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私の彼はやさしい呪術師  作者: 白糸夜中
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(2)

 授業が終わって鬼のような速度で帰り支度をしていると、いつものように友人たちに声をかけられた。


「恋虎ー。一緒に帰ろうよ」


「ごめん。今日もちょっと予定があって」


「またー? 最近うちらと全然遊んでくれないじゃーん」


「恋ちゃん、最近授業中に奇声あげたり、私たち結構心配してるんだよー」


 仲良しの三人があたしに優しい声をかけてくれる。あたしは友達を大事している。この子たちが誰かに傷つけられたら、絶対に許さない。あたしの大事な大事な友達。


「みんな、いつもあたしを必要としてくれてありがとう」


 あたしは両手を思いっきり広げて、円陣を組むように抱きしめた。


「ちょっと、どうしたのよ。そんなに改まって」


「ヒナ、ユリ、サキコ。あたしはみんなのことが大好き。いつも誘ってくれてうれしいよ」


「そんなに言われたら、私たちも照れるよー」


 三人は頬を赤らめて、もじもじしている。あたしの可愛い自慢の友達だ。


「花火を見てきれいとかすごいとか言うでしょう。いい言葉は思っているだけじゃなくて、ちゃんと素直に発言しないと駄目だと思うの。だからあたしは、今みんなに対して思っていることを正直に伝えているだけ」


 三人は柄にもなく真面目なあたしの話を真剣に聞いてくれている。


「あたしはみんなを裏切らないし、傷つけない。これからも湧いてきた愛しい感情は、その時の最適な言葉でみんなに伝える」


 あたしはカバンを持ち、颯爽と教室を出ようとした。そこで振り返って、


「ヒナ、ユリ、サキコ。大好きだよ! バイバイ! また明日!」


 元気よく言うと、三人は最高の笑顔であたしを送り出してくれた。あたしは昇降口まで走っていき、音速の速さで靴を履き替えると外へ飛び出した。


 校門を出て、大通りを東に走ると気怠そうに歩く学生の後ろ姿を発見した。


「おらぁ! 白狼、てめぇ! 何逃げてんだこの野郎!」


 怒鳴りながら、あたしは白狼の肩をむんずと掴んだ。


「なんだ、恋虎さんか。暴漢かと思った」


 白狼は眠そうな顔であたしを見た後、あくびをした。


「昨日、変な夢を見てあんまり寝てないんだ。そんなに怒鳴らないで」


「うっさい! あたしだって昨日、吐き気がする夢見て絶不調よ!」


 するとシャツの胸ポケットから、トナカイことタゴサクが顔を出した。


「さっきの三人とは、えらく違った対応だな」


 タゴサクが呆れるように言った。


「皮をかぶるとはこのことか」


「それを言うなら猫でしょう。下ネタ言ってんじゃないわよ」


「皮をかぶるという言葉は本来、偽装する、化けるって意味なんだよ。皮をかぶるイコール男性のナニに変換しているお前の脳内回路が下ネタ仕様になってるんだよ」


「揚げ足取りしてんじゃないわよ、生意気トナカイ」


「自分のミスを認めろよ、脳内スケベ女」


 あたしはキーっと叫び声をあげたくなる衝動を抑えて、白狼を睨んだ。


「おい! ポケットの中の珍獣三匹、いい加減出てきなさい!」


 怒鳴りつけると、白狼のズボンのポケットがもぞもぞと動き出し、三匹がひょこっと顔を出した。


「なんだよー。また恋虎ー? 家に帰るまでは私たちの睡眠タイムなんだから邪魔しないでよー」


「そうでござるよ。高速バスや電車のかすかな揺れで眠るのが心地いいことくらい、いくらおつむがアレな恋虎嬢でも分かるでござろう?」


「だまれ三匹。あんたら、さっきはよくもやってくれたわね!」


「ゴンベエはずっと黙ってるよ。恋虎、それってゴンベエに対しての冤罪だよ」


「ゴンベエ殿。辛かったでござるな。弁護団は我らが結成するでござるよ」


「……」


「この珍獣どもめ……」


 あたしはまた三匹をにらみつけたが、こいつらはまったく恐れる様子がない。


 そもそも、なんでこうなったんだ。本当だったら今頃、可愛くて愛嬌のあるマスコットを手に入れていたはずなのに。


「おい恋虎。バカやってないでさっさと帰るぞ。今日はガトーショコラ。一日限定三十食とかの高級なやつな。わかったら早く動け、中二病」


 なんでこんな、典型的なモラハラトナカイが降臨したの?


「うう。めまいが」


「大丈夫? 白狼、タクシー呼んであげなよ」


「それは名案でござる。恋虎嬢のおごりで我らも便乗しましょう」


「余計なことしなくていいんだよ。それに恋虎の所持金は三百二十円だ。ワンメーターの料金にもならねぇ」


「なんであんたがあたしの財政状況知ってるのよ!」


「……」


「おい鳥! おまえはなんかしゃべれ!」


 あたしは息切れをしながら、四匹に怒りをぶつけた。


 そんな光景を白狼はしらーっとした様子で見ている。周りの人たちも「あの子、一人で何叫んでるんだろう?」と言わんばかりに不思議そうに横目で見ながら通り過ぎていく。冷静に。冷静に。


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