第10話この世界の英雄
雪が枝に積もる森の中を走り続ける。
後ろでは鐘のなる音が響いている、託された魔剣をしっかりと俺は握った。
そして足跡を頼りに、雪道をたどり俺はイツキのもとへたどり着いた。
「イツキ!」
「ああ、アルバートか」
イツキの近くではアオイちゃんもいる無事なようだ。
「神父はどうした?」
「それなんだが…」
俺は神父との話をしたことをイツキにも話した。
当然魔剣のことも話した。
「それで俺はアオイちゃんをキャンプまで連れて行こうと思う」
「…」
「一緒に来てくれないか、イツキ」
イツキはアオイちゃんのフードを外した。
アオイちゃんはうつむいている、そしてフードから出た頭には獣耳が垂れ下がっていた。
「神父から聞いた、この子のこと」
「そうだったのか」
「最初は冗談だと思っていた。というかこの目で見てもまだ冗談にしか思えないな」
イツキはアオイちゃんの耳を触った。
「…!」
「まるで本物みたいだ」
「本物です…」
それから俺に顔向けたその表情は冷たい。
「俺は断わる」
「な!」
イツキはそういうとアオイちゃんを連れて町のほうへ歩き出した。
「おい!イツキ!」
「お前は本気で思っているのか?この子が世界平和につながると」
「それは…。いや、思っている」
俺は首を振り迷いなくイツキに答えた。
「この子が本当に魔物の子供で、魔物の声が聞こえると?」
「ああ、そうだ。だよなアオイちゃん」
俺がアオイちゃんのほうに向くとこくんと頷いた。
「馬鹿馬鹿しい、そんなことのためにキャンプへ行く理由はないだろ。もう魔剣は取り返したんだ。さっさとこの子を衛兵に連れ出せば、お前だって無罪になるかもしれないだろ」
「そんなことはできない!」
俺は魔剣を取り出した。
「あの神父は俺に託したんだ!この子を届けるようにって!そのためにあの男は囮にまでなったんだぞ!」
「アルバート情にほだされすぎだ」
イツキは冷めて目つきで俺のところへ手を出した。
「魔剣を返せ、これですべて解決だ」
「いいや!返さないね!」
俺は魔剣を持ったまま後ろに下がる。
「どうしたんだ?アルバートお前らしくもない」
「イツキ…お前にはわかるか今の状況が」
「どういうことだ?」
俺は魔剣をしっかり握りしめイツキににらみつけた。
「俺は昔から英雄譚が好きなんだ」
「なんだ急に?」
「英雄ってすごいよな、どんな困難もみんなあっという間に解決していくんだ」
それは俺が昔から持っていた疑問だった。
沢山の英雄譚どれもが輝かしい物語たちだった。
「なぁ?どうしてそんな英雄たちはみんな簡単に魔物を倒せるんだ?何も装備していなければゴブリン一匹でも殺されるかもしれないのにさ!」
「意味が分からないんだが」
「なぁ!なんでだと思う!?」
俺は気づいていた、いやずっと前から気づいていたあの英雄譚の正体に。
「みんな、異世界者だったからだ!」
今まで読んだ英雄譚にこの世界の人間はいなかった。
「だからなんの話なんだ」
「俺だって!英雄になりたいんだよ!」
その言葉にイツキは目を大きく開いた。
「みんなそうだ!英雄譚はみんな異世界から来た英雄が活躍する物語ばかりで、この世界に元からいた奴は英雄になんてなれないんだ!!」
「…」
「だからチャンスなんだよ!俺がこの世界で初めての英雄になれるかもしれない…」
英雄になりたい。
その思いから冒険者になった俺。
だが、現実はそう甘くはなかった、一回でも冒険に出かければわかる。
魔物の強さ、冒険の過酷さ、何より自分の弱さがわかる。
「イツキ、お前は俺に借りがあるよな」
「借り…?」
「ああ、いろいろ面倒を見たり、ベートを探す手伝いだってした」
そして俺は思いつく限りイツキにしてやったことを並びたてた。
「頼むよ、その借りと一生の頼みを使う。この子をキャンプまで一緒に送ってくれ」
「…」
情けない。
今自分が本当に情けなく感じた。
イツキがいないと俺はこの子をキャンプまで送れない。
俺は弱い、どれだけ背伸びしても異世界者のイツキにはかなわない。
だから、せめてこの子を送ってやりたい。
俺の願いでもあり、託された神父の願いでもある。
この世界の平和の為に
「…分かった」
俺は顔を上げてイツキを見た。
「連れていくことにする」
「本当か?」
「ああ、これで借りはチャラだ」
そういうとイツキはキャンプ地のほうへ歩き出した。
俺とアオイちゃんはその後を追った。




