34 復讐劇その5
「私はシンデレラ。お母様は私が幼い頃に、病気で死んでしまったの。」
今、たくさんの人の視線を感じた。
…これが普通の劇だったら、緊張するんだろうな。
「そして、お父様はお母様が死んでしまってからしばらくすると、新しいお母様と結婚なさったの。そして、3人の義理の姉もできたわ。」
でも…私の今最も感じている感情は『恐怖』。
舞台の上袖には、継母役の明日香と義理姉役の凜香、クラスの人たちがクスクスと笑っている。いつも以上に痛めつけられる気がした。
「最初その事を聞いたときは、とても嬉しかったわ。お母様が亡くなってしまって、とても寂しかったの。それにお義姉様もできるなんて…1人っ子だから本当に嬉しかったわ…。」
私は雑巾を使って、窓を拭く動作をした。
すると、義理姉役の凜香が堂々と胸を張って、本当にシンデレラの義理姉らしい嫌な表情でセリフを言う。
「ちょっとシンデレラ!?あなた、私の部屋の掃除したのよね??なんであんなに汚いのよ!もう1回掃除しなさい!!」
『バチンッ』という音が、体育館全体に響き渡る。
左頬に衝撃が走り、思わず手で。凜香は、私の頬を素手で叩いたのだ。
「あーあ、汚いシンデレラを手で触ってしまったわ。綺麗に手を洗わないとねぇ。」
笑顔を浮かべて、台本にないセリフを嫌みったらしく言う。
凜香は『シンデレラ』に言っているんじゃない…。私、『有園桜』に向けて言葉を放っているんだ。
「ねぇ?そう思うでしょ?」
「え…?」
もう1人の義理姉役のクラスの子は、急に話を振られ、ビクッと体が小さく跳ねた。
「どうかしたの??あぁ!シンデレラがあまりにも汚くて目障りだから、言葉がでなくなってしまったのね!!その気持ち、とてもわかるわ!!」
そう言いながら、もう1人の義理姉役の子を凜香は睨んだ。
その子の体はまた、ビクッと小さく跳ねる。そして、恐る恐るセリフを言った。
「そ、そうなのよ!そういえば、シンデレラ?私のアクセサリーはいったいどこなの…!?み、見つからないわ。探しておきなさい…!」
「…わかりました、お義理姉様。」
凜香は、クラスの子からとても怖がられている存在。明日香は社交的でクラスの人気者だが、いつも側にいる凜香はというと、他人と話すことはあっても、どこか距離を感じるのだ。そして、明日香への愛が強く、明日香のためなら、なんでもするという印象がある。
それは去年、高校2年生のある日、クラスの子がふざけていて、明日香が軽い怪我をしてしまったことがあった。怪我をさせてしまった子はすぐに明日香に謝り、そこで解決したものと誰しもが思った。しかし不思議なことに、怪我をさせてしまった子は、その次の日から学校に来なくなったのだ。原因はしばらく不明だった。明日香への罪悪感で、不登校になってしまったとは考えにくい。クラスの子たちは原因を考え、その子に何か変わったことはなかったか話し合った…らしい。(私は去年一緒のクラスじゃないから、噂で聞いただけ。)そして…明日香に怪我をさせたあの日の帰りに、凜香に呼び出されていたということが発覚した。クラスの子たちは、凜香を問いただした。なぜあの子が来なくなったのか、と。すると凜香は笑顔で応えた。
「だって、あの子は明日香を怪我させたのよ?大罪でしょ?だから…ちょっとだけ身の程を知ってもらっただけよ?」
そんな出来事があり、凜香は恐れられる存在となったのだ。




