27 無邪気な笑顔。
「竜二、ハンバーグ作るのすごい上手だよね。ふっくらしていて、口の中でじゅわっと広がる感じがとてもいい。」
「ありがと。そう言ってもらえると作りがいがあるよ。」
桜は笑顔で話そうとしているが、元気がないのが見え見えだ。桜は今問題がたくさんある。クラスのことや彼氏のこと、それに道路に突き飛ばされて死にかけたこと。元気がないのも仕方のないことだ。
だから…家族である俺は桜の味方でいないとな。というかもともと俺は桜の味方だ。
「そういえばさ、姉さんの学校で中学生向けのイベントがあるんだって?」
「あー、うん。今年から出来た行事だよ。」
「確かクラスごとに何か出し物するんだよね?姉さんのクラスは何するの?」
「私のクラスは…シンデレラの劇だよ。」
なるほと。そんなイベント知らなくて当然だったんだな。俺が竜一のときはやはりそんなものなかったんだ。
それにしてもシンデレラか…桜は何の役なんだろう。
「そうなんだ。友達と一緒に俺も含めて4人で行くんだ。姉さんのクラスの出し物は行ってみるね。何の役をやるの…姉さん?」
桜の顔を見ると、頬にスーッと涙が伝っていた。
しまった。どうやら言ってはいけないことを言ってしまったようだ。
俺が慌てていると、桜は気を遣わせないようにと涙を急いで手で拭った。
「あ、えと、ごめんね。ちょっと目にゴミが入っちゃっただけなの。何の役かね?私は…シンデレラだよ。」
「…えっ!?姉さん凄いじゃん!」
「く、クラスの子がね…推薦したんだ。シンデレラ役似合うからさって…だから、ね。」
また泣いてしまいそうだから、グッと堪えているのだろう。桜は下唇を噛んでいる。昔も泣きそうなときは、下唇を噛んで我慢していた。クセって変わらないんだな…。
それにしてもシンデレラ役か…。絶対に何かあるな。
「あのさ、姉さんはそれでいいの?」
「えっ?」
しまった…何を言っているんだ俺は!そんなこと聞いたって何もならないだろ!?あぁ、桜が不思議そうな顔をしてるじゃないか…いったい俺は何をしたいんだよ!反応しにくいだろ!?こんなこと聞かれたら!!
次から次へと頭の中を、言葉が走った。それよりも桜に変な風に思われてしまう!いや、もう思われてるかもしれないけど!とりあえず謝らないと!!
「ね、姉さん!変なこと聞いてごめん!!」
自分で言っておきながら、ストレートだなぁと思ってしまった。そして、そういうのが全て俺自身の表情に出ていたのだろう。桜がクスッと笑った。
「いいのよ。『姉さんはそれでいいの?』か…。んー、そうだなぁ…」
目を閉じながら、桜はわざとらしく考えるポーズをした。
「そうね…正直シンデレラはやりたくなかったわ。でもね…」
急に立ち上がってクルッと一回転をした。
もしも長い髪のままで、ツインテールだったら…それはそれは可愛かったんだろうな。でもツインテールじゃなくても…今のままでもとても可愛い。
記憶を取り戻す前だと『ツインテール>桜』だったけど、今は絶対にその逆だと感じる。
「せっかく私を推薦してくれたんだから…私はこれでよかったと思ってるよ。」
無邪気な笑顔で話す様子を見て、とても愛しく思う。この笑顔を守りたい。そのために俺は復讐をするんだ。
桜の笑顔を見て俺は改めてそう感じた。




