表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/17

招待状はとびきりの赤

 私もはじめは招待状なんか持ってなかったんです。

 気が付いたら「そこ」にいた、というか。

 もちろん追い返されましたよ。

 「そこ」の主人に?

 いいえ、あれは白い木だったわ。

 幹も枝も葉も花も実も、ぜんぶ白い、意地悪な木。

 通せんぼして、嫌なやつ。

 でも帰り道もわからないし、あたりは真っ暗なのに明りももってないし。途方に暮れてしまったんです。

 そうしたら「そこ」からおいしそうな匂いがして、私はなんだかとっても悲しくなって、ふらふらと小さな花が咲く生け垣をのぞいたの。

 窓の中でとびきりきれいな女の人がせっせとケーキを焼いていたわ。

 黒いシフォンのドレスと淡く輝く金色の長い髪。

 彼女の動く姿はひとつの踊りのようで、私も覚えたばかりのステップを踏んだの。

 あら、おかしいかしら。そうしているとひとりじゃない気がしたんですもの。

 やっぱり変だったのかしらね。

 そのとき私の頭の上で声がしたんです。


「彼女は魔女さ。きみ、招待状をもってないの?」


 姿の見えない声にそうだと返事をすると、左耳にズキリと痛みが走ったの。

 食べられちゃったのよ。

 耳じゃありませんよ。ピアス、曾祖母から誕生日にもらったお気に入りのピアスでした。

 とっても綺麗な一粒のカーマイン。

 ああ。でも耳たぶも少し食べられたかも。あのこちょっぴり食いしん坊なのよね。

 招待状はそうして手に入れたんですよ。


 お茶会はそれは素晴らしいものでした。

 甘いお菓子とアンティークカプチーノ。気の置けない友人たち。秘密の恋の話。

 夢みたいな永遠の時間。

 私はたった一度しか行けなかったけど、チャンスがあればまた行きたいと思いますよ。

 招待状がないのに?


 いいえ。

 だって私にはまだ右耳のピアスがあるもの。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ