38 復讐劇その9
「竜二…実は凜香姉さんたちは、これまでにたくさんの人たちをいじめてきたの。竜二のお姉さんだけじゃないの…。」
春香は目をぎゅっと瞑った。きっとまた泣いてしまいそうだからだろう。
「…1つ聞いてもいい?」
「えぇ。」
「なんで春香のお姉さんたちは、いじめられる辛さを知っているのに、人をいじめているんだ?」
俺は優しい表情を浮かべるように意識した。でないと怖い表情になってしまう。人は恐怖を感じると、本当のことを言えなくなるものだ。だから細心の注意を払った。
「普通だったら、いじめられる辛さを知っていたら人をいじめないよね…。でも凜香姉さんたちは…凜香姉さんは逆に考えた。いじめられることはとても辛い。だからこそ気に入らないやつは、とことんいじめてやる。ってね…。」
…なんということだ。あまりにも考え方がひどすぎる。
俺は唖然とした。
「竜二…私、竜二にキスしたじゃん?その次の日、気まずくて一緒に帰らなかったけど…でもその日、私は竜二を見かけたの。そして…竜二のお姉さんがフードを被った人に、道路へ突き飛ばされるところも見たわ…」
「!!」
あの日春香が近くにいたのか!?全く気づかなかった…。
「あ、あのね…あのね…!そのフードを被った人は…」
…『明日香』だな。この学校へ潜入したときに、噂話で聞いている。
俺は当然春香の口から、『明日香』という言葉が発せられると思っていた。
「フードを被った人は…凜香姉さんだったの。」
「!?それは本当なのか!?」
俺はつい驚きのあまり、声を荒らげてしまった。
噂では明日香と聞いていたのに…言われてみれば体格的には『りんか』の方が近い気がするような…
「うん。絶対そうだわ。フードを被ってたけど、隙間から顔が見えたわ。そしたら…凜香姉さんだった。最初信じられなくて…でも家に帰ったら、凜香姉さんおかしかったの。『あともう少しだったのに!!』『あそこで邪魔が入らなければ!!』って凜香姉さんの部屋から声が聞こえたわ。それで確信したの。フードの人は、凜香姉さんだったんだってことを。」
春香の潤んだ瞳が、きらきらと光る。それはまるで宝石のようだった。
…犯人は結局明日香じゃなかった。しかし、桜をいじめたことには変わりはない。俺は絶対に、明日香を許さない。そして…『りんか』。こいつは特に許せられないな。
「凜香姉さんたちには、あとで謝ってもらうわ。その前にまだちょっと問題があるんだけど…」
「問題?」
「うん。この劇で凜香姉さんが、何かよくないことをしようとしてるみたい。それを止めるためにこの劇を見にきたの。それと…こ、こういう理由があるから最前列がよかったんだよ。だ、だから別に竜二が隣じゃなくたって…。」
なぜか春香の顔は赤かった。熱でもあるのだろうか。
「そ、そんなことより早く戻らないと!!姉さんが何をするかわからないわ!!確か姉さんの机の上にあったメモを見たら、シンデレラがパーティーで置いてしまった、ガラスの靴を履く瞬間に何かをするって書いてあったわ。黒塗りで重要なところはわからなかったけど…とにかく急がないと!」
「なんだって!?それは本当か!?」
こくんと頷かれ。腕を掴まれた。そして小走りで体育館の中へと戻った。




