33 復讐劇その4
「ん~!これうまいぞ!竜!」
そう言いながら、次から次へと雪奈はたこ焼きを口に入れた。
「雪、お前さっき焼きそばと唐揚げ、それにポテト、さらに移動中はお菓子を食べてたのによくお腹に入るな…」
見ているだけで、俺はお腹いっぱいになってしまった。
「私は無限胃袋の持ち主だからな。昔はあまり食べれなかったけど…今では近所で有名になるほどだぞ!おばちゃんたちが、お菓子とか余った食べ物とか持ってきてくれるんだ!」
近所では便利な余り物処理係になってるんだな、と思ったけど口には出さなかった。
「ねぇ、次はどこに行く?」
俺と雪奈が話している間、ずっとイベントの冊子を見ていた春香が話しかけてきた。
今の時間は…13時15分か。確か3年A組の劇は13時30分からだったから、そろそろ行った方がいいな。
「3年A組の劇に行きたいんだけど…」
「俺はさんせー。」
ゲームをしながら山下は、適当に返事をした。
「わらひもはまわんほ!」
「食べるかしゃべるかどっちかにしなさいよ…。私も、行きたいと思ってたの。竜が言わなかったら提案してたわ。ということで行きましょうか。」
春香が少しだけ暗い雰囲気になったのは、気のせいだろうか?だけど…今はそんなことよりも、桜のことに集中しなきゃな。
俺たち4人は、劇の会場…体育館へと向かった。
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「うわぁ~、もっと早くに行けばよかったな。4人で並んで座れそうなところは空いてないな…」
「そうだな…最前列の左端と、真ん中の列の右端が隣同士で2席ずつ空いてるって感じか?俺はできれば最前列がいいんだけど…。」
「私もできれば最前列がいいな。」
下を向いて、春香はボソッと呟いた。
「春香!お前竜の隣がいいから、最前列がいいんだろ!?ずるいぞ!私も竜の隣がいい!!」
雪奈はムスっとした顔で、春香に言った。
「ようやく名前覚えたのね。」
クスッと笑いながら春香は顔を上げ、続けて話した。
「お願い、私はこのことに関しては竜の隣じゃなくていいの。ただ最前列がいいだけ。でないと…」
春香は真剣な顔で話した。何か目的があるような、そんな表情だ。
「…はーあ。仕方ない。そんな真剣な顔で言われたら、反抗できないじゃないか。いいよ。でも今回だけだからな?譲ってあげるのはな!」
…!雪奈が春香にこんなことを言うなんて…。せ、成長してるんだな。しかも笑顔で応えてる。
「ありがとう、雪奈。」
春香も雪奈に笑顔を向けた。雪奈と春香、本当は仲良くなれるんじゃないのか?
「あぁ、存分に楽しんでこい。行くぞ馬鹿。」
「あ、俺、雪奈ちゃんと隣なの!?やったーー!!一緒に楽しもうね♪」
「キモいぞ馬鹿。」
案外、この2人も仲良くなれるのかもな…。
俺と春香は雪奈たちを見送った。
「…竜二、私たちも行きましょう。」
「あぁ。」
春香の目的はいったいなんなのだろう。でもそんなことよりも、この劇のことの方が重要だ。
席に着いてしばらくしたら、体育館が暗くなった。
いよいよ始まるんだな、と実感した。3年A組の人たちはあの『封筒』を見てどういう劇をするのだろうか。もしも桜を傷つけるようなことをしたらそのときは…。
はは…ははははは!!後悔させてやる!!徹底的にな!!
3年A組のやつらを痛めつけることを想像すると、にやけが止まらない。
「今から3年A組の劇、『シンデレラ』が始まります。」
放送が流れて、舞台の幕が上がる。舞台の真ん中には、桜が立っていた。
そしてとうとう劇が始まったのだった。




