32 復讐劇その3
教室を出て、私と明日香はトイレで話していた。
「ねぇ明日香…あの手紙のことなんだけど…」
「え?凜香、まさかあの写真をバラ撒かれることを心配してるの?馬鹿だなぁ。」
違う、そんなことはどうでもいいの…。否定しようと思ったけど、クスクスと笑いながら明日香は続けて話した。
「あんなのバラ撒いたからって、何になるのよ。クラスの人たちは、あの手紙を書いたやつ以外は私の味方よ。それにこの学校の先生たちって、いじめを見て見ぬふりしてるからさ。もしも先生たちにあの写真を見られても、特に何もしてこないって!」
「…。」
…明日香、あのね。私、ずっと近くで明日香のこと見てきたからわかるんだ。クスクス笑っているけど、本当はそんな気分じゃないよね?目が笑っていないよ。暗くて、冷たくて、なんだか悲しそうだよ?
私にとって明日香は大切な友達。だから明日香にずっと着いていくって決めている。明日香の嫌いなものは私が『排除』する。物でも、人でもね。きっと、明日香の大っ嫌いな有園桜をあのとき殺すことができたなら、私のことを褒めてくれていたんだろうな…。
『凜香!ありがとう!』
私は明日香にそう言ってもらえるだけでいいんだ。その一言を聞きたい。明日香以外の人なんて、正直どうでもいい。明日香なら…私のことを見捨てたりなんかしない。明日香のためなら、例え常識から外れた行為でも私はやり遂げてみせる。
最近はそんな風に考えている。自分自身でも明日香に依存しているな、と感じるときがある。でも…そんな私も嫌いじゃない。誰かのために、なんでもできるってことはとても素晴らしいことでしょ?ただちょっとだけ、私はその気持ちが大きすぎるだけ。
「そうでしょう?凜香。」
ねぇ明日香。悲しそうな目をしている理由、私ならわかるよ。クラスの誰かが、有園の味方をしていることが気にくわないんだよね?だって今のクラスは明日香中心で動いてきたもん。それなのに、急に反抗するやつが出てきて悔しいんだよね?だから悲しいんでしょ?
「凜香?」
あのさ、明日香は有園のことが大っ嫌いなんでしょ?うざいんでしょ?同じ空気を吸うことさえ、嫌なんだよね…?あは、あははははは!明日香!大丈夫だよ!!今日はとびっきりの舞台を用意したからね!たっくさん有園を痛めつけよう?体も心もぼろぼろにさせようよ!きっとぼろぼろになった有園のことを見て、手紙を書いたやつは、自分もこんな目に遭うんじゃないかって思って何もできないよ!
「凜香っ!!」
明日香が大きな声で私のことを呼んで、ようやく我に返った。
「え、あ、明日香?ごめん…。」
「ちょっと大丈夫?凜香ってさ、たまに自分の世界に入るよね…。まぁ慣れたけどさ。」
あまりの恥ずかしさに、体温が上がった気がした。
「えっと、明日香!今日の劇、絶対成功させようね!!あんな手紙なんて無視してさ!いつも通りやろうね!」
「えぇ、いつも通り…ね。」
私は嘘をついた。いつも通りなんて起こるはずは絶対にない。
明日香、待っててね。あなたの嫌いなもの、今度こそ『排除』してみせるから。




