第二十話
完結しました。第八十九話までの物語です。主人公レオーナの物語をお楽しみください。
「ふう――」
自分の部屋に戻ったレオは深いため息をついた。
「どうなされました?レオーナ様」
とエーメが聞いてきた。
「いや、色々とあってね」
と笑って誤魔化し、一人にしてもらうよう頼んだ。
「では、夕食の用意はどういたしましょう?」
「え?もうそんな時間なのか?」
レオはそんなに長居をしたつもりは無かったが、身重のマドリーは大丈夫だったのだろうか。疲れてなければいいのだが。
「ええ、お食事はもう少し後にいたしますか?」
「いや、別に構わない。今で」
「かしこまりました」
エーメはそう言うと仕度の為、部屋から下がって行った。
「時間が経つのが早すぎるな」
この調子だとマドリーとの練習は、かなり時間を食うという事だな。ま、仕方ない。その代わりに自分の楽しみが増えたというもの。レオはほくそ笑んだ。
「―レッシーはいる?服を着替えさせて」
レオは彼女を呼んだ。
「はい、かしこまりました」
天蓋の外から返事が聞こえてきた。
「お食事です」
とエーメがレオの部屋に入って来た。
「レオーナ様?」
エーメは突っ伏して寝ているレオに呼び掛けた。
「生きているから大丈夫だ。ちょっと疲れた。そっとしておいてくれ・・・・・・」
と答えるレオの鼻に懐かしい香りが届いた。
「―!ティーチェ?!」
レオは素早く顔を上げた。
エーメの方を見ると夕食は鶏肉のティーチェソース煮込みだ。
「ティーチェ!おお!懐かしい!」
レオは心の底から喜んだ。再びこの味にありつけるとはなんたる幸せ。
「故郷の物を食べさせてあげて欲しいと旦那様からのご指示です」
とエーメが愛されていますねと、にこやかに教えてくれた。
「えっ?そうなのか?そうか」
本人は素っ気ないけど意外と気を使ってくれているのか、と少し自分の夫を見直した。
「いただきます!」
レオは赤茶のティーチェソースを前に、思う存分その香りを楽しんだ。
「うーん、最高だな。ティーチェ甘辛くて最高♪」
セオドアの物とほとんど味の差がない。レオはそんなところも大いに喜んだ。
「又食べたい・・・・・・駄目だろうか?」
レオはエーメの顔を窺いながら尋ねた。
「多分大丈夫ですよ。いつでもという訳にはいきませんが、なるべく故郷の料理をお出しするようにいたします」
「本当か?!ありがとう」
レオは万歳して喜んだ。
「本当に故郷の味に飢えていたのだよ。ウェンデルの味付けは薄いからな。・・・・・・物足りなくて。旦那様に感謝♪感謝だ」
レオは口一杯にティーチェソースを頬張り味わった。彼女はティーチェ料理を食べながら、ふと故郷セオドアの事を思った。
―セオドアの人々はどうしているのだろう・・・・・・。父王やジーン姉さま達はどうしているだろう?彼女達の恨み節が聞こえてくるようだ。センドリーやケンフォレン、マーモット元気でいるかな。クインシーの料理食べたいな。故郷にいる様々な人や風景を思い出して、レオは少しセオドアに帰りたくなった。姉達が居なければレオにとって幸せな故郷だった。
「どうされましたか?お口に合いませんか?」
エーメが心配そうにレオの顔を覗いた。
「いや・・・・・・少し故郷を思い出してな。美味しいぞ、このティーチェ料理。懐かしい。うむ、ちょっと里心がついたかも」
「そうでしたか・・・・・・。でもレオーナ様はもうウェンデルの姫、故郷には戻れません。申し訳ありません」
エーメが悲しそうな顔でレオに頭を下げた。
「あぁ、エーメのせいじゃないし・・・・・・。謝らないでくれ、セオドアには戻れないって分かっているから」
「でも・・・・・・レオーナ様、悲しそうなのですもの。」
「そうか?少し寂しくなっただけだ。エーメが悲しむから、もうこんな顔はしない。もう平気大丈夫」
レオはエーメに笑って見せた。
「レオーナ様・・・・・・エーメはなるべくセオドアの物を、レオーナ様に届ける事を約束します!そして、レオーナ様がウェンデルにいて楽しくなるように頑張ります!」
「ありがとうエーメ。エーメがいてくれたら十分楽しいよ」
「レオーナ様・・・・・・エーメは一生レオーナ様について行きますわ!どこへ行っても世界の果てまでも!」
エーメは目に涙を一杯溜めて宣言した。
「う、うん・・・・・・このウェンデルから出る事は無いだろうけど」
レオはエーメの熱意に苦笑しながら答えた。本当に真っすぐないい子だな。レオはエーメの人の好さを嬉しく思った。




