8 思えば歓喜と悲劇の始まりでした。
くそ、くそぉ!なんなんだよこの気持ちは!!別に俺は姉のことをどうとも思ってないはずなのに…そのはずなのに胸が痛いのは何でなんだよ!?
俺の姉に彼氏ができた。朝、姉に彼氏がいないことをおちょくっていたのに彼氏があっさりとできてしまったせいで胸が痛くなってしまったのか?おちょくるネタがなくなってつまらなくなってしまったからなのか?違う、この胸の痛さはそんな理由じゃない。もっと、もっと何か別の…
俺は姉からの思いもよらぬ彼氏ができた宣言をされてとても信じられずその場では「へー、よかったじゃん。」という反応をした。しかしリビングで電話をしている姉の話を聴いてみると、本当に彼氏ができたらしい。くっそ、なんなんだよ。本当になんなんだ!!
俺は、俺は姉のツインテールは好きだ。でも性格が悪いから姉のことは好きじゃないんだよ!だからこれは好きな人を取られて胸が痛いわけじゃないんだよ!!
「え、も~うやめてよ~!ま、まぁ私も好きだよ?ふふっ」
何が「ま、まぁ私も好きだよ?ふふっ」なんだよ!今日付き合いだしたばかりだろ!?そこまで急にいかないだろう?普通…
なぜかわからないが涙が溢れて止まらない。俺は泣きながらいつの間にか寝ていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「竜二ー?もうご飯だよー?早くおいでー」
「…。」
とても今行くことはできない。泣きながら寝たから目が腫れている。それに食欲もあまりない。というか姉の作る料理を…あまり食べたくない。単純に不味いから。
「竜二ー?ご飯冷めるよー?いいのー?」
もう何も話したくない。姉なんて…姉なんて…。くそ、まだむしゃくしゃする。俺はまた眠ることにした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
なんだか眩しい光が…
「りゅーうーじーくーんー!」
女の子の声がする。でも俺は眠いんだ。ほっといてくれ。
「りゅーうーじーくーんー!!おーきーてー??」
ほっといてくれってば。俺は寝るんだ!!
「神が起きろっつってんだから起きろやボケが!」
頭を叩かれた感触と同時に目が覚めた。地味に痛い。
「…ん、んー、なんだよ痛いなぁ。」
俺は寝ていたはずだよな?いや、これは夢なのか?周りを見渡すと雲に囲まれていた。
「ようやく起きたわね竜二君?せっかく転生を司る神が夢に潜ってわざわざ会いにきてあげたんだから早く起きなさいよ!」
「…。どちらさま?」
「さっきも言ったじゃないの!神よ。転生を司る神。竜一君の記憶がないとめんどくさいわねぇこれ。」
転生を司る神?いや、それよりも竜一?俺の死んだ兄のことか?というか神がなんで死んだ兄のことを?いったいどういうことだ?
「あー、ごちゃごちゃ考えてるみたいだけどとりあえずそれは置いといて。それよりも竜二君のお姉ちゃんに彼氏ができたそうね?」
うっ、俺の今1番話したくない話題だ。なんで急にこんなことに…
「とりあえずその事に関して残念だったわね。いろいろな意味で。」
「べ、別に俺は姉のことなんて好きじゃないんでどうでもいいです。姉だって俺のこと好きじゃないし…」
あぁ、今までだったら普通に言い切れる言葉だったのになぜか言い切れない。言い切ろうと思うと悲しくなる。
「悲しくならなくて大丈夫よ。竜二君はお姉ちゃんのこと本当は好きでしょう?お姉ちゃんも竜二君のこと大切に思ってる。何も心配しなくていいわよ。」
転生を司る神は俺の心を見透かして微笑んで応えた。認めたくない。どうしても認めたくないのに…すると急に転生を司る神は真面目な顔になった。
「いけない、重要なことを言い忘れてた。本当は天界の機密なんだけどどうしても竜二君に話さないといけないなと思ってたことがあるの。私も本当についさっき知ったばかりなんだけど竜二君のお姉ちゃんにこれから不幸なことが起こるわ。竜二君が守ってあげなさい。」
今彼氏ができて絶好調の姉に不幸なことが起こる?とても信じられない。いったい何が起こるというんだ。
「家族が不幸になるのはとてもじゃないけど耐えられないの。かつて私にも家族がいたわ。でも…」
転生を司る神はとても悲しい表情をしている。この神には辛い経験が過去、もしかしたら現在もあるのかもしれない。だが今はそれよりも…
「話を打ち切ってごめんなさい。それで姉に何が起こるんですか!?教えてください…!」
「竜二君のお姉ちゃんにはこれから………」
あれ?急に意識が…いったい姉に何が起こるんだ…
ここで俺は完全に意識を失った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あぁ間に合わなかった…!大切なことを言う前に竜二君は夢から覚めてしまった…
ついさっき運命を司る神から聞いた信じたくないこと。いつ誰に起こるかわからない些細な運命。だけどこれは絶対あの姉弟が不幸になってしまう。なんとかしたいのに…もう私は夢に出られる体力もない。
最初は面白がって見ていただけだったのに…。私はあの姉弟のことを観察しているうちにいつの間にか深入りしてしまったのかもしれない。いや、それだけじゃない。私は不幸という言葉に敏感なんだ。『あの子』は本当に不幸な子だから…きっとそのせいで敏感になってしまったんだろうな…。とにかく今はあの姉弟に祝福を…最悪の事態が起こらないように…