37 復讐劇その8
「凜香姉さんと明日香さんの出会いは、確か2人が小学校低学年の頃だったわ。凜香姉さんは、当時クラスの人たちからいじめられていた。まるで今の竜二のお姉さんみたいに…」
そんなことがあったのか。今ではとてもそういう風には見えないが。
「凜香姉さんは、とても気が弱かったの。身長が低くて体が小さかった、っていうのもいじめられた原因の1つ。そして、その様子を見かけた、同じクラスだった明日香さんが助けたの。凜香姉さん、とても嬉しそうだったな。『私のことを庇ってくれる友達ができた!』ってね。」
俺はなんとも言えない気分になった。桜には助けてくれるやつなんていないのに。なのに『りんか』には助けてくれたやつがいた。なぜ『りんか』にはいて桜にはいないんだよ…。
「気が弱かった凜香姉さんは、明日香さんと友達になってからはだんだん自分に自信を持ったみたい。凜香姉さんは、いじめられなくなったわ。でもね…」
春香は「はぁ…」と、溜め息をついた。
「今度は明日香さんが凜香姉さんをいじめていた人たちに、いじめられてしまったの。いじめる標的を、凜香姉さんから明日香さんに変えたのね。でも明日香さんは、気にする素振りをクラスでは見せなかったらしいわ。凜香姉さんが自分に自信を持てたのは、いじめられても気にしない明日香さんのお陰だった。」
「へぇ、明日香さんってすごいんだな。」
そんな過去があるのに、なぜ『りんか』も明日香も人をいじめられるのだろうか。そう考えると虫唾が走る。
「そうなの。明日香さんは強かった…少なくともクラスの人の前ではね。でも本当はとても繊細な人だったの。ある日、こんな出来事が起こったわ。」
春香は青空を見ていたが、今は過去のことを思い出しているのだろう。ボーっとしているように見えた。
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「明日香!?何をしているの!!落ちちゃうよ!!」
私の友達、明日香が立ち入り禁止の屋上へ行く姿を見て追いかけたけど…。なぜか柵を越えてしまった。そんなところ危ないよ…
「…!!な、なんで凜香がこんなところに…!来ないで!!私、今死のうと思ってるの…!」
「!!」
普段明るくて優しい明日香なのに、今はまるでこの間までいじめられていた、私みたいなことを言っている。
いつもと違う雰囲気の明日香にとても驚いた。聞き間違いじゃないのかと思うくらいに…。
「ねぇ明日香?なんで死のうと思ってるの?」
私は静かな声で、明日香に質問した。
「もううんざりなの!!みんなにいじめられるのが、こんなに辛いなんて思わなかった!!馬鹿にされたり、前まで普通に話してくれていた子は今は無視してきたりするの!!こんなことになるなら…なっちゃうことがわかってたら!!絶対凜香のこと助けなかった!」
赤ちゃんのように泣きじゃくる明日香。私は明日香にそう言われても、全く傷つかなかった。むしろ愛しく感じた。
「明日香…」
私は明日香にゆっくりと近づいた。
「嫌だ!!来ないで!!!」
否定されても歩き、柵越し数十センチのところで私は止まった。
「来ないでよ…来ないでよ!!」
バチンッ
左頬に衝撃を感じたけど、そんなのはどうでもよかった。
私は明日香をぎゅっと抱きしめた。
「ごめんね明日香。私、明日香がそこまで追い込まれてること、知らなかった。いじめられるってやっぱり辛いよね。いじめてくる人たちのこと、憎いよね…」
明日香が必死に抵抗しているけど、私はさらに力を込めて抱きしめる。
「明日香。あなたはまだ、死んではいけないわ。ふふっ。私が明日香の気に入らないもの、『排除』してあげる。」
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「この出来事が起きてから、凜香姉さんは壊れてしまったの…」
「…。」
俺は『りんか』という存在を、全くわかっていなかった。しかしこの話を聞いて、少し『りんか』についてわかることができた気がした。




