プロローグ3ー俺の仕事
前話と視点が変わります。
「……行ったか。無事に着くといいなぁ」
テュルク・ノウリッジを乗せたローザの分身体を見送る。まさか彼女の兄が盗賊にまで身を落としているとは思わなかったから、少し驚いた。でも、手紙を読んだ後のあの様子なら、セルフィちゃんの元に返しても問題なさそうだ。
彼が去った方角から、遅れて聞こえてくる叫び声に苦笑する。
「ま、それが俺からのお灸ってことで。セルフィちゃんを泣かせた罰だ。本当に危なくなったらローザが助けてくれるだろ」
なにせうちのローザは優秀だからな。
俺を乗せてスピードを出す時は【風圧調整】スキルで風圧を軽減してくれるし、どんな道でも【悪路走行】スキルと【振動吸収】スキルで快適走行だ。【防壁】スキルと【魔力障壁】スキルの見えないバリアにより障害物もなんのその。俺の疲労や怪我も【回復魔法】スキルでたちまち癒してくれちゃう。チャリなのに魔法て。
チャリの域を越えている高スペック二輪車、それが俺の愛車、ローザ。もはやチャリではない別の何かである。
もしテュルクがガチで死にそうになったら、きっとローザが持ち前のスキルでなんとかするはずだ。分身体でも能力の減衰とかないし。間違っても彼を死なせることはないだろう。恐怖でちょびっと精神を病んじゃうかもしれないけど。その辺のケアは優しい妹さんに丸投げで。
しかしまぁ、自分の愛車とはいえ、ローザさんマジチートチャリ。
もう俺こいつなしじゃ生きていけないぜ。
「さって、じゃあ俺らも帰るか」
フレームを傾けて俺に擦り寄ってくるローザのライトを撫でると、頭の中に無機質な女の声が響く。
『かしこまりましタ。御主人様』
ローザは【念話】スキルも習得しており、意思疎通も可能だったりする。まぁ、簡単な受け応えをするだけで雑談とかはしてくれないんだけどな。
「帰りはのんびり漕いで行くわ。自動操縦オフで」
『了解しましタ。アクティブスキル【自動操縦】を停止しまス』
ローザに跨り、ペダルに足をかけたところで、背後に地面を擦るような音が聴こえて振り返る。
「待、待ち、ぐっ……待ち、なさい……」
「お、おー。タフだな、お前……」
そこには、ボロボロの体でなお俺たちに刀を向けるあの少女が居た。チートな存在のローザとあれだけの時間やりあって意識を保っている人間は初めてだ。
それに加えて、なんというか……衣服の破れ方がかなり際どい。上は裾が破けてへそとくびれが見え、肩口からはブラ紐が覗いてるし、下はショートパンツに水平な亀裂が入って、隙間からその奥の白い布地がこんにちはしてる。やべぇ。エロい。肩で息をしてるのが余計に扇情的だ。
けど、肌のところどころに擦り傷も見受けられてちょっと痛々しくもある。
「んん、俺が訊くのもアレだけど、体大丈夫か?」
「チッ!」
「oh……」
すごい嫌そうな顔で舌打ちされた。そりゃそうだよね。仕事の邪魔されたんだから。ま、向こうは向こうでこっちの仕事を邪魔しようとしてたから、おあいこだろ。
それでも美少女に敵意丸出しで睨まれるって、心にクルものがあるなぁ……。
しばらく睨み合っていると、息が整ってきたらしい少女が肩をすくめ、向けていた刀を下ろした。
「……あの盗賊はどこへやったの?」
「テュルクのことなら、さっきの手紙の依頼主の元に送ったぞ」
「送った? 運び屋が? その乗り物で、ということ? ふうん、そう……」
「なんだ、追いかけるつもりなのか? もしそうなら悪いが足止めさせてもらうぞ」
なぜだか知らんけどこの子、やけにテュルクに突っかかってたからな。しかも、生身のくせにローザとほぼ同等の速さだし。追いかけられたら追いつかれないまでも、町まで追跡はされちゃいそうな気がする。
それなら阻止しないとな。セルフィちゃんには世話になったし、こんな厄介な存在を兄とまとめて送り届けるわけにはいかない。
「冗談。割りに合わない。それに、別にあんな小物なら放っておいても問題ないわ」
と思いきや、少女はゆるやかに首を振った。
んんん? なんかさっきまでと打って変わってしおらしい態度だ。調子狂うな。
「あなたのほうこそ、あんな男によくそこまでする気になるわね。相手は薄汚い盗賊よ?」
「あー、まぁなー」
盗賊って現代日本で言うと連続強盗殺人犯って感じかな? 盗賊団なら連続強盗殺人グループ。すげー剣呑な響き。元の世界なら無期懲役が妥当なくらい罪は重いはずだ。平和を愛する日本人としては許しがたいね。
「思うところがないわけじゃないけど……」
「けど?」
テュルクに関しては、たしかに肩を持つのは気が引ける。だが、彼の妹さんーーセルフィちゃんには、恩がある。いや、恩どころじゃない。大恩だ。
あれは……そう。大学4年生の夏休みを目一杯使って実行した、全国自転車行脚の旅の最終日のことだった。
俺こと来間輪太郎は、最後の難関となりそうな長い長い登り坂にアタックをかけ、ついに登り切ったところで、達成感に全身を震わせながら道路の脇に倒れ込んだ。いや、実際は足の筋肉が攣りそうで、自転車を降りるや否や産まれたての仔鹿のようにばったりと倒れたんだけど。まさかそのまま眠ってしまうとは思わなかった。
そしてここからが本題。なぜか目が覚めたら見知らぬ山中に居た。岩肌の上で目覚めて、周りに舗装……というか人工物のひとつも見当たらない。見下ろす風景に見覚えなし。そんで極め付けは遠くの空を飛ぶ火吹き竜。
呆然としたわ。
これが噂の異世界転移ってやつか! と興奮気味な感想を持ったのも最初だけ。徐々に気持ちが落ち着いてきたら、今度は自分の置かれた状況が詰みに近いと気付いて焦った。
だって、装備は身に付けているサイクルウェアとヘルメットとサングラス。側には一緒に転移したらしい愛車のみ。非常食やら小物やらを詰めてた荷物は全部どっか行ったんだもん。
無理ゲーすぎだろ。
とにかく人里を探さなければと動き出し、山を降りてる途中に狼みたいな魔物に襲われ、ガッタガタの土の上を必死にチャリ漕いで逃げて、ようやく麓に降りられたと思ったら鬱蒼とした森が広がってて、また魔物に襲われたけどローザが覚醒してスキルで撃退してくれて、けどサバイバルの経験もないから食糧を確保できず。
その結果、あてもなく森の中を彷徨って……俺は異世界に飛ばされて早々、餓死寸前になった。
セルフィちゃんは、そんな状態の俺を見つけてくれた人だ。なんでも、その日は修道院の収入源の一部となる薬草を摘みにたまたま森に来ていたという。
あの時セルフィちゃんが食わせてくれた干し肉の味を、俺は一生忘れない。
「あいつの妹さんに世話になったんだわ。そりゃもう、返しきれんほどの恩をうけちまった」
セルフィちゃんに命を拾われてから、しばらく彼女の居る修道院でお世話になった後、運び屋になるために大きな運び屋ギルドの拠点がある都市に旅立った。というのも、どうにもローザの経験値?的なものは走行距離で溜まるらしく、移動しつつ金も稼げる運び屋がうってつけじゃないかと考えたから。
元の世界でメッセンジャーの経験もあったし、チャリに乗るのも好きだ。運び屋になるのは一石何鳥もの思いつきだったわけだ。
ローザの能力を伸ばすのは急務だったし。なんてったって、俺、ノーチートの普通人だもの。存在がチートなローザの護衛がないとただのヒョロ男だもの。あ、足には多少筋肉ついてるけどな!
その運び屋になるという試みは当たり、順調にローザを育成できた。で、ローザがかなり強くなってきた頃に、久々にセルフィちゃんの顔を見に行ったわけだ。すると、隣町の運び屋ギルドで揉めてるところを発見、ギルドが受理しないなら俺が受ける、という流れで事ここに至る。
そんな訳で、命の大恩人の彼女が兄に手紙を届けてほしいと言うなら、俺には届ける義務がある。彼女が兄に会いたいと言ったなら、会わせるのが俺の使命であるわけだ。
「それに、あいつにも情状酌量の余地はあるかな、ってね」
「……あるかしら?」
「あるさ」
胡乱げな少女に、胸を張って返す。
あるさ、そりゃ。超優しい妹さんが居るってだけでな。
……それに、もしもあいつがあまりに人の道を踏み外しているようだったら、彼女の元に送る選択肢は無かった。そうしたのは、あいつが見せた涙を信じたからに他ならない。
「理解しがたいわね」
「別に理解を求めてる訳じゃないから結構だ」
少女は肩を落とし、首を振りながら溜め息を吐く。いつの間にかその左手に持っていた物騒な刀が忽然と姿を消していた。手品かな?
「ま、あの男についてはどうでもいいわ。それよりあなた、何者?」
「何者って言われても、見ての通りただの運び屋としか」
「あなたのどこをどう見ればただの運び屋なのよ」
「よく言われる」
「……そのおかしな乗り物もよ。それは何? 一体、あなたは何なの?」
何何と喧しいなおい。
「別に隠すような事でもないが……本当のところを言ったって信じないだろうし、お前とはどうせこれっきりだろ」
異世界から来ましたー、チャリがチート能力授かりましたー、という説明で理解してくれるなら楽だけど、どうせ一から十まで根掘り葉掘り細かく説明させられるだろう。で、そこまでして信じてもらえる可能性もたぶん低い。そんな骨折り損はしない。ましてや、相手はさっき確実に殺意持って俺に斬りかかってきたやつだ。
「悪いが詮索は遠慮してくれ。それに、俺はしがない運び屋、対するお前は傭兵。今日みたいな滅多なことでもなければ道は交わらないさ」
揉め事はあまり好きじゃないしな。血生臭い現場はもうこりごりだ。
俺が「今後はお互い不干渉でいこう」と告げると、少女は眉間に皺を寄せ、不愉快そうに顔を歪めた。美少女が台無しだ。
しかし、いくら美少女でも相手は刀を振り回す危険人物である。しかも彼女はローザと同等の速さで動ける。こいつ本当に人間なのかよ。こえーわ。
これ以上関わり合いになる前に、さっさと逃げよう。
「じゃあな。もう二度と会わないことを祈るよ」
俺は少女から顔を背け、ローザのペダルに足をかけた。
足に力を込め、ペダルを回して走り出す。逃げるが勝ちだ。
草が刈り取られただけの、土が剥き出しになっている街道を往く。だが、ローザの【振動吸収】スキルと【悪路走行】スキルのおかげで平坦なアスファルトの上を走っているような感覚だ。緩やかに頰に当たる風が心地いい。
「はー……どっと疲れたな。あ、ローザ、今日はご苦労さん。テュルクの位置、教えてくれて助かったよ。間一髪だったけど」
テュルクの居場所は、ローザの【探知】スキルで見つけた。実は最初はのんびり向かってたんだけど、『目標の周囲の生体反応に消失あリ』というローザの報告を受けて、【自動操縦】+【疾走】+その他いろんなスキルを駆使した全速力によって、ぎりぎりで間に合ったというのが実際の所だったりする。
辿り着いた時は肝を冷やしたなー。なんで殺されそうになってんだよ、とツッコミが出そうになった。
「【探知】スキルはかなり使えるな。名前と所縁の品があれば居場所が分かるって、運び屋にとっちゃ垂涎ものだし」
テュルクの名前、昔着ていた服の切れ端。どちらもセルフィちゃんが快く提供してくれたおかげですんなり居場所が特定できた。
「へぇ。その乗り物、そんな便利な機能もあるのね」
「おう。ローザは万能チートマシンだか……ら……って」
「ちーと? また耳慣れない言葉ね。興味深いわ」
「ふぁっ!? お、おま、お前!」
あまりに自然に話しかけられたから、つい言葉を返してしまった。我に返って声の方を見ると、置き去りにしたはずのあの少女が俺たちと並走していた。いやいや、今結構なスピードで走ってるんだけど。なんでこの女涼しい顔でついてこれてんの? マジで人間か?
「あら? 驚かせてしまったかしら?」
しかも勝ち誇るような得意げな表情で。
うぜぇ。
「おいこら、ついてくんな!」
「あら? ついてきているのはあなたのほうでしょう? なんという偶然かしら。目的の方角が一緒みたいね。あなたがどうしてもというのなら同道してあげなくもないわよ?」
「結構だ!」
「あら、残念ね。でもね、考えてみてほしいの、ただの運び屋さん。あなたが本当にただの運び屋であり、そうであることに幾分か誇りを持っているのだとしたら……ある意味、私はあなたにとってとても重要な人物となっているわ。
いえ、いいえ。決して疑っているわけではないのよ?手紙を届けることを妨害されて激昂するあなたなら、運び屋であることに当然、誇りを持っていることでしょう。えぇ、そこは疑ってないわ。けれど、だからこそあなたは私の存在を無視するわけにはいかないはずよ。だって、それこそ、私の気分次第であなたの今後の身の振り方が変わってしまうくらいに、私はあなたにとって重要な情報を知ってしまったのだから。
……ねぇ、人を運んだ運び屋さん」
「ぐっ……!」
うっわ、忘れてた!
そう、運び屋ギルドは『人を運ぶこと』を禁じている。それは傭兵や冒険者など、荒事を生業にする者たちの仕事だ。この世界のギルド組織というのは、存外に領分を侵される事を厭う。
罰則についてはそこまで詳しく知らないけど、もしもギルドに告げ口でもされたなら、最悪除名処分もあり得るんじゃなかろうか。
完全に弱み握られてるじゃねぇか俺!
「お前、いい性格してるな……」
「セドナ、よ。『お前』なんて呼称はやめてね? 冷たくされたら私、少しばかり口が軽くなってしまいそうだわ」
「セドナ、さん」
「あら。さん、だなんて。他人行儀は良くないわよ? ……あぁそういえば、この先にあるヴェルトの街の運び屋ギルドは、結構規模が大きいわよね。少しお邪魔してみようかしら?」
「セドナ。望みはなんだ?」
脅迫を匂わせる物言いに、眉間に力が入る。
俺の表情を見たセドナは、愉快そうに笑った。
「ふふっ。そんな恐い声出さないでよ。ちょっとした冗談よ。ただ、黙っているかわりにお願いがあるってだけ」
「だからそのお願いってのは何なんだ」
「もう。焦らないで、簡単なお願いだから。けれどその前に、私、まだあなたの名前を知らないわ」
「…………」
自分より年若い女の子に手玉に取られているのが少し癪で、名乗るのを躊躇う。
年若い、ように見えるだけだが。彼女の身体能力や物腰を鑑みるに、実際の年齢はもっと上なのかもしれない。だが、ここは異世界。俺もこの世界に来てから随分経った。それくらいのことじゃ驚かないぞ。
俺はセドナを睨みながら、渋々口を開いた。
「……クルマだ」
「クルマ。へぇ、なんだか変わった名前ね」
まぁ、名前でなく苗字だからな。
「でもいい響きだわ。では、クルマ。ギルドにあの事を黙っているかわりにお願いよ」
セドナは真面目な顔つきになって、俺を見る。
「私たち、組まない?」
「は……? 組む?」
「ええ」
予想外の提案に、一瞬思考が止まった。ペダルを漕ぐ足も止まりかけた。
待て、こいつ今何て言った?
「組む……組む? チームを組むってこと?」
「そうよ」
「傭兵と運び屋が組んで何するんだよ」
「それぞれの依頼のフォロー、といったようなことかしら。メリットはあるわよ? 私にとっても、あなたにとっても。なにせ、あなたが『傭兵と組んでいた』のであれば、人を運んだことに何の瑕疵もなくなるもの」
「あー、なるほど。しかし、だとしたらそっちのメリットは?」
「あら。そんなの決まってるじゃない。女心が分からない人ね」
セドナはわざとらしく頰に手を当ててしなを作る。そして、「はじめて、だったの」と呟く。
ナニがですかね。俺にはさっぱり分からんです。
「…………」
「あら? 思ったより初心なのかしら? 何の反応もないなんて」
「ちがうわ! 距離感がおかしいんだよ! キミさっきガチで斬りかかってきただろうが! 急に詰めすぎだよ! そういうのは気心の知れた相手にやれ!」
「これから知ってくれればいいわ。私、あなたのことならいつまでも待てるから」
「今さら良い女を演じようとしても遅いからね!?」
儚げに微笑むセドナを見て頭が痛くなる。走りながらする表情としても大概おかしいけど、それよりおかしいのはこいつの態度だ。まだしも敵視されるなら分かる。俺たちはお互いの仕事を邪魔し合ったからな。けど、俺にはこいつと睦み言を交わした覚えはない。交わしたのは刀とチャリ。もっと悪く言えば命の取り合いである。
どのタイミングで好感度上がったの? 上がる要素ないよね?
「というのは冗談だけど」
「だろうね知ってた!」
「けれど、クルマ。あなたに興味があるのは本当。あなたと……あなたのその乗り物にね」
「あー、そのパターンか……」
どうも俺じゃなくてローザが気に入られてしまったらしい。たしかに、ローザは特殊すぎるからな。しかもセドナは俺の知る限り初めてローザと渡り合えた人間。自分の強さに近しい物に興味を示すのは有り得ないことじゃない。いや、ここまでのやりとりだけで俺に惚れた、なんて理由よりよほど頷ける。
ローザは良くも悪くも目立つから、これまでにも何度か『売ってくれ!』とせっついてくる人間はいた。悉く断ったけど。
「ローザの主人は俺で登録してあるからな。俺のことを殺してもおま……キミの物にはならないぞ」
「ふうん? 所有者も明確になっている、と。であるならば、魔紋による認証かしら? 隷属による支配……はなさそうね。だったら所有者の死とともに所有権も放棄されるはずだもの。……あ、いえ、違うわね。今の言葉がブラフであれば、その線も十分にあり得るわ。それか、もしくは……意思を持つ道具? 内包している魔力も凄まじいし、意思があるのは不思議じゃない。でもそうなると出処は……」
釘をさすつもりで言った言葉にこの反応である。今のセドナの瞳は確実に狂気を宿している学者のそれだ。
「……ローザを手放せという話ばかりはお願いされても頷けないからな?」
「ん? あ、さっきの話のことね? 言ったように、私が求めるのは私たちが組むことだけ。クルマとその……ローザ? に関して危害を加える意図はないから安心して」
「どうだかな……」
「本当よ? 私はローザを観察していたいだけだから」
観察。観察ねぇ……。どこまで信じていいものか。
「そんなことより、ローザはスキルが使えるのよね?」
「お、おう」
「スキルが使える乗り物……それだけで神代の聖遺産と遜色ない……。その中には【念話】も?」
「あるけど……」
「本当!? 私も話せるかしら? 直接話してみたいわ!」
「あー、すまん。簡単な受け答えしかできん。それと、俺以外の相手に【念話】使ってるのは見たことない」
「あら、そう。残念だわ……」
まぁ、たしかにセドナから悪意が前面に出ているというわけではない。隣を走っていてさっきみたいに俺に斬りかかってくる様子もないし。むしろ今なんて言葉の通りマジで口惜しそうだ。
けれど、彼女のした提案の先に何か良からぬ思惑があっても不思議じゃない。それくらいにこのセドナという少女は不審だ。引き続き警戒はすべきだろう。
「っと、つい夢中になって話が逸れたわね。それで、私の『お願い』は聞き届けてくれるのかしら?」
「……期間は?」
「そうね……。差し当たって、今私が受けている依頼を完遂するまで。ヴェルト周辺の盗賊団を潰すことと、その背後を調べること。その間は手を貸してちょうだい。その後も継続して協力するかどうかは、それが終わってから話し合いましょう」
「ふむ……」
いや、案外悪くない提案か?
セドナの言う盗賊団ってテュルクのいた組織だろうし、足抜けしたテュルクを追わせないようになにか手を打たないとな、とは思ってた。もしテュルクを追われてセルフィちゃんにまで危害が及んだら、奴を送り届けた意味がないし。潰せるなら潰しておくに越したことはない。
俺はその背後にいる人間までは知る必要もないんだけど……まぁ、その見返りとして俺が得るのはセドナの沈黙。仮にその沈黙が破られても、セドナと組んで仕事をした事実によって、人を一人運んだことくらいは誤魔化しがききそうだ。そのあたりは傭兵ギルドの職員かセドナの依頼主にでも証人になってもらえば幾らでも手を回せる。
つまり、俺としては、このお願いをこなせば諸手を上げて運び屋稼業を続けられる、と。少々手間のかかる口止め料と思えば安いものかもしれない。
セドナのほうのメリットは……いや、もうこれ考えても分かんねぇな。本当にローザに興味津々なだけなら平和なんだが、裏があると思っておいた方がいい。まぁ、何か企んでたところでローザがいれば返り討ちにできるだろ。
「……乗った」
「あら、色よい返事が聞けて嬉しいわ。あまり迷わなかったわね。もう少し渋るかと思ったけれど」
「はっ、白々しい。最初からこっちに断る選択肢はないだろ。それにしては条件が美味すぎる気がするけどな」
「そんなことないわ。双方ともに旨味がある素敵な提案じゃない」
「どうだか」
精巧な人形のような笑顔を見せるセドナに、こちらも皮肉げに口の端を持ち上げる。
見目麗しいからって容易く気を許すと思うなよ?
「それじゃあ、これからよろしくね、クルマ」
「ああ。短い間だけどよろしくな、セドナ」
俺の言葉が気に食わなかったのだろう。
セドナは唇を尖らせ、とても不満そうな顔を見せた。
なんだよ、随分と人間らしい顔もできるじゃないか。
とまぁ、こうして俺はしばらく、長刀を振り回す銀髪の麗しき危険人物と行動を共にすることになった。
でも、この先に何が待っていようと、ローザが一緒ならたぶん大丈夫だろう。
な、ローザ。
『御主人様の意のままニ……』
「ところで、なんでそんな足速いの? チャリと並走とかもう人間やめてるよね? つーか、疲れないの?」
「あら。乙女の秘密をそう軽々しく訊くものじゃないわ。いけずな人ね」
「乙女……?」
「ん?」(笑顔の圧力)
「ひえっ」
前言撤回。先行きに不安しかないわ。
続きそうな感じで終わってますけど続きません!(爆)
元々チャリ無双という一発ネタで書いてみただけなので。チャリだからレースとかやりたかったのに、気付いたらただの戦闘機になってた不思議。
本人チート転生転移ものも好きですが、溢れすぎて食傷気味なので相棒チートものという変化球。この手の作品増えろ。
あと初めてのスマホ投稿がめちゃくちゃ使い勝手悪くて発狂しかけました。
続き書けやおらーって言われたら書くかも。
・ローザについて
名前から察している方もいらっしゃると思いますが、輪太郎(主人公)の乗るロードバイク、ローザの名前は海外大手メーカー『DE RO◯A』から取りました。
車種は『初代IDOL』を想定しています。
初代IDOLは、およそ10年前にデビューした弓なりのカーボンフレームが特徴のロードレーサーで、
強いペダリングに負けない剛性、フレーム全体のしなやかさによる柔軟性を兼ね備える
中長距離兼用の素晴らしいマシンです。
筆者には価格が高すぎて手が出ないけどね!
ちくしょう!
でも好き!
スキルやら何やらの一覧も作ったんだけど、本文中で出せなかったしお蔵入りにしときます。