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29 虚しさ。

 「いたっ…!」


 今、リビングのソファに桜を座らせて手当てをしているのだが、消毒が染みたらしい。


 「染みた?ごめんな…。」

 「ううん、大丈夫だよ。手当てをしてくれてありがとう。」

 「いいよ、気にしないで。」


 大丈夫と言っているが、我慢をしていることがバレバレだ。擦り傷に消毒をする度に、小さく悲鳴をあげている。

 こんなことになったのも全て桜をいじめたやつらのせいだ。


 「…よし、これで手当ては終わりだよ。」


 俺がそう言うと、桜はソファから立ち上がった。


 「いたた…。竜二、手当てをしてくれて本当にありがとう。自分の部屋に戻るね。」

 「わかった。俺も自分の部屋に戻るけど、夜ご飯はどうする?」

 「あ、今日はいらないや。食べる気になれないから…。」


 桜の表情が少し曇った。胸がグッと締め付けられる。


 「そっか…。姉さん、何かあったら相談してね?いつでも話を聞くからさ。」


 俺が真剣に言うと、目を逸らして「ありがと。」と言い、すぐに部屋を出た。少し赤かった気がする、熱でもあるのだろうか。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 どうしよう…竜二に言えなかった…私のクラスの出し物だけには、絶対に来ないでって…

 この間、竜二と話をしていたときに、竜二が私のクラスの出し物は、見に行ってみると言っていた。でも来られては困る。さっきでさえ、擦り傷をうまくごまかしたりするのが大変だったのに、もし来てしまったらクラスでいじめられていることがバレてしまう。

 しかも、竜二は友達と来ると言っていた。クラスでいじめられていることがわかったら、果たして竜二は私のことをどう思うのだろうか…。もしも嫌われたら…。

 大切な家族に嫌われたらと思うと、胸が苦しい。


 「ねぇ竜一お兄ちゃん…どうすればいいか、私わからないよ…」


 首につけている、ロケットペンダント。それをぎゅっと握ると、竜一お兄ちゃんとの思い出が、昨日のことのように思い出せる。私が何かをしたらよしよしと頭を撫でて褒めてくれた。泣いていたら大丈夫?と聞いてくれて、まだ小さい頃だったからうまく喋れなくて、何て言っているのかわからなくても、うんうんと反応してくれた。

 お兄ちゃん…会いたい、会いたいよ…。でも、お兄ちゃんはもういない。私のせいで…私が殺したも同然だから…。


 「もし、お兄ちゃんに会えるのなら…お兄ちゃんに謝りたいな…。」


 絶対に願っても叶わないことはわかっている。でも声に出した。声に出すとすっきりするかなって思ったけど…全然そんなことないわね。虚しさだけが残る。




 結局竜二に私のクラスの出し物に来ないでって言えず、春城高校のイベント当日になってしまった。

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