48 復讐劇その19
「…っ!!凛香っ!!なんで…なんでそんなもの持っているの!?やめて!!これ以上罪を増やさないでっ!!!」
明日香の叫び声で、俺はハッと我に帰った。どうやら自分が思っている以上に、ナイフに驚いていたらしい。自分の手に視線を送ると、少しだけ震えていた。
「…。りんかさん…その右手に持っている物騒な物を離していただけませんか?」
俺はりんかを刺激しないように、優しめの口調で話しかけた。しかし、りんかは応じてくれそうにない。にっこりと微笑み、その物騒な物を器用にくるくると回している。
「有園の弟君?私はあなたに恨みなんてないの。そうねぇ、しいと言うならぁ、あなたが有園の弟だったってことが運のつきかしら??あっはははははは!!」
下品な笑い方に、俺はぞくぞくした。
「すみません、もう一度言いますね…。その右手に持っている物を、離してください。」
俺はりんかに優しめの…しかしさっきよりも強めに言葉を発した。りんかを刺激するつもりは全く無かったが、どうやら俺の発言が気にくわなかったらしい。明らかに、機嫌が悪くなっている。
「うるさい、うるさいわねぇ!さっきからさぁ!!私はあなたのことを、物理的に『排除』するって言ったでしょう!?姉弟揃って本当にムカつくわ。」
…物理的に『排除』、か。つまり俺のことを、殺すってことだよな…?はぁ…正気じゃないな…。
「大体あなたの姉は、ほんっとーにうざかったわ!!せっかくたくさん嫌がらせをしてあげたのに、毎日毎日毎日!!なんなのよっ!!次の日来れない程度には、傷つけたはずだわっ!!なのにゾンビのように這い上がってくる!!気持ち悪いったらありゃしない!!」
「ふざけるなっ!!!」
桜のことを悪く言われ、頭に血が上る感覚が自分でもわかった。あまりりんかのことを刺激しないようにと心がけていたが、どうやらここまでが限界のようだ。
「ゾンビのように這い上がってくる?それは違うなっ!!お前の思惑通り、桜は傷ついていたさ!!傷ついていたけど桜は…桜は必死になって抵抗してたんだっ!!学校に行かなかったら、お前らに『負けた』ということになる。それを桜は許せなかったんだ!!だから傷つきながらも毎日学校に行ってたんだ!!負けないためにな!!」
感情任せに、言いたいことを全て叫んだ。周りの人間が呆れるくらいに、息切れをするくらいに叫んだ。涙も止まらなかった。
でもそれが…その感情の乱れがいけなかった。俺が涙を手で拭い、目を開けるとりんかが1メートルあるかないかの距離にいた。
そして…俺に向かって、りんかはそのナイフを振りかざした。




