49 記憶。
「お兄ちゃん!この服どお??私、かわいい??」
「あぁ、かわいいよ。桜はなんでも似合うよ。」
「ホント??やったぁ!!お兄ちゃんに褒められた!!ありがとうね!!大好き!!」
「俺も桜のこと大好きだよ。」
そういえばトラックに跳ねられたときにも、桜との思い出が脳内を駆け巡ったな…そうか、また、俺は死ぬのか…。はぁ…桜を傷つけたやつに復讐するって決めたのに…そのチャンスはいくらでもあったのに…ちょっとした油断で死ぬ上に、目標は達成できないのか…。
…心残りがありすぎるな。やっぱり桜を傷つけたやつには、きちんと復讐してやりたかったな…。桜は精神的にも、身体的にも傷ついていた。くそ…俺は…俺はそんな桜に何もしてやれなかった。それが悔しくてしかたがない…!!
桜に何もしてあげられなかった自分に対して、怒りを覚えた。もっと早く気づいていれば、もっと桜と接していれば…と、後悔が次から次へと出てくる。
…でも、そのことも悔しいし辛いけど…それ以上にもっと桜との思い出を作ればよかったな…。『有園竜二』として…。桜の弟として…。
さっきの走馬灯(?)は、あくまで『有園竜一』の記憶だった。今は、『有園竜二』なのに…。そう、『有園竜二』の人生では桜との思い出は…ほとんどない、ということだ。印象に残った記憶も…料理が不味かったくらいしかないのでは…?
まぁ、そんなことはどうでもいいな。しかしよく考えてみれば『有園竜一』の記憶があったから、ツインテールだけでなく、桜自身を愛せた。ツインテールは正義としか考えていなかった、あの頃とは違う。本当に…大切な記憶を思い出せて…よかっ…た。
ここで俺の意識は途切れた。
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…ん…?なんか、眩しいなぁ…。それに、暖かいなぁ。
目を瞑っているけどそう感じて、俺はうっすらと目を開けた。
あぁ、なるほど…太陽の光が俺の顔に当たってたのか。そりゃ眩しいし暖かいわけだ。
理由がわかり、スッキリしたからか「ふぅ」と声が漏れた。
「竜二…?竜二っ!?あなた、目が覚めたの!?」
聞き覚えのある声がして、横になっていた身体を起こそうとした。しかし、身体が思うように動かない。
「…っ!!いたたっ…、身体が…。」
「本当に目が覚めたのね!?今、病院の先生呼んでくるから、ちょっと待ってて!!」
そう言って勢いよく扉を開け、走って部屋から出ていってしまった。焦っているのか、扉は開け放したままだ。
はぁ…起き上がりたいんだから、先に起こさせてくれよ…。それにしても、病院の先生?そういえば…こんな場所、見たことないぞ。ここは病院なのか…?
目線をいろいろな方へと送り、どこにいるのかを確認すると…うん、ここは紛れもない、病院だ。
「先生!!早く来てください!!ほら早く!!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ…。ハァハァ…見た目通りわしは歳なんじゃよ…。ハァ…そう急かさないでくだされ…。」
先程の聞き覚えのある声と、しわがれた声が俺の今いる部屋へと近づいてきた。しわがれた声の人は、しんどそうに息を切らしているようだ。何をしているんだか…。
「ほら、動いてください!!見てください!!早くっ!!大事な私の『弟』なんだからっ!!」
ここは病院なんだぞ…。他の人もいるんだ、静かにしてくれ…。
「ハァハァ…や、やっとついたわい…。ちょ、ちょっと休憩を…」
「は・や・く!!!!!」
…全く、俺の『姉』は短気だなぁ。弟としてすごく恥ずかしい…。
聞き覚えのある声は俺の『姉』、有園桜。ツインテールだけが取り柄の乱暴女だ。
「ヒェ…ひどい人じゃのぉ…。わかったから落ち着いてくだされ…。」
そう言った直後に姉としわがれた声の人が、俺の今いる部屋へと入ってきた。
「おぉ…本当じゃあ、竜二君が目を覚ましとるのぉ。竜二君、気分はどうかね?」
「え、あの…身体が痛いです…?」
急に気分と言われても…。
なんと応えればいいのかわからないので、疑問系になってしまった。それにしても…身体、本当に痛いな…なんだこれ…。
「まぁ、そうじゃろうなぁ。竜二君は一ヶ月も寝ていたからのぉ。そりゃ痛むわい。それよりも…うんとりあえず普通に喋れる元気があるからよかったよかった。」
うんうんと頷きながら微笑む先生、そして半泣きの俺の姉。どうやら俺は、たくさんの人に迷惑をかけてしまったようだ。申し訳ない気持ちが込み上がる。ごめん…
…ん?いやいやいやいやちょっと待て。はい?え、今一ヶ月って言いました??え、俺そんなに寝てたの!?
あまりに衝撃的だったので、タイムラグが起こってしまった。俺はポカンと口を開けていた。その顔は間抜けだったろう。
「えっと…俺、一ヶ月も寝てたんですか…?」
どうしても信じられずに、恐る恐る先生へと疑問をぶつけた。すると、
「さっきも言ったじゃろう?そうじゃよ、竜二君は一ヶ月もの間寝ていたんじゃよ。」
と、あっさりと答えたので俺は絶句してしまった。そんな俺にお構いなしに、今度は先生が俺に質問をしてきた。
「おぉ、そうじゃ。竜二君はどうしてここにいるのかわかるかね?自分に何が起こったか、覚えておるかね?」
…しわがれた声だが、優しい口調だった。俺はそんな先生に前向きな答えを言いたかった。でも…
「…ごめんなさい、覚えていないんです。何が起こってこんなことになったのやら…」
…そう、俺は何も覚えていないんだ。何で俺は病院にいるんだ?何で…
「竜二…」
心配そうに姉が俺の様子を見ている。いつもは乱暴なくせに…うるさいくせに…料理が不味いくせに…
「…あれ…?何でだろう…?涙が…。なんか俺、心にポッカリ穴が空いたみたいなんだ…。何か大切なことを忘れたような、そんな感じでさ…。くそ、止まれよっ!!何で止まんねぇんだよっ!!」
勝手に出てくる涙に苛立ちを覚え、自分の口調が悪くなってしまう。姉と先生は、そんな俺を静かに見守ってくれた。




