第十八話
完結しました。第八十九話までの物語です。主人公レオーナの物語をお楽しみください。
「あれ?・・・・・・」
塔の中に入るとすぐにイノスを見つけた。また眠っている。夜、ちゃんと寝ているのだろうか?
「夜はソード様とイチャイチャしているのかも」
レオはそう呟いてイノスを見た。睫毛が日差しに照らされて白い。
―寝ていると可愛いんだけどな。目を開けば彼の眼は少し鋭い。こうして目を閉じていると幼子のような表情に見える。普段の顔はキキリと厳しく近寄りがたいのに。
―何を考えたり、何が好きで、何が嫌いなのだろう。好きな本は?好きな色は?食べ物は何が一番好物?ソード様の事が本当に好きなのだろうか?
レオはイノスを見つめながら心の中で問いかけて行く。聞きたいことが溢れて止まらない。けれど、それを聞くことすら出来ない。
―夫婦なのに会話が全くないなんて。会話どころか会う事すら出来ないなんて。やはり自分は愛されてないのだな。ソード様の事があんなに好きなのだから。二人の愛を邪魔したら駄目だ。あんなに美しい愛はない。レオは小説と事実を混同してしまっていた。彼女は想像上の二人の間に自分が割り込むことを、良いと思わなかった。
「―いつまで人の顔を見ている」
とイノスの声が聞こえた。
「えっ?!」
驚くレオにイノスは起き上がりレオを見据えた。
「え、えーと。よく眠っているなぁと思いまして・・・・・・」
レオはバツが悪そうに必死になって誤魔化した。
「人の寝顔を覗くなんて趣味が悪いな」
イノスの言葉にレオは、うっ・・・・・・と喉を詰まらせた。
「寝顔は可愛いのに起きたら最悪ですね」
レオはたまらず反撃をした。
「寝顔は見ないでくれ、恥ずかしい」
少し照れたように、イノスが顔をゴシゴシと手で擦りながらそう言った。
「恥ずかしいんですか」
レオはイノスの事が可笑しくなり笑った。可愛いとこあるんだなと嬉しくもあった。
「うるさいな。二度と人の寝てるとこに近づくなよ」
イノスは少し不機嫌気味にレオを見つめた。
「そういえば、一行詩は書けたか?」
イノスは唐突にそうレオに問うた。
「へっ?ああ、まあ何とか書きました。まだ、提出はしてませんが」
レオは自信なさそうに答えた。
「そうか、まあいい。ところでウェンデルには三家があるのを知っているか?」
「いえ、聞いておりませんが」
「ソイ家、トイ家、コイ家これを三家と呼ぶ。俺は王位継承者の系統ソイ家、ソードは戦の長トイ家、クロウドは政治の長コイ家となる。一行詩はこの三家が争う雄一の行事、代々ソイ家が今年の詩として選ばれていた。・・・・・・が最近ではトイ家やコイ家が有利になってきている。ソードやクロウド達が主に選ばれている傾向だ。何としても今年は選ばれなくてはならぬ。お前には重圧に感じるかもしれないが、頑張ってくれ」
と言うとイノスは立ち上がり、どこかへ行こうとした。
「どこへ行くのです?」
「―お前のいない所」
イノスはレオをじろりと睨むとついてくるなよ、と釘を刺し歩き始めた。が、ああそうだと振り返りレオに近づいてきた。
「な、何でしょ・・うっ?!」
レオはイノスにいきなり唇を奪われた。
「へっ?!」
驚くレオにそれじゃ、とイノスは手を上げ立ち去った。
―何?何だ今の?レオはイノスの立ち去ってしまった方向を呆然と見つめた。いきなりすぎる!体中が熱い。私の気持ちも考えていただきたいものだ。私にも心の準備というものがある。この件はイノスに文句を言おう、とレオは火照った顔で決意した。
そうだ、貴重な時間を無駄にしてはいけない。今のは無かったことにしよう、うん。レオは我に返ると本棚に向かった。
―さて、どこから調べようか・・・・・・。そうレオが思い巡らせていると『レオーナ様お戻りください』とレッシーの声が頭に響いた。
「えっ?何?」レオの問いに『急用です、すぐにお戻りください』とレッシーは答えた。
「急用って何?」
『詳しくはお戻りになってからです。急ぎ部屋に来て下さいまし』
レッシーの声が頭にガンガン響く。
「わかった、帰る。もう話しかけないでくれるか?」
レオは響く声に一向に慣れない。軽い罰を受けている気分だ。
「・・・・・・」
レッシーの反応は無い。
――ああ、もう帰らないと駄目なのか。これから一杯調べ物をしようかと思っていたのに。レオはがっかりしながら塔の外へと向かった。




