか。どんな人なのか興味が湧いてきた」

「残念ですが、男の塔に勤めている者は、女の塔の姫には会えないのが原則です。間男になるのを防ぐ必要がある為です。あのファルンカは例外ですが、基本的に姫の部屋には夫以外の者が入ることは禁じられています。せっかくのお心遣いですが、お応えできず申し訳ございません」

エーメはすまなさそうに頭を下げた。

「いや、私の方こそすまなかった、無理を言って」

レオも彼女に頭を下げた。

「とんでもないことでございます」

とエーメは頭を振りながら、レオの下げた頭を起こした。

「レオーナ様は頭を下げ過ぎです。下々の者にそのような事する必要はありません。もっと堂々としていらして下さいませ」

「んじゃ、堂々と聞こう。エーメ彼はどんな人なのだ?美しい者が好みと見たが、どうなのだ?」

「まあ、レオーナ様ったら」

エーメの顔が赤い。

「どうなのだ?」

レオがさらに迫る。

「・・・・・・見た目は平凡な人です。けれども心の温かい人です。幸せになる笑顔の素敵な・・・・・・それでいて、困っている人を助けたり、勉学にも熱心に取り込む、矜持の高い尊敬できる人です」

エーメは目を閉じて彼の人なりを語った。その後我に返ったのか「レ、レオーナ様!何を言わせるのです!」と恥ずかしくなったのか、レオの肩をバシバシと叩いた。

「おう、痛いぞエーメ」

レオはその強い力に思わず呻いた。

「あ!申し訳ありません!レオーナ様!」

何処か痛めておりませんでしょうかとエーメは心配そうにレオの肩を撫でた

レオは大丈夫、大丈夫だからと眉が八の字になったエーメを落ち着かせるようにそう繰り返した。

「本当に申し訳ございません」

エーメはしゅんとして、レオに深々と頭を下げた。

「いや、それだけエーメは婚約者の事が好きなのだとわかってよかった」

レオはそう笑うと、もう気にするなと、そう付け加えた。

「じゃ、エーメも休んで寝ないと疲れるだろう、休みなさい」

とレオはまだ、謝り足りない様子のエーメを見て、彼女の気持ちを切り替えるように言った。

「は、はい、かしこまりました。ありがとうございます」

エーメはそう言うと部屋から下がって行った。


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