第八話
完結しました。第八十九話までの物語です。主人公レオーナの物語をお楽しみください。
「あー憂鬱だ」
レオはウェンデルに続くトンネルの中を馬車で眺めながら呟いた。
・・・・・・ま、でも書物がたくさんあるのはいい事だ。昼寝付きだしゆっくりできるかも。と自分を励ますように、ウェンデルに嫁ぐ利点を上げてみると、少し憂鬱も吹き飛んでゆくような気がする。
―しかし、こんなにトンネルが長いとは。暗いトンネルの中、馬車の先に灯した光だけがレオ達一行を照らしている。トンネルの先の暗さはまるで先の見えない自分の将来のようだ。レオは気が滅入っていく。
「姫様、明かりを消してみましょうか?」
馬車に同乗している世話役のミアリが声をかけてきた。彼女はウェンデルのたどり着くまで、ついて来てくれる予定だ。見慣れぬ環境に嫁ぐのだからと娘を安心させるため、父王がよこしてくれたのだ。
「え?こんな真っ暗の中で?」
ミアリは不思議な事を言うなとレオは思った。
「ええ暗闇の中で道が、青色に美しく光るようですよ。この道を通る事を許可されているか審査するのが、青の光だとか」
とミアリはそう説明してくれた。
「―そうなのか?」
「ええ、じゃ早速消してみましょう」
ミアリがレオの返事も聞かずに明かりを消した。
「―!」
すると暗闇の中、岩々がほのかに青色に光り出した。地面の方がさらに青く鈍るような光が強い。
「姫様。上の方も綺麗ですよ」
ミアリの言う通りに上を見上げると、暗闇の中所々に青く光り、満点の星空を見ているように見えた。
「―綺麗だ」
レオは青の美しさに感動した。
「ええ。青の小道、シーラットと言うのだそうですよ」
ミアリもこの光に見入っているのか、ほう・・・・・・と声を漏らした。
「そう、シーラットと言うのか、美しい道だな」
「旅人はこの青い光を見る為だけに、ここに来たいという人までいるそうです」
ミアリはそう教えてくれた。
「ウェンデルはこのような美しい所があるのだろうか?」
レオはこれから向かうウェンデルに興味が湧いてきた。
「ええ、それはもう。この美しさに負けない城がございます。青く美しいマルム石で作られており、至上の宝石と言わしめた城です」
「へえ、見るのが楽しみだな」
「姫様、もうじきウェンデルに着きますよ」
ミアリがそう言うと、暗闇の向こうの道先に光が見え始めた。
「これがウェンデルです」
一気に光の量が増える。視界が光に溢れレオは目を細めた。光に慣れた頃そっと目を開けると開けた世界にレオは絶句した。
「―!!」
山の谷間を中心に青く輝くその城は、遠目で見ても高く感じた。四方八方に囲まれている山々の頂の高さに負けないほどの存在感のある二つの大きな塔が、緑のすそ野に長い影を落としている。
―青い銀細工のようだ。城に近づくほどにその美しさは際立って見えた。細やかな装飾が施されてあるのが、見て取れるくらい城に近づいてきた。道の途中から白い花がアーチを作り、レオ達は花のトンネルを通り抜けていく。
「美しいな、この花は?」
ティーチェの花より白く見える。レオはこの花の花吹雪の風に目を細めた。
「ディトワの花です。ウェンデルの国花で、セオドアのティーチェと同じ品種ですよ」
「実は生らないのか?」
「この花は実をつけません。けれど、この美しさからウェンデルの人々の春の風景の一つとして愛されています」
「そうか、こんなに美しいのだからな」
そうこう会話しているうちに、ディトワの花のトンネルを通り抜け、最初の門をくぐるとあらゆる人々が行き交い、物凄い熱気に包まれていた。喧騒な音が響き渡る人々の活気が溢れかえっていた。店には様々な食べ物や装飾品、服、武器などが並んだりしている。レオはその一つ一つを必死に目で追いかけた。レオは見たこともない物珍しい物が多くて目移りした。
――この街を色々見て回りたいな。そんな事できるだろうか?そうレオが思い巡らしていると、橋に馬車は辿り着いていた。
「川が流れているのか」
山脈の雪解け水が青い清流となって街中を流れている。
「ここからが城でございます」
橋を渡ると二つ目の門が目に迫ってきた。
一組の男女が、太陽を互いの手で包み込んでいる絵柄の彫金が、施された鉄門が開く。
門をくぐると大きな広場に出た。広場には薄い空色に装飾された円柱が周りを囲み、中心には絡み合う二匹の蛇の彫像から水が溢れ続け、涼やかな音を奏でていた。レオ達は馬車から出て、城の者からの出迎えを待った。
「水の音が響いている」
レオは見事な蛇の彫刻に駆け寄り、しげしげと眺めて呟いた。
「この城にはあちらこちらで水が溢れております。別名水の城と呼ばれています」
ミアリとは違う女性の声がしたので振り返ると、ほっそりとした佇まいの老婦人が立っていた。
「レッシー・ラテンザと申します。姫様の世話係を仰せつかっております。よろしくお願い致します」
とレッシーは深々と頭を下げた。
その表情は固く青の瞳は冷たい色をしており、銀縁の眼鏡がより一層冷たい印象を与えた。灰色の髪をぴっちりと撫でつけ、その髪を後ろに小さくまとめており、うなじは布で覆われていた。その姿は全く隙が無い様に見えた。
「こちらこそよろしくお願いします」
レオは落ち着いた様子で礼を取った。
「では、姫君の部屋へご案内致します」
レッシーはそう言うと、後ろも振り向かず颯爽と歩き始めたので、レオはミアリと共に彼女の後に続いた。
「お付きの方はここまでです。お別れを言うならここで済まして下さい」
「それでは、姫様の事よろしくお願い致します。姫様、お元気で」
とミアリはレオを抱きしめて別れを告げた。
「うん、ミアリも元気で」
レオは心配そうなミアリに、大丈夫と言わんばかりに笑顔で答えた。これでセオドアともお別れだ。レオは後ろを一切見ず、レッシーの後を追った。振り返れば心が故郷に引き戻されそうになる。レオにとって嫌な故郷でもあったが、楽しかった思い出もある場所だった。さよならセオドア、私の故郷。レオは心の中で別れを言った。
「こちらの右の塔が女の塔、反対が男の塔でございます」
レッシーは目の前にそびえ立つ、二つの巨大な塔を指さし説明した。
「女の塔は姫君の夫以外の男性は、立ち入り禁止区域です」
レッシーが女の塔の巨大な扉を開けるよう叫ぶと、ぎぎっと音を立ててその扉は開き始めた。
「ここから二度と出る事はありません」
レオが中に入ったのを確認すると再び扉は閉じられた。―暗いな。光がレッシーの手元にあるランプしかない。ほとんど何があるかわからない状態だ。レオは急に心細くなった。塔の中には人一人がようやく通れる小さな螺旋階段があり、それを昇っていくとしばらくして壁に扉が見えてきた。扉は何かの文字を中心に草花などが彫刻されていた。
「姫君の間です」
レッシーが手をパチンと音を鳴らすと扉が開かれた。扉の向こうには女性の騎士が一人立っていた。
「わあ・・・・・・」
レオは意外にも広くて高い空間に驚いた。天井にはカラフルに色々な装飾が施されている。―あれがティスタンっていう宝石か?レオは、天井の真ん中で、ひと際大きく輝く石を眺めて、その美しさに感動した。
「姫君の間は八角の間とも言われております。この様に部屋が八角形をしており、その一辺が各々の姫の部屋となっております」
レッシーの言う通り、八角形の姫の間は一辺ごとに、大きな天蓋付きベッドのような物が設置されていて、部屋の中心には円柱があり、天井まで続いているようだ。
「あれは私達が昇った螺旋階段が、続いているのでしょうか?」
「そうです」
「上にも同じ部屋があるのですか?」
とレオは天井を見上げながらレッシーに訊ねた。
「ええ、幾つもの部屋が層を増しております。それと姫様、私どもに敬語は必要ありません」
ときっぱりとレッシーは言い放った。
「あ、そうです・・・・・・いや、そうなのか?」
とレオは戸惑いを感じながら返事した。
「あの大きなベッドが部屋・・・・・・なのか?」
レオは敬語にならないように気を付けて質問した。
「ええ、その通りでございます」
「へえ・・・・・・」
高床式になっているベッドは、どうやって入ればいいのか、レオには想像もつかなかった。
「どうやって入るのだ?この部屋」
「ご用意致します」
レッシーがどこからか木の梯子を持ってくるとベッドの脇に立て掛けた。
「おお、すごい。この梯子重たくないのか?」
とレオは梯子に手を掛け持ってみたが、レッシーの様にはいかなかった。レッシー力持ち・・・・・・凄すぎる。レオは感心した目で彼女を見た。
「ちょっとしたコツが必要です」
とレッシーは冷静に答えると、どうぞお上がりくださいとレオを部屋へと案内した。
「ここが部屋か?ふむ、狭そうだな・・・・・・」
とレオが不服を言うと、「意外と中は広いのですよ」とレッシーは天蓋の一部を持ち上げてくぐる様に促した。
レオは天蓋の中を覗きながら部屋へと入って行った。ベッドよりは遥かに広い空間が広がっていた。しかし部屋として考えると窮屈そうだ。
「・・・・・・うん、でも狭いな」
とレオは率直な感想を述べた。
「姫君様は一生この部屋で過ごしていただきます」
レッシーはレオにとって、とんでもない事を口にした。
「えっ?この狭い所で一生?」
レオは変な所に嫁いだなと後悔した。
「そうです。ここに旦那様が通うのですよ」
「一緒に過ごさないの?」
「夜のみ男性が入れるのです」
「夜に・・・・・・」
レオは少し顔を赤らめた。これでも一応それなりに知識は持っている。どうするのかはよく分かっていない点もあるが。
「さあ、ウェンデルのご衣裳に着替えていただきます。エーメ!エーメ!用意を!」
レッシーが部屋の外に声をかけると「はい、レッシー様」と若い娘の声がする。
赤い髪の娘が木の箱を恭しく頭上に掲げ入って来る。レオより年下に見えるが、どうなのだろう、彼女の知る若い娘は姉くらいだったので、比べる対象が少ないのでわからない。
「レオーナ様、こちらエーメ・ロード。貴方様のお世話をする者です」
とレッシーは彼女を紹介した。
「レオーナ様、エーメ・ロードと申します。よろしくお願い致します」
ぺこんとエーメはお辞儀して挨拶してみせた。
「こちらこそよろしくエーメ・ロード」
レオは同じようにお辞儀して挨拶した。
「そんな!お辞儀などいりませぬ!もったいないことでございます」
とエーメはすみませんとレオにお辞儀した。
「いや、こちらこそすまない。こちらの挨拶を知らないものだから、・・・・・・悪かった」とレオが謝ると、「とんでもない事でございます」と彼女は再び深々とお辞儀した。
「それから私をエーメとお呼び下さいませ」
「じゃ、エーメ」
レオがそう呼ぶとエーメは嬉しそうに微笑んだ。いい笑顔を持つ娘だ、好きになれそうだ、とレオは好感を持った。
「じゃあ、レオーナ様、裸になって下さい」
「えっ?!」
レオは凄いことをサラッと言ってのけたエーメに驚きを持って見つめた。
「ウェンデルの着付けは裸からです。さ、お手伝いしますね」
とエーメはレオの衣服に手を掛けた。
「ああ、じゃ自分で脱ぐ。でもちょっと裸は見せたくないな。何か方法は無いのか?」
とレオはそう言うと、「では、後ろを向いておりますから、これを着用して下さい」とレッシーはレオに布を渡した。
「ああ、これを着るのか」
レオは布を受けとると不思議そうに眺めた。これは・・・・・・セオドアの部屋着の様だ。それにしても小さい。これを着るのだろうか・・・・・・。
「・・・・・・どうやって着るのだろう?」
レオがそう言うとレッシーがエーメにそれを着せて見せた。両腕を袖に通し前身ごろをお腹で合わせてゆく。なるほどそう着るのか、とレオは彼女達を背を向けさせて、裸になるとその小さな部屋着を着てみた。
「着たぞ、これは短いな」
その部屋着はレオの付け根すれすれの丈の短さだ。前身ごろを手で手繰り寄せないと肌が見えてしまうので、とりあえずレオはそうした。
「これがウェンデルの下着でございます。下衣と言います」
「これが下着・・・・・・」
ふうん、こんな下着があるのかと、珍しそうに下衣を見つめた。
「これを下衣の上に着ます」
薄い絹の様な上着をレオは着つけられた。
「腰巻を付けます」
レオはひだの入った腰巻を腰に巻き付けられた。
「その上に表着を付けます」
それから淡い水色の刺繍の入った衣を羽織った。
「袖が長いのだな」
レオは膝まで届く長い袖を見て、動きにくそうだなと思った。
「袖が長ければ長いほど良いとされています。もっと長いのもございますが」
「いや、これでいい。動きにくいから」
とレオはレッシーにきっぱりと断った。ただでさえ動きづらそうなのに、これ以上は無理だ。
「後は帯ですね、エーメ、帯を」
「はい、レッシー様」
着付けは主にレッシーが行い、エーメは補助を任されているようだ。エーメは箱から帯を取り出した。帯は豪華な金糸で縁取られ、宝石も散りばめられている。
「綺麗だ」
レオは率直な感想を述べた。普段から装飾品などには興味がないが、この帯の美しさには魅せられてしまった。模様は細かく様々な色を織りなしている。
「妊婦は太い帯を、子供のいる婦人は、こちらの帯より細い帯を締めます」
とレッシーが説明してくれた。
「次は髪型ですね」
レッシーはレオの髪の前髪の両端の二房以外を、後ろにまとめ始めた。
「これはアークという帽子の様な物です」
髪をまとめた後頭部にアークを付けた。
「アークと髪の間を隠すファッツという隠し布を巻きます」
帯と同じ柄の布をアークの手前の方で巻き付けた。今度は残してあった二房の髪を木の角の様な物で、ぐるぐると巻き付け始めた。
「ウィクルという女性の本性、鬼を隠したものです」
「え?鬼なのか?」
ここは鬼がいるのかとレオは驚いた。
「女性は怖い一面を持つという事です」
レッシーは髪の毛をまとめ上げながら答えた。
「エーメ、こちら側の髪を持っていなさい」
「はい、レッシー様」
ウィクルで巻いた髪は耳の上で止められ、アークから耳飾りにかけて後頭部とうなじを隠すように布がかけられた。
「ウェンデルではうなじを隠すという伝統があります。うなじを見せるのは旦那様だけです。うなじを見せるという事は、ウェンデルの女性にとって恥であります」
「ほう・・・・・・そんな習わしがあるのか」
レオはセオドアよりも変わった文化なのだなと思った。
「ちなみにこのアークを後ろに引くと簡単に裸になれます」
「えっ?!」
レオはレッシーの一言に驚いた。
「そういう仕組みになっております。ウェンデルの姫は、やはり子を授かってもらわなければなりませんゆえに」
「そ、そうなのか・・・・・・」
レオは少し引きつり笑いをした。なんだか先が思いやられるようなそんな感覚に陥った。ウェンデルの衣装を身に纏い、思ったのは、頭が重いということ。一日中着けていると肩が凝りそうだ。
「夜まで旦那様はいらっしゃる事はありません。それまで何かしてみたい事はありますか?」
とレッシーがそう訊ねてくれた。
「本が読みたい!」
これをしないと何のために来たのかと、レオは張り切って答えた。
「かしこまりました。後はエーメに何なりとお申し付けください。エーメ、よろしくお願いしますよ」
レッシーはそう言い残すと部屋から出て行った。部屋にはエーメと二人残された。
「ご本がお好きなのですか?」
エーメが話しかけてきた。
「ああ、まあ」
「そうなのですか。私も大好きなんです。どんなものが好みですか?」
嬉しそうにエーメが質問してきた。
「えーと、歴史ものとか色々だな」
とレオが答えると彼女はそうですかと瞳を輝かせた。
「私は恋愛小説が好きです。特に『マリアロッテの手紙』が好きなんです。主人公は身分の低い女性なんですが、負けず嫌いで、どんな困難にも立ち向かう素敵な女性で、後、主人公を守る女剣士エオリー様がもう素敵なんです!美しい銀の髪の方でレオーナ様みたいな髪をしているんです。素敵だなあ・・・・・・レオーナ様の髪は、まるで銀細工の様。エーメは一目で恋に落ちました。男性の方なら、もう結婚してほしいくらいですわ!」
エーメはレオの両手をしっかりと、包むように握りしめて力説した。
「ああ・・・・・・そう」
レオはその勢いに押され気味だ。
「『マリアロッテの手紙』読みますか?私全巻持っていますよ。『エドフィーンの憂鬱』もおすすめですよ」
「まあ・・・・・・一応さわりだけ読んでみようか」
レオは興味をそそられなかったが、エーメがせっかく勧めてくれたのだから・・・・・・と返事をした。
「後、歴史や世界の本も読みたいのだけど・・・・・・」
とレオは、ついでに読みたい本を頼んだ。
「かしこまりました。じゃ、早速お持ちしますね」
エーメは嬉々として部屋から出て行った。
「・・・・・ああ、頭が重い」
レオは深く溜息をついた。城の中で自由に歩き回れるのかと思いきや、姫君達はこの二人並んでようやく寝られる位の、小さな天蓋ベッドのような空間の中で、一日を過ごすのだ。故郷のセオドアよりも不自由だ。こんなところでこの先やって行けるのか、レオは不安に駆られた。
「君がレオーナ姫だね」
いきなり背後から声がかけられた。
レオが驚いて振り向くと男が立っていた。男はレオより小柄で身体のラインは細く、ひどくなよなよしている。男はレオと目が合うとタレ目の瞳でウィンクした。
「えーと、あなたが私の旦那様?」
「ううん、違うね。君の旦那様はイノス君だ。僕はファルンカ。ファルンカ・ティーベ・ライツ。以後お見知りおきを」
「はあ・・・・・・」
何の用かとレオは不思議そうに彼を見つめた。
「君は可愛いねえ。僕の好みだよ」
ファルンカはレオに近づきその手を取った。
「君・・・・・・イノスよりも僕のものにならない?」
彼はレオの手をねちねちと触りながら言った。
「なに人の手をべたべた触るのです?旦那様以外の男の人に触られたくありません!」
レオはその手を振りほどいた。
「んふふ。でも君、旦那様に手を出されなかったら、自動的に君は僕のものになるんだよ」
「えっ・・・・・・」
レオはファルンカの顔をまじまじと見た。色白ののっぺりした質感、タレ目。この男、生理的に受け付けない。
「ま、その時が楽しみだねん」
そう言うとファルンカは、レオの手の甲にキスをした。
「―!」
レオは体中に気持ち悪さが、寒気と共にやってくるのを感じた。
「じゃあね。僕の子猫ちゃん」
ファルンカはそう言いウィンクすると部屋から出て行った。
「何なんだ、気持ちが悪い」
レオはキスされたと手の甲をシーツで擦って、あの感触を拭い去ろうと一生懸命になった。
「レオーナ様」
エーメが本を数冊もって戻ってきた。
「何なのだ。あのファルンカとかいう奴は!」
レオは彼女に少し怒りを込めて訊ねた。
「レオーナ様、ファルンカと、もう会ったんですか?」
エーメは驚いた様子でレオに詰め寄った。
「ああ、今しがた」
レオは彼の行為にむかつきながら答えた。
「何かされましたか?」
「手にキスを・・・・・・」
レオは寒気がぶり返しそうになりながら手の甲を見せた。
「まあ!あんな奴!ここに入れない様にしてやる!二度とレオーナ様に近づかせませんから!」
エーメはすごい剣幕だ。
「あれは一体何者なのだ?」
「夫と添い遂げなければ、代わりに夫になるような嫌な奴です。あんなねちねちした奴!最低ですわ!」
エーメは憤怒の顔をして叫んだ。・・・・・エーメ・・・・・・怒らすと怖い。
「けれど大丈夫です。旦那様に愛されればファルンカは近づく事も出来ません」
「そうなのか?」
レオはまだ見ぬ夫に愛される自信は無いが、ファルンカに近づかれるのは本当に嫌だと思った。
「ええ。レオーナ様はきっとイノス様から愛されますわ。こんなに美しい方ですもの」
「そうだろうか・・・・・・」
レオは不安そうにエーメを見た。
「そうですとも!」
エーメは嬉しそうに断言した。
「・・・・・・」
レオは夫に愛されるかどうか不安にかられた。本当に上手くやっていけるのだろうか。
「はあ」
彼女は少し先行きを暗く感じた。




