25 敵。
「さっきの女の先輩はB組だったよな…」
桜の組の教室から出て左斜め上を見ると、『3年B組』と書かれたパネルが目に入る。
あの女の先輩に桜のことを話してみよう。優しかったしきっと聞いてくれるはずだ。
そう思いながら数メートル歩き、B組の扉の前に着いた。中には何人か人がいそうな気配があったので、ノックをしようと思った。その瞬間、中から大きな笑い声が聞こえた。
「きゃははははは!」
「え、マジで!?ヤバイんだけど!!はははは!!」
「それは面白すぎでしょ!!」
あの女の先輩の声は聞こえなかったが、中で誰かが話しているとなると入りづらい。
キリの良さそうなところで教室に入るか、いっそ今日は帰ってしまい、また後日学校へ潜入して、あの女の先輩を探して声をかけるか…
後の考えは、かなりのリスクを伴うのでとても悩んだ。結局俺が導き出した答えは、キリの良さそうなところで教室に入る方だ。
「マジあいつなんなの?」
「ホントさー!調子乗りすぎてるんじゃない?」
「だからあんなことになってるんだよ。」
…中で話している内容は、どうやら気に入らないやつがいて、そいつの陰口を言い合っているようだ。
今の俺にとっては、あまり聞きたくないものだ。桜の件で、想像以上に敏感になっている。
だが、苦手なやつの1人や2人は誰でもいるだろう。俺は極力聞かないように、窓の外をボーッと眺めた。
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…女子っていったいどれくらい話すんだ?かれこれ30分は待っているが、絶えず話し声が聞こえてきて、入る機会を完全に失っている。
「仕方がない、帰るか…」
窓の外を眺めるのをやめて、校舎の外へ向かって歩き始めた。
「そういえばさー!昨日あいつに大怪我をさせようとした子がいてさー!道路に突き飛ばしたんだって!」
「あ、それ知ってる!確か…明日香ちゃんじゃなかったっけ?」
「明日香ちゃんって…あいつと一緒のクラスの明日香ちゃん?でもあいつ、今日学校来てたからさ、失敗したってことだよね?」
「確かあいつ明久と付き合ってるよね?明久が助けたとか?」
『道路に突き飛ばした』?それに『明久』?
歩くのをやめて、その場に立ち止まった。
嫌な予感がした。鳥肌が立ち、体が震える。
そんなはずはないと考えたいが…。
「ううん。明久は助けてないよ。だって明久はあいつのことがうざいから、裏切って絶望させるために付き合ってるだけだもん。
助けたやつはたまたま近くにいたあいつの弟だよ。明日香ちゃん、すごい悔しがってたって噂だよ。」
「そりゃ失敗したんだから悔しいでしょー!成功していればしばらく…もしくはずっと学校で顔を合わせなくて済むんだからさー。」
「うんうん。成功して欲しかったなー。あいつ…有園桜、うざいもんね。」
…どうやら嫌な予感は的中してしまったようだ。
それにしてもそんな理由で桜と付き合ってたのか…。
少しだけ俺の口角が上がる。
「ちょっと!!こんな大声で何を話してるの!?」
あの女の先輩の声がした。少し怒っている気がする。言い方的に、きっと陰口を注意するのであろう。
しかし、現実はとても残酷だった。
「もっと静かに話さないとダメでしょ?いくら嫌いでいなくなればいいって思ってもさ、大声で話すと先生とかに聞かれてめんどくさいことになるよ?
まぁ先生たちは気づいてると思うけどね。この間あいつの席見たときすごかったからさー。さっすがクラスの子全員からいじめられてる子は格が違うわ~!」
「…!!」
嘘だろ…あんな優しそうだった先輩も桜のことを…。
これは予想以上に酷いのかもしれない。
「ちょっと~美幸ちゃんもなかなか声でかいよー!」
「ごめんごめん。つい声がでかくなっちゃうわー。…あ!そういえばさっきさ、あいつのクラスに後輩の男の子が、お姉ちゃんが忘れ物をしたって言って何か取りに戻ってたんだった!」
「それならあいつの席、きっと見てるね。かわいそー。衝撃受けたんだろうな~。」
あぁ。衝撃なんてとっくの前に受けてるよ。
本当は桜の陰口を聞いて、こいつらのことを殴りにかかりたかった。しかし、直接桜に関わっていじめているわけではないようなので、ここはグッとこらえた。
それにしても…ははっ、敵が明確になったぞ!敵は…桜のクラスのやつ『全員』だ。
そして桜の彼氏の『明久』と、桜を道路に突き飛ばした『明日香』…!覚悟しておけよ?
心の中で俺は誓う。桜を傷つけたやつは何かしらで仕返しをしてやる、と。




