28 傷。
「竜!春城高校のイベント、いよいよ2日後だな!」
俺が外の雲を見ていると、右隣のツインテール少女が話かけてきた。雪奈だ。
「えぇ、いよいよ2日後ね。」
「そうだな。」と俺が声を発する前に、左隣のツインテール少女がそれに応えた。春香だ。
「私は竜に話しているのだ!春香?には話していない!」
「ちょっと!まだ私の名前うろ覚えなの!?信じられない!」
最近の風景だ。春香と雪奈は仲が悪い。そしてそろそろ…
「春香ちゃーん!雪奈ちゃーん!喧嘩しないでぇ~!」
やっぱりな。ビッグスマイルで走ってきて、喧嘩の仲裁をしようとするのは山下だ。
「お前は出て来るな!!気持ち悪いわ(ぞ)!」
バシンッ!
ドゴッ!
2人の声がハモると共に鈍い音がした。
うわっ、今のは絶対に痛い。春香は山下の頭を素手で叩き、雪奈は手をグーにしてお腹を殴った。
「えへ、えへへへ…グハッ…」
そして山下は倒れる。さっきよりも、もっととびきりの笑顔で。正直俺も気持ち悪いと思った。
「そういえばさ、竜二。最近目の下のクマとか凄いし、ふらふらしてるように見えるんだけど…大丈夫?」
「わ、私もそう思っておったぞ!何かあったのか?」
心配そうな表情で2人とも俺を見つめてきた。
…。俺ってそんなに顔に出やすいのかな?
「大丈夫だよ。最近ゲームのやり過ぎかな。それで睡眠時間が削られてるんだよね。」
「そうなのね。ゲームはほどほどにしなよ?」
「うむ、これに関しては春香?と同意だな。」
咄嗟に嘘をつく。本当はゲームなんてしていない。桜をいじめたやつへ復讐をするために、情報を集めていたんだ。
今の時代はネットというものがある。ここに1度でも書かれたものは完全に消すことはできない。
桜をいじめたやつは、何かしら桜のことを書き込んでいるだろう。そう思った俺は、いろいろな手段(具体的な方法は教えられない)を使って調べた。
すると、やはり書き込まれていた。他にも調べればまだまだ出てくるはずだ。この情報を高校に提出すれば、大問題になるだろう。だが、これでは気がすまない。桜は死にかけているのだから。これを使ってあいつらを…。
「竜?」
雪奈が心配そうに声をかけてきた。俺はいつの間にか、自分の世界に入ってしまっていたらしい。
「あ、うん、やりすぎないようにするよ。だから心配しないで。」
そう、心配なんてしなくていい。心配をしたって俺は無理をするんだからな。桜のために。
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昼間はこんなやり取りがあったな…とボーッと考えていた。はっ!いけない、こんな時間はないのだ。もっと調べてあいつらに桜をいじめたことを、後悔させてやる。
俺は顔をパシンッと叩いて目を覚まさせ、パソコンに向かった。
ドタッ
何の音だ…?何かが倒れた音が玄関からした。自分の部屋から出て、玄関に行ってみる。
「…!?ね、姉さん!?」
玄関には制服が汚され、擦り傷のたくさんある桜が倒れていた。俺は桜を抱き起こした。
「りゅう…じ…。」
「姉さん、いったい何があったんだ…この傷は?」
俺がそう言うと、桜は少し困った表情をして応えた。
「…前に私、シンデレラ役に…なったって言ったよね?シンデレラって最初さ、義理のお姉さんやお母さんにいじめられるでしょ…?その練習で…」
「ちょっと待てよ!だからと言ってここまでやるのは違うだろ…?」
考えてみればわかったはずだ。あのとき俺が止めておけば…シンデレラ役はやめた方がいいって言えば…。いや、結果は同じだな。きっと桜はシンデレラ役を引き受けていただろう。俺にはどっちにしろ何もできなかったんだ。
そう思うと、次から次へと涙が溢れてきた。
「竜二…?なんで泣いてるのよ…?馬鹿…。完璧に近いシンデレラをやるためには、必要なことなの…。時間もあまりないしさ…。心配、しないでよ…。」
桜が両手で俺の両頬を包んだ。少し冷たく感じる。
心配するなって言われても、心配するに決まってるだろうが。こんな傷だらけになってさ…。
「…とりあえず、手当てをしないと…。歩ける?肩、貸すよ。」
「うん、ありがとう。」
俺と桜は傷の手当てのために、リビングへと向かった。




