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私の彼はやさしい呪術師  作者: 白糸夜中
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「見ての通り、シャトルは猫のフィギュアさ。シャム猫をイメージして、僕が作ったんだ」


 シャトルは私の手の平の上にちょこんと座り、前足で顔を洗っていた。本当にただの樹脂製の人フィギュアなのに、動きが滑らかすぎる。


「作ったって、どうやって?」


 白狼はカバンから巾着袋を取り出した。袋の中には使いかけの樹脂粘土とパチンコ玉が三つ入っている。


「粘土の中にパチンコ玉を入れ込んで丸めた後、手のひらで包み込み、目を閉じて自分が造形したい生き物のイメージをして念じるんだ。生まれてこいって」


「そしたらどうなるの?」


「手のひらの中でまず、粘土が変形する。この時、生き物の着色も同時に行われるから具体的な色のイメージがあったほうがいい。そして造形が完了したら、パチンコ玉が心臓のように動き出す。僕はこれをコアと呼んでいる」


 にわかに信じがたい話だが、すでに私はその非科学的な現象の一部始終を現在進行形で見ている。うれしいことに私の手のひらの居心地がいいのか、シャトルはいつの間にか体を丸めてすやすやと吐息を立てている。


「あの時の光は、その儀式によるものなのね」


 白狼はうなずいた。


「君にもシャトルが生きていることがわかるのは、光を浴びたからだと思う。昨日初めて成功したから、断言はできないけど」


「初めてって、今まで何回もあんなことをしてきたの?」


 白狼は答えたくなさそうに目をそらした。だが、ここまで説明したからなのか、しぶしぶ経緯を説明してくれた。


「僕は昔から、本を読むのが好きだった。でも周りがシートン動物記を読んでいる時、僕は世界の呪術や魔法、超常現象に関する本ばかりを読んでいたんだよ」


「なかなかオカルティな少年だったのね」


 白狼はオカルトな本を読み漁り、ある時、自分も呪術や魔法が使えるのではないかとひらめいたらしい。


「だけど僕が読んできた本は、誰かに対して危害を加えることが詳細に書かれている文献が多かったんだ。もちろん、僕はそんなことをするために本を読み始めたわけじゃない」


「じゃあ、なんでそんな本ばかりを?」


「それは……」


 無表情に説明する白狼の表情が、わずかに赤くなったのを私は見逃さなかった。


「……友達がほしかったんだ」


 白狼が目を合わせずにそう言った。


 話を要約すると、白狼は昔からコミュニケーション能力が著しく低く、周りの人間と溶け込むことができなかったらしい。それでいじめられることはなかったが、自分からグループの輪に入ることはおろか、たまに話しかけてくるクラスメイトにも片言でしか返答できなかったらしい。


「つまりあんたは、呪術や魔法を使って友達を作りたかったのね」


 白狼が無言で頷いた。


「努力の迷走とはこのことね」


「言われなくてもわかってる」


 本当にあたしと白狼は絵に描いたような陰陽関係。あたしの明るさを分けたいくらいだ。


「じゃあ、シャトルが生み出されたのは、呪術によるものなの?」


「そうだと思う」


「思う?」


 白狼は無表情で自分の手のひらを見ながら話し出した。


「君みたいに常に周りに友人がいる人には理解できないかもしれないけど、孤独な人間は時として、その孤独に殺されるんじゃないかと思うくらいに追いつめられるんだ」


 そんなに辛かったのか。確かに常に人の輪の中心にいるあたしには、理解できない感情だ。


「包丁を首にあてたり、ぶら下がっている電気コードを見て、そこで自分が首を吊っているようなイメージが湧いてくるんだ。自殺願望なんかないのにね」


「家族はいないの?」


「両親と姉と妹がいる。もちろん、そんな負の感情が湧いた時に家族がいれば話し相手になってもらうよ。でも、たまに一人になる時にそんな感情に襲われたら、僕は誰を頼ればいい?」


「それは……」


 何も返すことができなかった。家族のほかにも親戚などの血縁がいるだろうが、遠いところに住んでいるのなら安易に会えないし、あまり仲が良くなかったら電話さえしづらいだろう。


「それらの心理状態は、きっと僕がずっと呪術や魔法なんかの本を読み続けた代償なんだろうね。僕ももっと明るい本を読めばよかったのかもしれない。ズッコケ三人組やかいけつゾロリとかをね」


 あたしは二つとも読んだことはないけど、それは言わなかった。


「それである時、テレビでマジックショーを見たんだ。マジシャンが手のひらからヒヨコを出すマジックで、それを見てひらめいたんだよ」


「友達は自分で生み出せばいいと?」


 彼は呪術で友達を引き寄せるのではなく、友達を生み出すことを考えた。そして早速、様々なことを試したらしい。


「手始めにぬいぐるみに念じてみたけどだめだった。それからいろんな人形を買い集めて念じ続けた。ウルトラマンのソフビ人形や、シルバニアファミリーとかね」


 しかしことごとく彼の実験は失敗に終わり、家の中には人形であふれかえった。


 お気楽な家族は、長男の趣味が読書から人形集めにシフトしたと思い込み、社員旅行のお土産で郷土の人形を買ってくることが増えたのだという。


 そして行きついたのが、樹脂粘土とパチンコ玉の造形法なのだ。


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