39 復讐劇その10
体育館へ戻ると、桜がガラスの靴を履く直前の場面だった。
「あそこにいらっしゃるお嬢様にも、靴を履いてもらいたいのですが。」
「あの子は絶対にありえませんわ!」
「!!もうこんなに時間が経っていたの!?」
「とりあえず、さっき座ってた最前列の席まで急いで行こう。」
体育館の観客側はとても静かだったので、極力音を出さないように走った。そして走りながら舞台を見ると…『りんか』がにやにやしている。どうやら春香の言っていた通り、何かはありそうだ。背筋がぞわぞわする感覚がして、なぜか気持ち悪くなった。
ギシッ
俺と春香が最前列の席へ着く頃には、舞台で異変が起こっていた。
嫌な音がする。だけど…どこからだ?全くわからないぞ…。
「さぁ、この靴を履いてください。」
「は、はい…」
桜が靴を履こうとする直前、春香は舞台へと走りだした。その後、音の出どころがわかって春香を追いかける。
「危ないです!!!」
春香は大きな声で叫んだ。そして桜を突き飛ばし、2人とも倒れた。
「春香っ!!!!」
ガシャンッ
俺が叫んだ直後、春香の下半身に照明が落ちた。
目の前の出来事を信じられず、呆然と立ち尽くしてしまう。しかし遠くからの悲鳴は鮮明に聞こえた。
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「凜香お姉ちゃん!私、大きくなったら凜香お姉ちゃんみたいになりたいの!」
「そっか…でもいじめられてるし、春香が私みたいになっちゃったら嫌だな。」
複雑な表情をする、凜香姉さんの姿。この頃の凜香姉さんはとても優しくて、大好きだったな…。
「聞いてよ春香!!私、今日もいじめられてたけど、クラスの子が初めて止めてくれたんだ!その子と友達になったの!!」
「凜香お姉ちゃんは、悪いことしてないもん!そういう人がいてもおかしくないよ!本当によかったね!!」
凜香姉さんが笑っていると、私も自然に笑ってたな…。
「凜香お姉ちゃん?なんかいつもと違う感じがするよ?どうしたの??」
「ふふふ…そんなことないわよ。気にしないで…。」
ある日を境に凜香姉さんは、少しずつ…少しずつおかしくなっていった。
「ははっ…はははは!!明日香を傷つけるやつは絶対に許さない!!消してやる…!消してやるわ!!あはははっ!!!」
「凜香姉さん…」
凜香姉さんの部屋の前を通ると、笑い声が聞こえた。もう昔の優しい凜香姉さんには戻らないのかな…
「あいつ消えろよ!消えろよ…!!もう少しで消せたのに…!なんで邪魔が入るの!?消してやる!明日香が気に入らないものは、私が排除してやる!あぁ明日香…待っててね。次こそは…私、頑張るから!」
「やっぱりさっきのフードを被った人は…。凜香姉さん…なんでなの?」
大人になっていくと共に、お互い距離ができてしまった。私はそれがとても辛かった。
「凜香姉さん…これはいったいなんなの…?」
『シンデレラの劇。
ーーーがガラスの靴を履く瞬間にーーをーーー。
消えろ。消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ。』
私にはもうわからない。凜香姉さんのこと、わからないよ…。たくさんの人を傷つけて…私の好きな人のお姉さんまで。なんでなの…。竜二、ごめんね。ごめんね…。
「春香っ!!!」
竜二の叫ぶ声が聞こえると同時に、ガシャンッという音がして下半身に衝撃が走った。




