第二十四話
完結しました。第八十九話までの物語です。主人公レオーナの物語をお楽しみください。
―ギャラリーが増えている・・・・・・。一体何人いるんだ?五、六人いる。いや、もっといる。十人くらいかな。レオの知らない人が幾つか見える。
あ、カレエ様がいる――。・・・・・・レオが見つめるとカレエは手を振って微笑んでいる。何でいるのだ?この人?それとマドリー様の部屋ってこんなに広かったか?
「エーメ、これはどういうこと?」
レオは少し憤慨してエーメに詰め寄った。
「皆さまエオリー様のファンです!皆さまレオーナ様の姿、エオリー様みたいですよね?」
とエーメが声を上げると「ええ!本当に」「素敵ですわー!」と姫君達は皆、口々にレオの姿を褒めたたえる。
「エーメ!二人だけじゃなかったのか?この方々は?」
「右からエルミーナ様、ヘドム様、シャイロン様、カレエ様ですわ。それから、後ろの列はファラネ様、ギータ様、パシオン様・・・・・・」
「紹介はいい。こんなに、この塔に姫君がいたの?十人くらいいないか?」
「女の塔は何層にもなっているので、姫君だけで大きな声では言えませんが、塔の中の姫は全体で三十人くらいはいらっしゃるかと」
「それに部屋が広くないか?こんなに広かった?」
「それは、両隣の部屋と頑丈な板で繋げておりますから」
「へ?隣と繋げられるの?」
「はい!大きな催し等はこういった形で部屋を自由に変えられます。」
「へーそうなのか・・・・・・じゃない!聞いてないぞ、こんなに人の多い所で稽古なんて」
レオは即抗議した。人前で台詞を吐く事自体嫌いなのに、逃げ出したくなりそうだ。
「私達の事はお気になさらずに・・・・・・レオーナ様、男装が良くお似合いです事。いっそ男になって、私の事を旦那から奪って下さらない?」
カレエがクスクス笑いながら声を掛けてきた。
「カレエ様!あなたマリアロッテファンじゃないでしょう?嫌がらせですか?」
レオがじつと睨むと、「いいえ、マリアロッテは私の愛読書の一つなの」とカレエはマリアロッテの本を抱きしめて見せた。
―本当か?嫌がらせにしか見えない。レオがカレエに不審な目を向けると「どんなエオリー様かしら、楽しみね」と彼女は口の端を上げて見せた。
「嫌がらせだ、絶対」
レオはそう確信した。
「いいえ、カレエ様は本当にエオリー様が好きですよ」
エーメがカレエを庇った。
「・・・・・・なぜこんな事態に?」
「私がエーメに話して、こちらのジオドーラ様に伝わって」とマドリーは少し明るい茶色の髪の女性を紹介すると、「ジオドーラ様から私、マノンと申します」ぺこんと灰色の髪が印象的な、背の小さな女性がレオに礼をした。「そして私はラディンディラ様に伝えました」とマノンはラディンディラ様らしき人を指した。ラディンディラ様は、ほっそりとした黒髪の美女だ。
「私はラディンディラ・ランド・カーフ、名の通りセオドアから嫁いできたものよ」
とレオに微笑みかけた。
「セオドアの姫君でいらっしゃいましたか」
ウェンデルで故郷の姫に会うのは初めてだ、レオは嬉しそうに彼女を見た。
「ええ、あなたの父王の妹。あなたの叔母に当たるわね」
「全然知りません、父王様は一言も叔母様の事を話してくれませんでした」
「そうなのね、私が嫁いだのはあなたが生まれる四年くらい前、私が十七の時ですもの」
それにしてはお若い、とラディンディラの黒々した艶のある髪や、目元には皺ひとつ無い若々しさや、肌白い華奢な指など、レオは心から褒めて見せた。
「お世辞がお上手」
ふふ・・・・・・嬉しい事とラディンディラは笑った。
「私は最上階に居るわ、いつでも遊びにいらして」
「はい、是非」
とレオは喜んで答えた。
「まあ、嬉しいわ。ありがとう。滅多に私は部屋の外に出ないものだから、又会えるのを楽しみにしているわ。男装姿を見に来られたのも、このカレエ姫のおかげ。私がカレエ姫に伝えたの」
とラディンディラが隣にいるカレエの肩にそっと触れた。
「私はテスラに教えたのよ」
とカレエは髪の毛が栗色の侍女を指した。
「私がエルミーナ様達、他の皆様にお伝えいたしましたところ、六名程の姫様達が参加したいと申し出がありまして、このような事態になりました」
「これで十三名ですね。私達の理想像を作りましょうね。エオリー様像を崩さない様に!」
とマドリーが胸の上で、ぐっと両手を握りしめ気合を入れた。
「そうですわね」
姫君達は嬉しそうにお互いを見つめ、そしてレオに視線を向ける。
「こんなに多いなんて聞いてませんよ!マドリー様!話が違います!」
大勢の視線にレオは心底焦った。
「私には演技力なんてないですし、皆さんをがっかりさせます。期待外れにならない為にも、今のうちに止めませんか?」
「大丈夫!あなたの姿、声はエオリー様そのもの!演技力は身に付くものです。お願いします。私達の願いを聞いてください」
マドリー達は一斉に頭を下げた。
「ああもう、頭を下げるのをやめてください!こんな人の多い所で練習するなんて出来ませんね!無理です!」
「―じゃ、この中で一番指導力のあるカレエ様に演技指導していただいて、レオーナ様の芝居が仕上がったら、皆の前で発表というのはどうかしら?」
マドリーが、ここでいきなり提案してきた。
「まあ!それは素晴らしい案ですわ!カレエ様にお願いたしましょう!」
とジオドーラが叫ぶと「そうね」「いいわね」と皆、口をそろえてきた。
「―カレエ様?」
レオは嫌そうにその名前を言った。
「そうカレエ姫は芝居事など様々な芸能に通ずる方。レオーナ様の指導役にうってつけですわよ」
と畳みかけるようにラディンディラ様がにっこりと微笑む。
「―ああ、ええと・・・・・・」
カレエに演技指導?彼女にいじめられそうだ。レオは絶対に嫌だと断る言葉を探していると、「私ではお嫌?」とカレエが声を掛けてきた。
「え?ああ、あの・・・・・・」
レオは戸惑いながらカレエを見た。カレエの口角が上がる。
「それでしたら、皆様で演技指導していただいたら、それでよろしくてよ。それはもう手取り足取り教えて下さるわよ。それがお嫌じゃなかったかしら?」
「ぐっ」
レオは痛い所を突かれた
「レオーナ様、カレエ様は芸事に長けた方です。必ず上達しますわ!カレエ様一人相手なら恥ずかしくないでしょう?」
エーメが助け舟を出したつもりで、レオを説得し始めた。―そのカレエ様が嫌なのだけどな・・・・・・レオは秘かに思った。
けれど、皆の前よりましか・・・・・・とレオはこの面々を眺め決意した。
「―わかりました。カレエ様に教わります。演技が出来るまで一切他の方は来ないで下さいね」
そうレオが言うと、ワッと皆の嬉しそうな歓声が上がった。
レオはその中でニコニコと微笑むカレエを見て・・・・・・しまった、この決断は早まったかと後悔した。が、時すでに遅し、もう後戻りできない状況に、彼女は一人、がくりと肩を落とした。




