第4話 ベートとアルバートの対比
ここでは新たな対比が発生します。
「スキル<探索>」
裏口から出た俺は、早速ベートを追いかけるためスキルを使った。
雪道の中からベートの足跡がほのかに光る。
「いいのかあいつを逃がして」
「ああ、スキルで調べたところあいつ魔剣を持っていなかった」
「どういうことだ?」
アルバートは首を捻った。
「恐らくだが、一旦この町から離れてほとぼりが冷めてから、戻って取って来るつもりだったんじゃないか?」
「そうか、だったらこの町のどこかに魔剣があるってことか」
ベートの足跡を見ていると路地裏に入り、さらに下水道へ向かっている。
「こんなところに逃げたのか」
「盗人が逃げそうなところだな」
下水道の中は暗く、足元には泥のようなものが雪と混ざっていた。
「暗いな」
「気をつけろよ」
俺はスキル<暗視>を使い先に中へ入る。
しばらく歩くと足に何か踏み、歩くたび靴がべたつくが、考えたくもないので気にせず進む。
俺達は下水道を先へ進む、今の季節が冬のおかげで下水の腐った匂いがしないことだけは幸いだった。
「待て」
「どうした?」
後ろにいたアルバートが俺に問う。
「足跡が消えた」
「どういうことだ?ここは道の途中だぜ?」
ここは下水道の途中、まだ先はあるのにここでベートの足跡が消えるはずがない。
「まさか、すれ違ったのか?」
「この狭い下水道ですれ違ったらすぐわかるだろ」
このあたりに何かある。
「スキル<生命探知>」
俺はスキルを発動させた。
生命探知は自分を中心にあたりの生命すべての場所を探知するスキルだ。
まずは下水を調べる。
<生命反応なし>
水の中に隠れている可能性はないか。
流石に冬の冷たい水の中に隠れるなんてしたらすぐに凍死するからあり得ないか。
となると…
どこかに隠れて息を潜めているのか?
さらに生命探知の範囲を拡大させる、反対の壁そして天井まで範囲を拡大した。
すると壁の裏側に生命反応があることに気が付いた。
というか、まさか…。
「この壁…」
俺は壁に手を付けた。
すると壁だと思っていたものが途端に姿を変えた。
「黒い布…?」
アルバートがつぶやく。
「これはマジックアイテムの鏡の布だ…。なんでこんなものが…?」
鏡の布、広げると周囲の壁や物に同化するマジックアイテムだ。
魔力を注ぐと一定時間の間も効果が続く代物だ。
先ほどまでは壁だと思っていたが、鏡の布を取るとその先に道が続いていた。
下水道は違い地面が見える、誰かがこの道を掘ったようだ。
そして消えていたベートの足跡もくっきり見える。
「まさか、ベートが掘ったのか?」
「あいつにそんな力ないだろう」
「だったら誰が?」
「…ベートに訊ねることが増えたな」
俺とアルバートは洞窟の中を進んだ、洞窟はあまり奥まで続いていなかった。
そして腕に包帯を巻いていたベートと再会を果たした。
「よう、ベート」
俺は先ほどと同じようにベートに挨拶をした。
「よう…」
俺は拳銃を取り出しベートに向ける。
「聞きたいんだが、どうして俺の武器のことを知ってるんだ?」
「さぁな…」
ベートはぎらつかせた目でこちらをにらむ。
「この洞窟はなんだ?誰が掘った?」
「さぁな」
アルバートは腰に携えていた剣に手を添える。
「だれの命令だ?」
「さぁてな…」
「ってことは、誰かから命令されたのか」
ベートは立ち上がり近くの木材を手に取り俺達に構える。
「教えねぇよ」
「あっそ」
俺は躊躇いなくベートの足に銃を撃った。
「ぐがっ!!」
「少しはしゃべる気になったか?」
倒れたベートは、必死に足を押さえ立ち上がろうともがいている。
「くそがよ!!」
ベートは木の棒を俺に向かって投げた。
「なんだよ!お前は!異世界者だろ!!」
「そうだが、それが何か?」
「だったら金には困ってないんだろ!?俺には明日生きていく分の金だってないんだよ!!」
荒い息と共にベートは叫んだ。
「だから盗んだのか?」
「そうだ!どうせ魔剣なんて使わないんだったら、俺がもらってやるよ!!」
「悪いがそうはいかない」
パァン
俺は銃をベートの顔のすぐ近くに撃った。
最終警告だ。
自分の顔のすぐ横で、弾丸が掠めるところを見たベートは固まっている。
「どこにある?」
静かに俺はベートに尋ねた。
「ミネルヴァ教の奴に渡した…」
ベートは観念したようで小さい声で呟いた。
「はぁ!?ふざけてんのか!!」
アルバートが驚き叫んだ。
「仕方なかった!!金をくれるって…」
「ふざけたことしやがって!!」
ベートの胸倉をつかみ怒るアルバート。
「そいつはどこの誰だ!?」
「この町の神父だよ…そいつに魔剣を取ってくるよう命令された」
苦しそうにベートは喋った。
「行くぞ、アルバート」
「行くってどこに?」
「決まってる。教会だ」
俺は振り返りそのまま歩き出した。
「ベートはどうするんだ!」
「好きにしろ」
ベートは魔剣を持っていない。
ならもうこいつには興味はない。
それより急いで教会へ行けば、神父の足取りをつかめるかもしれない。
イツキはそのまま下水道まで戻っていった。
「く、苦しい…」
ベートの胸倉をつかんだまま俺は立ち尽くしていた。
「このくそ野郎が…!」
「頼む…死にたくない…」
俺はベートを離した。
「見逃してくれるのか…?」
「お前を生かす価値はない」
腰に手を当て、つるしている剣を抜いた。
「ひぃ!!」
「お前みたいな屑は消えるべきだ!!」
「やめてくれ!!頼む!!」
俺はベートの首元に剣を突きつけた。
「頼む!俺だって昔はあんたと同じ冒険者だったんだ!!」
「それがこの体たらくか!」
ベートは静かに腰を下ろした。
「そうだよ!冒険者としてこの町に来て…それなのに誰も仲間に入れてくれなかった…」
「…」
「そうなったら自分で生きていくしかないんだ…一人で冒険に出て何度も死にかけて…」
ベートの言葉に俺の剣先がわずかに震える。
「気が付いたら、こうなってしまったんだ…」
「そうか…」
俺は剣をしまった。
「見逃してくれるのか?」
「お前を生かす価値はない」
「だったら…?」
どうしてとベートは俺を見つめる。
「それでも殺す価値もない、この金を持ってまっとうに働け」
俺はポケットから金貨の入った袋をベートに投げた。
そして俺はイツキのもとへ向かった。
ベートは同じ冒険者であり、アルバートと違い仲間を見つけられなかった。もしかしたらアルバートも、同じ未来を辿っていたのかもしれない2人の対比でした。