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2、貴方はだぁれ?

マーチはテンションが上がりきっていた。なので


(え?夢?夢じゃないわよねっよし!ほっぺた痛い!めっちゃ痛い!)


と、夢では無い事を確かめるべく、普通の人が頬をツネって確認するところを両手のひらでバチバチと叩いている。テンションのなせる技である。テンションは上がりきっていたが、頬をはたいたのもあってか、一周まわって頭は冷静だった


(夢じゃないなら…是非ともお顔を拝見せねば!)


まわりは木々に囲まれている林地帯だ。隠れる所はいっぱいある。じわりじわりと、顔の見える位置に回り込む。木々に囲まれて(たたず)むエルフ様などマーチのテンションを底上げするご褒美に過ぎない。


(エルフ様エルフ様エルフ様エルフ様エルフ様エロフ様エルフ様エルフ様エルフ様エルフ様ドキドキワクワクドキドキワクワクドキドキワクワクドキドキワクワクドキドキワクワク)


とうとう顔の見える位置に到達した、が。


(ありゃっ)


顔立ちはとても綺麗で後ろから見た通り、スラッとしていて男前である。そしてエルフに似ている、が、耳が長くない。


(エルフ様じゃなかった。しかもイケメンだけど厳しそうな顔立ちしていらっしゃる、ていうか近づいて分かったけど、なんかオーラ黒い。耳が長ければエルフだったのに…あの人はあの黒いオーラは何だろう?)


彼の紫色の目からマーチは目が離せない。


(よくよく見てみるとあの目の奥に聖なる力を感じるような………?)


ちょっと離れ過ぎていて何とも言いがたいがそれでもかすかに感じたのだ。今まで冒険者ギルドにて仕事を手伝っている際に色々な種族、色々な強者つわもののオーラ、買い取りに出された魔力の質の見分け方、職員のみんながとにかく色々教えてくれるので、とことん吸収し覚えたマーチだ。


まあオーラ自体視える人は居なかったのだが、古参のギルド職員が占いのたぐいだと教えてくれた。とても助かった思い出である。


(完全な人の形してるけど、ギルマスの娘の私にはわかる。人外だわ。でも…これは?黒いオーラと中に見える聖なるような力をもち混ざっている不思議なオーラ。完全な人の形になれて、混沌と清浄を一緒に合わせもつ変身の出来る魔物なんて居たかしら)


(私の知っている限り…悪魔だってエルフ様だって、耳は完全に丸く成りきらない。どんなに変化しても人間よりも耳が長いのに)


考え事をしながら彼を見続け過ぎたのだろう。紫の鋭い目がガッツリマーチの目を捕らえた。そうそれはもう、ギロリと。


(しまった!居るのばれた……あばばばばば)


「出てこい」


「はいっ」


(ばれてしまっては、仕方ない。よし!開き直って聞くこと聞こう!)


レッツ!ポジティブシンキング!である。


「はい!はい!出てきました、聞いて良いですか、お兄さんはエルフ様ですか?耳は丸型だけどエルフ様ですか?そうだったらいいなぁ、エルフ様ですかね、むしろエルフ様って言ってください、ねぇねぇお兄さんはエルフ様ですか?」


一気にまくし立てた。それはもうひと声で。萌えのなせる肺活量ハイパワーとでも言うべきか。それを聞いた彼は口をあんぐりしつつ変なものを見るような目で、


「は?意味がわからん、なんだキサマ」


と彼は言うのだが、あっけらかんとさっきの(まく)し立てた口調のまま、


「ここの土地の持ち主のギルドマスターの娘のマーチって言う者です」


と、言うのだった。正確にいうと土地の持ち主ではなく、単に管理を任されているだけなのだが、正確だろうとなかろうと今はどうでもいい情報に過ぎない。“いつもの知っている土地に知らない者が居た事を発見した”という、ことがやんわりとでいいので彼に伝わればいいのだ。伝わっただろうか?いまいち彼の反応が薄い。


エルフ様にしろ、それ以外にしろ、なにか変わった力を持っていることは確かだ。聞きたい。聞かなければ。でもまだソコを、力についてを聞くには早い。


「貴方の名前は?」


自分で発言しておきながら、身震いに襲われた。怖いからではない。空気が変わった気がした、それだけである。改めて彼の目をじっくり見ると、中央の方は赤い色をしている。紫から赤へ変化する際少しオレンジ色っぽくどちらの色も薄くなっている部分があるのだがその辺りは、夕焼けの光彩に近い。


(なにかが始まる予感がする。)


オーラはみえるがマーチに占術は全く扱えない、しかし、聞いてしまった瞬間に感じてしまったのだから、仕方ない。


「俺の名前」


「貴方の名前」


「………」


(ごくり…時が止まった!?あれぇぇ??)


別に時が止まったわけではない。単なる沈黙が流れているだけである。


「何故言わなければいけない」


「えぇぇぇぇぇ、言う流れだったじゃん!言う流れ!ですよね!?あれぇーー!?」


流れは止まっていたが力押しである。そう言って彼の顔を見ているが本気で名前を言う気がなさそうだ。どうしたものか。別に言葉を返さないわけではない。


「あの、貴方はどうしてこんなところにいるんですか?さっきも言った通りここはギルドマスターの持ちものですよ。もし道に迷っているなら、お送りしますし、地元民なので行きたい所もいくらでも案内できますよ?」


「迷っているわけではない、が、そうか案内か」


悩みつつちらりと見るサマは値踏みされているようにも見えた。


(あれっ思ったより食い付きいいわね。あっしまった案内してたら、夜ご飯の支度………うーん、まあいいや、今夜はさっきの仕返しに手抜き料理にしちゃいましょう!全面的にお父さんが悪い。)


「実はさっきこの町に来たばかりで色々知りたい。観光とかな。案内頼めるか?」


「ええ、良いですよ。じゃあ、コッチです!」


とギルドの表口(おもてぐち)の方向を指差して誘導しようとした。


「だけどもそろそろ暗くなる時刻が近いだろう。明日の朝から頼めないか。待ち合わせはココで。」


「明日ですか、特に予定もないので私は大丈夫ですよ。でも今現在、不便じゃないですか、軽くでも…」


「明日でいい」


しっかりと断られた。がっかりだ。


「ハイ。明日ココで待ち合わせですね。」


(でも今の会話で少し分かった。この町に来たばかりで冒険者ギルドの裏手だなんて)


「で、貴方のお名前は?」


ニッコリしながら、名前聞かないと案内出来ませんよーな空気を醸し出す。


『マーチは明るい、めげない、つっ(ぱし)る。良いところでもあり、悪いところでもあるなぁ』


お父さんが昼間ギルドでいっていた声が今、聞こえた気がした。そしてやはり手抜き料理にしようと決意したのだった。


お読み頂きありがとうございます。不定期更新です。

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