第2話 新たな主人公
大切な仲間であったナナを亡くし5年が経ちました。
そんな彼に新たな仲間と事件が発生しました。
石の階段を駆け上がり俺は急いでイツキのもとへ向かう。
「おい!イツキ!」
木のドアを叩きながら叫ぶように彼を呼ぶ。
しばらくしてからドアが開いた。
部屋着のまま出てきたのは異世界者のイツキだ。
「はい?なんだアルバートかどうかしたのか?」
「どうかしたのかじゃないぞ!見つけたんだ!」
「見つけた?おい、まさか…」
イツキは息をのんだ。
俺も頷き言葉を続ける。
「あいつが、お前の魔剣を盗んだベートがいたんだ!」
「ちょっと待ってろ!」
俺が言うや否やイツキは自分の家の中へ駆け込んだ。
そしてすぐに戻ってきた姿は黒いコートを着ていた。
「お前、五年前からそのコートのままだな」
「汚れを勝手に落としてくれる優れものだから汚くないぞ」
「そうじゃなくて…」
まぁ、いいか。
こいつと知り合って早くも5年もたっている。
最初にあった時は、一日中教会で亡くなった仲間に謝罪をしていたものだ。
聞いた話によるともう一人仲間がいたらしいが、いろいろあって結局パーティを解散したのだとか。
俺は駆け出しの冒険者としてこの町に来たのだが、あいにく俺みたいな田舎者はどこのパーティからも門前払いされてしまう。
一人で冒険を始めてはみたが、やはりというか魔物が強すぎる。
とてもじゃないが、一人で冒険者業はこなせない。
その結果仲間を求めて、行きついたのがこの男というわけだ。
「こっちだ相棒」
「俺はお前の相棒じゃないぞ」
イツキに軽く半眼を向けられたが無視する。
どうやらまだ仲間として認められてないらしい。
でも、何だかんだ文句を言いながら一緒に冒険について来てはくれている。
いつの日かこいつの口から相棒だと言わせたいものだ。
空を見上げれれば太陽が雲の間からのぞき、その日光を町中に届けている。
だがその光を浴びても通りに積もった雪は溶かし切れていない。
今は冬。
大勢の人たちであふれかえる大通りを、男二人縫うように先へ進む。
防寒着を来た市民もいれば、重厚な装備で固められた人たちもいる。
人ごみの中を移動しながら、お祭り騒ぎのような喧騒がそこらじゅうで聞こえて来る。
「なんか、今日は一段と騒がしくないか?」
「なんだアルバート、新聞見てないのか?」
イツキは町の様子を気にせず歩き続ける。
「新聞?何が書いてあったらこんなに騒ぎになるんだ?」
「この町の神父がミネルヴァ教だったんだ」
「まじかよ…」
ミネルヴァ教とはこの世界中で嫌われている宗教だ。
何でも魔物との共生できるという、とんでもない考えを持っている団体だ。
「しかもその神父は今行方不明だと」
「そうなのか」
「そのせいでこの町のお偉いさん方が怒って、今は町中でミネルヴァ教とその神父を探ししてるんだよ」
ガシャン
とイツキが説明している中、目の前で三人の鎧を着た男たちが俺たちの前に立った。
「そこの二人止まれ」
鎧の隙間から見える服の色からしてこの町の衛兵だ。
「なんだ?」
「すまないが君たちの冒険証を見せてもらう」
「噂をすれば…」
俺たちは言われたとおりに持っているこの町で発行されている冒険証を出した。
「君たちの目的は?」
「あー、装備のメンテナンスに行こうとしてたんだ」
イツキは適当に答えた。
どうやら面倒ごとは避けたいと考えているらしい。
俺も黙ってうなずく。
「そうか、ではこの紙を持ってくれ」
そう言われて古い羊皮紙でできた紙を渡される。
「これって…」
「マジックアイテム、蛇の羊皮紙だ。嘘をつけばこの紙は黒色に染まる」
衛兵は説明しそして真剣な眼差しで俺たちを見た。
マジックアイテム
この世界で魔力を込めることで魔法を発動させるアイテムだ。
よく見ると羊皮紙の文字がうっすらと光っている。
すでにこの紙には魔法が作動している。
衛兵が言ったように嘘をつけば色が変わるのだろう。
「嘘偽りなく答えてくれ」
「ああ」
「分かった」
衛兵の真剣な態度に緊張が走る。
「君たちはミネルヴァ教に加担しているか?」
「いいえ」
「同じく」
羊皮紙を見ると色は変わらなかった。
「そうか、ならよし」
衛兵は俺たちが持っている蛇の羊皮紙を回収した。
「ここらでミネルヴァ教のやつらがいたら私たちに報告するように」
冒険証を返され最後に衛兵は俺たちに忠告した。
返された冒険証を見るとサインがしてあった。
恐らくこれはミネルヴァ教と関係がないことを示したサインなのだろう。
「まさか、蛇の羊皮紙を使ってまであぶりだしてるとはな」
曲がり角を曲がり衛兵たちが見えなくなったところでイツキはつぶやいた。
「あれって、金がかかるのか?」
「かなり値の張るアイテムだ。あんなにポンポン使えるほど安くはない」
「まじで探し回っているんだな」
「ああ、町のお偉いさん方は本気なんだろう」
だが俺達には関係ないことだ。
それより重要なことがある、もしかしたらミネルヴァ教よりやばい事になる事態だ。
二人で大通りから外れ路地裏に入る。
日が当たらず硬い雪が残る中細い道をどんどん進む。
「それにしても、ベートのやつよく盗んだよな」
「…俺もうかつだった」
路地裏ならこの話をしても聞かれることはないだろう。
「まさか、魔剣スルトが盗まれるなんてな」
イツキが盗まれてしまったアイテム。
魔剣スルト
先ほど衛兵たちが使っていた蛇の羊皮紙と同じマジックアイテムだ。
振れば炎が飛び出す魔剣だ。
そして魔力を込めた分だけその魔剣は力を増していく。
その最大火力は、この町のおよそ半分の建物を焼き尽くすとイツキは言った。
イツキもその威力から、世に出すことはばかられどこにも売ることなく倉庫の中に隠していたそうだ。
「倉庫の中には盗まれないよう探知結界を張ってたんだがな」
「そうなのか、ならどうやってあいつは盗んだんだ?」
「分からない…」
だが危険であることには変わらない。
一刻も早く魔剣を回収しなければならない。
「どこでベートを見つけたんだ?」
「馬車だ、あいつ本名使って馬車を雇っていやがった」
俺はベートがこの町から逃げ出す可能性を考え、知り合いの馬車の主人にベートのことを伝えておいた。
「今は馬車の主人が機転を利かせて、雪がひどくて馬車が動けないって言って、すぐ近くのレストランに止めているらしい」
「そうか、早くいかなければな」
俺たちは急いでベートのいるレストランへ向かった。
アルバートはこの一幕の主人公です。