3、可愛いって叫びたくなった(キリッ)
次の日
「おはようございますエーデルシュタインさん」
「………やめろ」
「名前呼ばれたくない気持ちは分からなくもないですが、それはもう貴方の名付け親を恨んで下さい。私のせいじゃないです」
「………」
不服そうな顔をしている。案内を頼んだのはそちら側である。私は悪くない。うん。
(何故ってそれは、⦅エーデル=高貴な⦆⦅シュタイン=石⦆つまり意味が⦅宝石⦆だからなのよね。そりゃあ私の名前もお母さんの頭文字と生まれの月でマーチって安易に付けられているけど、流石に本人もまわりも呼びにくい名前って……宝石って……キラキラネームだなぁ)
「なんかこう、ひねりを効かせた愛称とか無かったんですか」
「何故昨日会ったばかりの奴に愛称を言われないといけないんだ」
(もっともな事だけれども)
「エーデルシュタインさんって呼び続けてイイヨってことですかね」
「………」
(今までどうやって生きてきたんだ、このイケメン……。んーーー……)
「このままだと案内に行けそうにないので、じゃあ、私が今から適当に愛称作るので、ピンときたもの有ったらソレを教えてください。その名で呼びます」
「……いいだろう」
「エーデル、エド、エディ、シュタイン、デル、エシュタ、デルシュ、シュティ、エーデ、アデル、んーーー…もう思い付かないなぁ……」
(彼の反応がある名前が一個合った。そして自分で色々考えたけどこのエルフ様っぽい感じの見た目の彼には、どれもこれも合わない気がするんだよねぇ、て言うかエルフ様にしか見えない。エルフ様って呼びたい。ダメかな)
「デルがいい」
(あれっ反応した方の愛称じゃないんだ?)
「では、改めてデルさん。今日はよろしくおねがいします。」
(知識で知ってるだけで、もしかしたら、万が一にも、奇跡が起きてエルフ様かもしれないし!この出会い逃すわけには行きません!!耳が完全に丸型で長くないし、変なオーラだけど!!)
マーチは密かに燃えていた
「そういえば昨日はどこに泊まったんですか。まさかさっきの場所で野宿……」
「…」
「あーもう、やっぱり。昨日私に気を使ってくれたみたいですけど、町の案内したら、宿に滞在してください。あの場所崖が近くて危ないし、公園とか他の場所でもそうですけど、建物の外では長い時間同じ場所に滞在してる気配があると、町の警備の人が見廻りにくるんで、捕まりますよ」
「すまない。分かった」
(むしろ昨日捕まらなかった奇跡に感謝します神様)
マーチは心の中で神を崇め讃えた
「いいですけど、案内もなにも、お金とかありますか?」
「それは大丈夫だ」
(大丈夫なのになぜ野宿……)
デルのズボンのポケットから出てきた硬貨は数枚しかないのに、かなりの金額だった。
「せっかくだから案内してもらってからでもいいかと思ってな」
(うわぁ価値の高いやつそんなポケットに、でもこの硬貨って使えるけど、確か……今は発行されてなかったよね。私が生まれた頃ぐらいに新硬貨が発行されたとかで……今はほとんどその新しい硬貨が主流だから、質屋とかコインマニアとかが持ってるんじゃなかったっけ)
「デルさんってコインマニアですか?」
「まさか使えないのか」
「使えますけど、昔の硬貨だからそのまま使うより売った方が儲かりますよ」
「は?」
「こっちの一番安い方の金貨ですけどね、昔は1000ハッズの価値しかなかったんですけど、マニアが5000ハッズ出して買い取ります」
「せっかくだ、先ずは売りに行こう」
デルは良いことを聞いたとニヤリとしている
「とてもいい判断だと思います」
(但し、だいぶ私のエルフ様像とはかけ離れてきているけど………そのニヤリ格好いいな!あぁぁぁぁデルさんエルフ様だったらいいのになぁぁぁぁぁぁ!!!)
数十分後
「まいどありー♪」
景気のいいオジサンの声がお店の前まで響き渡る。何故ってさっきの硬貨を売ったからだ。絶対儲かるコインを手に入れて店主のオジサンもウハウハ。デルも持ち金が増えてホクホク。私はどちらにも感謝されニマニマ。これこそ、WINWINとか言うやつである。
「じゃあまず宿屋に部屋だけでも借りに」
「ダメです、デルさん!まだ早い時間すぎます!」
「普通早く探した方がいい宿屋に泊まれるだろう。何故ダメなんだ」
「デルさんは冒険者関係じゃないから知らないかもですが、朝の今の時間は人が居なさそうな宿もダンジョンとかに一時的に出てしまっているだけで、満室な宿屋が多いんです。前日ギリギリまで呑み明かしている冒険者とかはまだ寝こけているでしょうし、一番良いのは昼過ぎです。」
「……へえ」
思っていたより色々詳しいんだな、と顔の横に文字が書いてあるように見えなくもない。オイこらイケメン失礼よ
「街のこと詳しいって言ったじゃないですか!それより、お腹空きませんか。この辺り美味しい屋台多い場所なんですよー並ぶのは嫌いですか?もし並びたくないなら、隠れた名店の屋台があってですね!!」
「意識したらお腹空くもんだな…別に並んでも並ばなくてもなんでもいい」
(昨日はちゃんと食べたんだろうか?でも、案内断ったのはデルさん自身だし……)
「なんでもが一番困るんですよーーではでは定番の串肉の屋台に行きますか!」
(あっでもこのイケメン立ち食いさせて大丈夫かな。物語みたいに、実は王子で御付きの人が探してて、食べてる所見られて王子になんてことをさせてるんですか!!的な展開とか……………いや、無いな。イケメンはイケメンだけど、エルフ様っぽい顔立ちしてらっしゃるけど、そういう感じじゃない。うん。無いな。でも、待って!もしエルフ様だったら、立ち食い…立ち食い……ど、どうしようぅぅぅぅ)
「あっでも、屋台じゃなくても、食事処でイスに座ってゆっくり食事も出来ますけど、どうします?」
「どっちが近い?」
「串肉ですね」
「そっちで構わん」
「それってやっぱりどっちでもいいから?」
「それもあるが」
くぅ。とイケメンのお腹辺りから、イケメンが出さなそうな可愛い腹の音が聞こえた。
「さっさと食べたい」
昨日の厳しそうな表情は何処へやら、鳴ってしまった事に少し顔を赤くしている彼がいた
冒険者の国なので硬貨の単位は⦅ハッズ=運⦆をあてました。コインの裏表で賭けをよくしていた人が多かったから…ていう裏話。ちなみに1000ハッズを日本円に直すと10000円です。デルさんの金貨、五倍ですよ。そりゃニヤリとしちゃうでしょ?