招待状はとびきりの赤
私もはじめは招待状なんか持ってなかったんです。
気が付いたら「そこ」にいた、というか。
もちろん追い返されましたよ。
「そこ」の主人に?
いいえ、あれは白い木だったわ。
幹も枝も葉も花も実も、ぜんぶ白い、意地悪な木。
通せんぼして、嫌なやつ。
でも帰り道もわからないし、あたりは真っ暗なのに明りももってないし。途方に暮れてしまったんです。
そうしたら「そこ」からおいしそうな匂いがして、私はなんだかとっても悲しくなって、ふらふらと小さな花が咲く生け垣をのぞいたの。
窓の中でとびきりきれいな女の人がせっせとケーキを焼いていたわ。
黒いシフォンのドレスと淡く輝く金色の長い髪。
彼女の動く姿はひとつの踊りのようで、私も覚えたばかりのステップを踏んだの。
あら、おかしいかしら。そうしているとひとりじゃない気がしたんですもの。
やっぱり変だったのかしらね。
そのとき私の頭の上で声がしたんです。
「彼女は魔女さ。きみ、招待状をもってないの?」
姿の見えない声にそうだと返事をすると、左耳にズキリと痛みが走ったの。
食べられちゃったのよ。
耳じゃありませんよ。ピアス、曾祖母から誕生日にもらったお気に入りのピアスでした。
とっても綺麗な一粒のカーマイン。
ああ。でも耳たぶも少し食べられたかも。あのこちょっぴり食いしん坊なのよね。
招待状はそうして手に入れたんですよ。
お茶会はそれは素晴らしいものでした。
甘いお菓子とアンティークカプチーノ。気の置けない友人たち。秘密の恋の話。
夢みたいな永遠の時間。
私はたった一度しか行けなかったけど、チャンスがあればまた行きたいと思いますよ。
招待状がないのに?
いいえ。
だって私にはまだ右耳のピアスがあるもの。