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ママワーガ姫のあたって砕けないシリーズ

ママワーガ姫のあたって砕けない物語

作者: 緑憐

 私の名はママワーガ。

 レンガ国という小さな小さな国のお姫様である。

 さて、なぜそんな私が一人で今森をハイヒールで突っ走っているのか。

 それは…。



ブーンブーンブーンブーンブーンブーンブーンブーンブーンブーンブーンブーン!!!!!


 逃がすかっ!とでも言っているような目で追っかけてくる巨大なカブトムシと追いかけっこを、命をかけてしているからである。


○◁◁◁◁◁


 別に、悪気があったわけではないのだ。

 ただ、侍女のジュリオットの説教が怖くて、逃げて、森の中に入ったら、カブトムシとぶつかって…今に至るだけだから。

 わざとではない。決して。しかし…。


 (これは、死ぬかもしれん!)

 

 ブーンブンブンと、ブンブンブンブンないている巨大なカブトムシVS一国の姫の私。私の勝率を教えてもらいたいところである。

 賭け事なら、多分私に賭ける人はいないだろうとわかるほどに勝率は低そうだ。

 ギラギラしてる目が怖いのなんの、諦めないのなんのって。これはさ、私、食べられる一択でしょう、私が選択できない系の出来レースでしょう。


 私の人生、一体何なのよ!

 私誰かに恨まれるようなこと…………したわ。

 

 紅茶の茶葉、雑草に変えるとか、虫の触覚お茶に混ぜたりとか…。

 そうね、恨まれてもしょうがないわ。

 

 でもまあね…とにかく、当たって砕けろよ!ついでに過去の悪さも一緒にぶつけちゃえー!

 当たらないで砕けるなんてナンセンス!

 元悪役おバカちゃん姫の名にかけてぶつかってやるわ!巨大カブトムシ!見てなさい!

 カブトムシを川原に引き寄せて…。


「必殺!石投げの術!」


 パコーン!

 そうよね。石は軽いし的大きいし、そりゃあたるわよね。


 でも残念なことに…カブトムシはね、ノーダメージなのよ。


「本気を出すのよママワーガ!とにかく石を投げるわよ!!!」


 まずは自分に自信をつけて、全力アタック!!!ブロックなんてしない、失って惜しいものは命以外無いのだから。アタックして、アタックして、アタックするのよ!

 数打ちゃ当たる方式でいけば一回くらい急所に当たるはずなの。

 って、



 ブィーン!!!!!!!


 やった!当たった。危機一髪!さすが私!

 でもさ…


 (ん?ちょっとちょっと、様子が変じゃない?)


 ブィーンとひたすら暴れ続けるカブトムシ。

 

「どうしたの、あなた?巨大カブトムシちゃん?」


 命が安全になった今、恐れるものはなんにもない。

 そうね、私は現金。自分が安全だとわかればこうして相手を心配しだすのだから。

 

 急所と思われるところを、擦ってみた。汚れてるところは川の水で洗ってみた。


 嫌よ。私は死にたくないだけで、あなたに死んでほしくはないのよ。

 死んでほしくないと願うけど、このカブトムシが瀕死であることはすぐにわかった。 


 どうしたら…………。

 そうだ!


 この近くにいる虫たちを捕まえるのよ!

 

「逃げないで、そこの虫たち!巨大カブトムシちゃんのために尊い犠牲となりなさい!」


 ヒョイッと効果音が聞こえそうなほど、テンポよく捕まえていく。

 このくらいでいいでしょう。

 

 虫をハンカチに包んで、その上から川の水を含ませて…。



「巨大カブトムシちゃん、ちょっとお口をお開けなさい!お口に虫さんエキスを垂らしてあげるから!」 

 

 ブ、ブゥーン… 


「嫌がってんじゃないのよ!このカブ!!!!!」


ブィーン!!!!!!!!!!

 口が開いた!その瞬間にハンカチをギューッと絞り虫さんの純粋エキスをカブの口へと投入した。

 カブの声にならぬ悲鳴を聞くがそんなのお構いなし。第二弾いくわよ。 


「カブ!虫さんエキスは効くのよ、いろいろ、だから、早く口をお開けなさい!」


 キュー…………


「キューじゃないのよ〜!」


 全く困ったものだわ…このカブ。早くお飲み、のろいわ。私はチンタラするのが嫌いなの!


 …目薬として目に打ってやろうかしら。

 そうね、そうしましょう。体の中に入ったら一緒だし。


 しめしめ、ニヤける顔を必死で隠しながらカブへ登る私。




 を、止めてくるものが、来た。



「やめてあげてください姫さまーーー!」


 思わず振り向けば、黒い羽を持った、天使のような生物とぶつかった。


「何なのよあなた!痛いんだけど!」

 しかも虫さんエキス落としそうだったし。尊い犠牲をムダにしちゃうところだったじゃないの!!!


「いきなりぶつかってごめんなさい、でも、姫さま、カブさん嫌がってるよ。可哀想だから、その…」


「やめてくださいって?」


「はい……。」


「やめるわけ無いでしょうー!」


 ギイギャー!!!!!


「・・・泣いてしまったわ。この子。」


 あらやだどうしましょう?

 黒い天使?ちゃんのお世話なんかしたことないわ、私。

 まあでも…


「放っておいても、死にはしないわよね。」


 泣いて死ぬなんて聞いたことないし。大丈夫でしょう。

 とにかく今は瀕死のカブを助けなきゃ。やっとのことでカブを登りきると風が吹く。


「助太刀いたします。」


 すっと、羽をはばたかせやってきたのは白い羽をもつ見た目完全天使な生物だった。

 今日はやけに天使っぽい奴との遭遇率が高いなと思うものの助太刀はありがたい。


「じゃあ貴方はカブが目を閉じないように瞼、抑えていてもらえるかしら?」

「わかりました姫。」

 

 いいわ、実にいい助っ人。言うこと聞くし。

 今だにぎゃんぎゃん言っているあのことは大違い。


「もうひと搾りしたらどうですか?」

「そうね、そうしましょう。」


 気も合うみたいだし。


「姫様、カブさんに虫さんエキスが効いてきたようです、あとは寝かせれば回復すると思います。」

「そうね、じゃあ休憩にしましょうか。」


 勘もいいし。




✾✾✾


「そうなの、あなた達二人、悪魔と天使なの。」

「そうです。」

「そうでしゅ。」


 …………。衝撃が走ったわ、身体に。


「えっと…どちらがどっちだったかしら?」


「ボクがマウで悪魔でしゅ。」

「ワタシがレイで天使です。」


 …………………………、…。


 わかる?

 あの泣き虫が悪魔で、ちょっとSな感じがするしっかり者が天使なのよ。

 信じられないわ。


「姫様、ワタシたちを家臣にしていただけませんでしょうか?」

  家臣?

 

「ボクたち、カブさんと戦って、勝って、カブさんを手当する姫様に、一目惚れしたんでしゅ!」

「姫様は天使と悪魔が使えるに値する王の器を持つ御方!是非とも使えさせてください!」

 

 キラキラとした瞳で、

  


「………。いきなりそう言われましてもね…。」


 …白いレイはいいとしても、黒いマウは…一体役に立つのかしら?泣いてるところしか見ていないのだけど、私。



「姫様、何を悩んでいらっしゃるのですか?」

「まあ、レイ。」


 音を立てずにこちらまでやって来た奴は只者ではないと改めて思う、天使よ。


「マウのことですか?」


「え、ええ。」


 当ててきた。


「そうですね、姫様はマウの泣いている姿しか見ていらっしゃいませんからね。…ですが、マウは使えますよ姫様。」


「マウが、使える?」


「ええ、マウはあの様に泣き虫ですが、仕事はできる奴なのです。実は、私達天界で過ごす者たちは植物や動物、ありとあらゆるモノの心を読むことができるのですが、マウは、こころを読んだ上で、自分の考えなどを伝えることも可能なのです。いわゆる、テレパシーというものが。」


「テレパシー…。」


 何その素敵な響き。テレパシー。

 


「つまり、植物などとの対話が可能ということでございます。」


 対話が可能…。ということは、


「交渉役にもってこいじゃないの。」



「はい、そうでございます。」


そうか、そうなのね。



「あの子も使い物になるってわけね。」


「はい。」



レイと私は瞳をあわせ、二人してニヤッと効果音が付きそうなほどに口角を上げた。




 




数日後。


私は侍女のジュリオットを連れてまたあの森へやって来た。



「姫様ー!」

「先にご用意しておきました。」


マウとレイがカブを連れて来たらしい。


巨大なカブがまるで森の主とでも言うかのように居座っていた。



「ブーンブーンッ!」

「ありがとう、だって。姫様。」


「そう。」



ちょっとツンとした態度を取りながら、あの空からキターズが準備してくれたティーポットを手に取って、美しい細工の施されたティーカップに紅茶を淹れていく。


「ママワーガ様、私がやりますので。」

「良いのよ、私にやらせて。」


そう、これは儀式なのだから。

カブのお皿にもそそぎ終わり、マウとレイ、カブ、そしてジュリオットの前へと躍りでる。



「さあ、飲みましょう!これが私達が仲間の証よ!これから先、私と同じ道を歩みたいと思う者は、この紅茶を飲みなさい!」



一人と悪魔と天使とカブトムシが紅茶の前へとやってきて、それぞれの飲み物を見つめる。



「私も飲むわ。後に続きなさいっ!」



ゴクッ!


私の喉が嚥下するのを確認したあと皆が口に含んで目を開く。



「虫さんエキス純度100%。これで、我々も健康体ね!」





(ウッエエエエエエエエエエッ!ゲキマズ!)


姫以外の気持ちはたった今一つになった。





これは、歴史を大きく変えるママワーガ姫の少女時代。


そして、まだ彼女の物語の序章である。


一人と悪魔と天使と一匹は後に"姫の四忠"と言われることになり、レンガ国の運命を操ることになるとはまだ、誰も知らない。



読了ありがとうございます。

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