30 復讐劇その1
「竜~!こっちー!竜が1番最後だぞー!」
「そうだぞ!早くしろよ竜二ー!!」
「雪奈も山下も声でかすぎ。もっと静かにしてられないの?」
本当は1人でこのイベントに、来ようと思っていたのに…。こんな賑やかになるとはな…。
「ごめんごめん。ちょっと用事があってさ…」
そう、用事があったのだ。復讐を果たすための、種を撒くという用事が。
「言い訳は大丈夫だから早く行こーぜ!すげぇ楽しみだわ~!」
小学校低学年の子供みたいな、はしゃぎ方をする山下。いつもだったら「気持ち悪いぞ」と、山下本人に言っていたかもしれない。
しかし、今日は…
「だよな!俺も楽しみだわ。」
ははは。今日は山下、お前に同感だよ。楽しみで仕方がない。桜をいじめていたやつらが、どのように焦るのか。どのような表情をするのか。
さぁ、復讐劇の始まりだ。
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「ねぇ!ちょっと?これはなんなのよ!誰がこんなことしたのよ?!」
手紙をグシャッと握りしめた少女、明日香が急に大きな声で怒鳴り出したから、反射的に体がビクッとなってしまう。
さっきまでイベントだ、楽しむぞ!と、私以外のみんなが盛り上がっていたのに、シーンと静かな空気になった。
明日香はクラスで1番影響力を与える少女。そして…明日香に嫌われているせいで、私はクラスのみんなからいじめられている。
私は明日香に何もしていない。何もしていないのに、嫌われている。心当たりが全く無い。だから…この間、直接聞いてみた。
「なんで私のこと、そんなに嫌ってるの?」って。そしたら明日香は、まるでゴミを見るような目で応えた。
「あんたのことを見ていると、イライラする。」
「同じ教室にいるとか、本当にありえない。」
「なんで学校に来てるの?早く消えてよ。」
言葉の波が、私に押し寄せた。あまり関わったことのない人に、ここまで言われたことは、今まで一度もなかったから…いや、もしも言われたことがあったとしても、相当堪えていただろうな…。思い出すだけで、吐き気がした。
「急にどうしたの明日香!?顔色悪いし…なんか変だよ?」
「なんか変も何もないわよ!これ!この手紙と封筒の中身、見てよ!」
そう言うと、グシャグシャになった手紙と封筒を、いつも一緒にいる凜香に押し付けた。
「う、うん、わかった。…じゃあ読むね。」
一呼吸置いて凜香は読み出した。
『人をいじめてて、そんなに楽しいの?
お前たちは、人間として最低だね。
とりあえず、今日の劇で何か変なことしたら…
これをバラ撒くからね?』
クラスの雰囲気が、さらに悪くなった。普段は話を聞かない人も、明日香と凜香に注目している。
「何よこれ…。バラ撒く…?この封筒の中身の物をってこと?…!これって!?」
封筒から取り出した中身は…どうやら写真のようだ。クラスの人たちが、ざわざわっと騒ぎだした。
封筒の中から出てきた写真…それは、モザイク加工をされた少女に、水をかけている明日香、そしてクラス全員がそれを見て、嘲り笑っている写真だった。
モザイク加工をされているけど…どう見てもこの少女は私だ。