第二十一話
完結しました。第八十九話までの物語です。主人公レオーナの物語をお楽しみください。
「それにしても、レオーナ様が、こんなにも男色に興味があるとは思いませんでした」
マドリーは彼女お抱えの女性の騎士に、抱えられながらレオに笑いかけた。レオもお付きの騎士に手を取られながら進んで行く。彼女は約束通りレオがエオリーを演じる代わりに案内してほしい場所へと向かっている。その場所では彼女達は口元が見える仮面を被る事が命じられていた。仮面の者は姫でもなく、人としてあらず、その者は石だという扱いとなっているらしい。行く場所は姫でも重要秘密となっていて、幾つかの制限がされているようだ。そういう理由で、レオ達はあるところを除いて目隠しをされながら、それぞれのお付きの騎士に導かれ、とある回廊に辿り着いた。天井の無い、空が露になった筒状の建物の長い回廊にはバルコニーが重ならないように、せり出し、それぞれのバルコニーに、男性たちが二人ずつ並んで語り合っているようだった。この場所は語らいの間と呼ばれている事をマドリーに教えてもらった。各々のバルコニーからは幾つもの水が、音を立てて垂れ流れており、虹が見える。
「綺麗な場所だ」
「別名水の回廊と言うのですよ、美しいですよね。水の城と言われるだけはありますね」
いつ来ても癒されますとマドリーは嬉しそうだ。
「この場所はウェンデルの男性のみに交わされる義兄弟の契りという習わしがございまして、その契りのある同士が語らい合うのです」
「義兄弟の契りとはどういう事をするのです?」
「昔は肉体関係を持つ事でしたが、今ではキスを交わすくらいのようです」
「何て興味ある習わしなのだ。ソード様と旦那様は義兄弟の契りを交わしたのですね?」
「ええ、恐らくキスどまりかと思いますが」
「そうですか、でもキスはしたのですね?」
「そうですね」
「レアードの行方そのものだ」
レオは鼻息が荒い。
「どれどれ」
レオはマドリーから双眼鏡を貸してもらい彼らを覗いた。男性は皆、上半身裸で香油を塗って艶めかしい。
「おお、素晴らしい世界」
レオは興奮気味に男たちの様子を見て喜んだ。
「私でなくても、クレア様に頼めば連れてきてもらえたはずですのに」
「クレア様には鼻血が止まらなくなるほどの興奮を与えたくないと断られました」
「そうですの、確かにここは刺激的ですわね」
「鼻血が出るほどとは、どういう事か聞いた時から行きたくて、行きたくて」
まさに耽美の世界、あそこにもここにも素晴らしい光景が、レオは本当に鼻血が出そうになった。
「ここは、殿方が茶や酒を手に語り合う場所でございます。本当は女人禁制ですが、今では、お忍びで姫でも来られる場となりました」
ほう、と答えるレオはマドリーの説明を聞いているのか、いないのか、顔は高揚し幸せそうだ。
「ほら、あそこにいらっしゃるのが異母兄とイノス様ですわ」
「本当だ。二人で何かしていますね」
レオの本来の目的は彼らだ。彼らのいちゃつきを観に行きたかったのだ。ソードは上半身裸だが、イノスは上着を羽織っている。なんだ、裸じゃないのか・・・・・・チッ。レオは悔しんだ。それにしても、彼らの仲はレオの想像より良さそうだ。
「本当にイチャイチャしてますね」
レオは二人で同じ本を見て笑う彼らを見て喜んだ。どちらからというとソードよりイノスの方が話しかけているように見える。
「こんなふうに笑うんだ」
レオはソードに向けるイノスの笑顔に驚いていた。
「―いつもあんな風に笑っていらしてよ」
いつの間にか仮面の者が隣に現れた。
「その声はカレエ様ですね。何処から現れるのです?神出鬼没ですね」
「まあ!言うわね。あなたが気配を察知する能力が無いんじゃないの?私もあなた達と同じ時に、ここに来たのよ」
「ここに何しに来たのです?一体」
レオは木の鞄と紙を持っているカレエに訊ねた。
「イノス様とソード様の絵を描きに来たの。何か文句ある?」
これで良し、とカレエは仮面に双眼鏡を取り付けた。
「もしかしてレアードの行方の絵は、カレエ様が描かれたのですか?」
「そうよ、クレア様に頼まれているの。・・・・・・あなたレアードの行方の読者なの?」
「はい、愛読書です」
そうきっぱり言い切るレオにカレエは、ふーんと目を細めたが、彼女はパッと目をイノスの方へと反らした。
「ちょっとどいて下さる?今一番いいリアクションをしているわ」
そう言うとレオの頭ごとグイとカレエは押しのけた。そして、紙に絵をしたためていく。
「―創作意欲湧く光景ね」
カレエは筆をどんどんと書き進めていく。
「おお、素晴らしい」
レオは絵がカレエによって形づけられていくのを見て感動してしまった。
数分も立たずにその絵は完成を迎えた。その絵はエロティックでもあり優美な芸術作品だった。
「・・・・・・カレエ様は天才ですね」
レオは彼女の画才が秀れていることを絶賛した。
「当たり前でしょ。これくらいの絵はいくらでも描けるわよ」
カレエは当然のように言ってのけた。
「えを・・・・・・」
レオがか細い声を出した。
「え?何ですの?」
カレエが聞き取れないと顔をしかめた。
「絵を一枚下さいませんか?」
レオはやっとの思いで声を絞り出した。興奮して身体が思うようにいかない。
「いくらで買って下さるの?」
「え?」
「ただとは言わせないわよ。クレア様はかなりのお金を出して下さるの、だから絵を描いて差し上げているのよ。あなたはどれくらいの金額を示してくれるの?」
「き、着物一着分でどうでしょう?」
レオの小遣い半分だ。どう出るか彼女はカレエの返事を待った。
「それを月一回十二か月払いで」カレエの申し出にレオはぐうの一言も出なかったが「その代わりに最上級のものを差し上げるわ」との一声にレオは即座にそれでお願いしますと答えた。
「じゃ、交渉成立ね」
一筆書いてとカレエは誓約書を差し出した。レオは誓約書に名前を記入しながら高い買い物だなぁと思ったが、あの作品以上の物が手に入ると思うと心が高揚した。
「それにしても、ソード様達は耽美で素敵です。イチャイチャも見れて最高です。お互いを想い合っているのでしょうか」
レオは彼らを見て嬉し気だ。
「あら、あなた旦那が男色家でもいいの?レアードの行方は彼らがモデルよ」
カレエはまじまじとレオを見た。
「はい、ソード様と添い遂げて欲しいものです」
レオは拳を握って力説した。
「なかなかいい事を言うじゃない」
「カレエ様はあの二人が添い遂げるのをお望みなのですか?」
「私はあの二人の仲を応援しているのよ!」
カレエは興奮して叫ぶ。
「あの二人の仲睦まじさは半端じゃないのよ。イノス様には独身を貫いて欲しかったわ。だから、あなた邪魔なのよ!」
「そうですね、私邪魔ですよね。だから、初めてお会いした時に冷たかったのですね」
「何?わかっているじゃない」
「そうですよ、私が邪魔者なのは確かですから。カレエ様が二人を応援しているだなんて、嬉しいです」
「同志がいたのね。こんな所に」
「共に彼らを応援しましょう!」
「そうね!二人の世界に幸あれ!」
「幸あれ!」
レオとカレエは共に認め笑い合った。
「あの・・・・・・」とマドリーの声がすると、二人で「何?」「何です?」と同時に振り向いた。
「声が大きいです二人とも」
恥ずかしそうにマドリーは彼女達を見た。周りは水の音で、ほぼかき消されていたとはいえ、辺りはレオ達に注目が集まり騒ぎの元となっていた。
「・・・・・・帰りましょうか」
マドリーがそう言うとレオは、はいと顔を赤らめた。




