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第7話彼女の正体

俺達は下水道を抜け、ミネルヴァ教が使っていた隠れ家へ向かった。

一見するとただのぼろ小屋だが、中では簡易的な調理器具や食べ物。

驚いたことに、衣服なども用意されていた。


「どうやら、巻いたようだ」


俺は生命探知を使い周りの状況を把握し答えた。


「それはよかった…」

神父は血だらけの足に布を巻きながら答える。


神父との交渉を聞いた、アルバートは神父をにらんでいるが椅子から動かない。

俺が瀕死に追い詰められた話を聞き、アルバートの力では神父から魔剣を取り返すのはできないと伝えてはいる。


「やめとけ、アルバート」

「…無理か」

「ああ、あの神父は手練れだ」


俺は一か八か、取り返せないかと隙を伺うアルバートを止める。

神父は口元に笑みを浮かべている。


「それでどうするんだ」

「交渉通り、その少女を連れていく」

「正気か?」


俺は頷いた。


「魔剣で町を滅ぼされたくないだろ」

「うむ…そうだが…」


ミネルヴァ教に加担するということにアルバートは躊躇している様子だ。


「さて、これからについてだが、いいか神父?」

「ええ、構いません」


俺はこれからのこと提案することにした。


「まずは、二手に分かれる。俺は神父とアルバートは底の少女とともに行動する」

「ほう…」


神父はこちらに魔剣を向けてきた。


「アオイを衛兵に突き出す気ですか?」

「そんなことするわけないだろ、単純に四人だと目立つ。お前は足を怪我をしているし」

「その案は却下です」


少女の肩を借りて神父は立ち上がった。


「最後まで話を聞け。いいか、まずアルバートとその子が先に行く。そのあと俺達が向かう。これなら衛兵に突き出してもすぐわかるだろ」

「…なるほど」


するとアルバートが俺に近づいてきた。


(本気でこいつらを護衛する気かよ)

(でなきゃ、この町は崩壊する)

(でも…)

(逆に考えろ。こいつらを町に出せば問題はないだろ)


アルバートは腕を組んで考えた。


(そうか、キャンプまで向かったところで奪えばいいのか)

(そういうことだ)


納得したようでアルバートは下がった。


「で?どうする神父さんよ」

「それしか方法はなさそうですね」


神父は頷き、少女に耳打ちをしている。


(悪いけど…、スキル<読唇>)


二人の会話をこっそり見る。


(…神父様、本当にいいんですか?)

(いざとなれば、一人でも逃げなさい)

(でも…!!)

(あなたの命に比べれば安いものです)



その後の会話も神父が少女に何度も言い聞かせていた。


「すみませんね。この子が融通効かないもので」


しばらく待ちようやく二人の会話が終わった。


「なら、早速行動しよう」

「ええ、頼みましたよ」


神父のもとにいた少女がアルバートの元へ駆け寄る。


「…お願いします」

「おう、任せとけ」


アルバートとフードを被った少女に町へ出ていくための経路を紙に書いた。


「生命探知で調べたところ、下水道にかなりの衛兵がいる。つまり門の近くは手薄になっているはずだ」

「だが、どうやってそこを抜ける?」


俺は神父のほうを見た。


「なにか?」

「お前たしか鏡の布持っていたよな」

「はい、なるほどそういうことですか」


神父は鏡の布を取り出した。

何と驚いたことに、神父の制服の裏側に縫い付けらえていた。


「だから、布が見えなかったのか」


鏡の布は周囲の壁などに色を変える。

そしてもう一つの特性は魔力を流せば本人にも効果がある。


神父は裏側に縫われている布をはがし少女に渡す。


「これを被って行けば気づかれにくくなる」


俺とアルバートは、こうなる前にマジックアイテムの蛇の羊皮紙で検査されている。

検問では衛兵に冒険証を渡せば問題ないだろう。


そして少女も鏡の布で姿を消せば検問も突破できるだろう。

二人が外の様子を警戒し、そして隠れ家から出て町の中へ混ざっていく。


「いいですか、あの二人が見えなくなったらこの魔剣を振りますよ」

「…過保護だな。いいさならその体だときついけど屋上へ行くぞ」


俺は神父の要望通り、隠れ家の屋上へ登った。

見晴らしのいい屋上からなら、二人の様子がよく見える。


空を見上げると日はだんだん陰り夕日が照らしていた。

今は冬だからすぐに夜になるだろう。


撃たれた足をかばいながら神父は屋上へ登った。

「ふぅ…」

「早くしないと、見失うぞ」


俺は神父にそう告げ隣の家に飛び移る。

足をかばいながらも神父はついてくる。


(さて、どうやって検問を通るかな)


少女に鏡の布を渡した神父をどうやって町の外へ出すか。


「全く、なんでこんなやつのことを考えなきゃいけなんだ」

「私だってあなたなんかに頼りたくなかったですよ」


神父が俺の言葉に反論する。


「それもあの子のためか」

「ええ、あの子が無事なら私はそれで構わない」


俺は神父に振り返った。


「あの子は何なんだ?」

「言ったでしょう?私たちの希望だと」



イツキ達と別れ、俺はなぜかミネルヴァ教の少女をこの町から出すことになってしまった。


「なぁ、君」

「はい?」

「悪いことは言わないから、こんな宗教やめてしまったらどうだ?」


少女は少しムッとした顔をした。


「私にとっての居場所なんです」

「ミネルヴァ教が?」

「ここ以外、どこにも生きる方法がないんです」


少女は悲しい顔を浮かべた。

いったいこの子にどんな過去があったのだろうか。


「もしかして、君は生まれた時からその宗教にいたのか?」

「はい、父も母もいない私に優しくしていただけました」


(そうか、だったら間に合う)


確かにミネルヴァ教の信者だと、犯罪者と同等の扱いを受ける。

しかしこの子はまだ若い少女だ。


それにほかに身寄りがなかった為仕方なく、その宗教にいたならおそらく無罪として扱われる可能性は十分にある。


「アオイちゃんって言ったかな?」

「はい」

「今ならまだ間に合う。衛兵のもとへ行こう」


するとアオイちゃんは身構えた。


「まさか、連れて行く気ですか?」

「大丈夫、君は無罪だ。俺が何とかする」

「だめなんです…」


アオイちゃんはフードを深くかぶった。

そして体を震わせている、表情からは恐怖がはっきりと伝わった。


(もしかしてミネルヴァ教の教えで衛兵につかまれば、ひどいことをされるとか吹き込まれているのか?)


「安心してくれ、だから行こう?」

「…これでもですか」


そう言って彼女はかぶっているフードを脱いだ。


そのフードから銀色の透き通るような髪と共に、モフモフとした獣耳が付いていた。

次回は明日の18時に投稿します。

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